不戦の誓い3

早起ハヤネ

第1話 乗合馬車

「ホントにカンバさんにあいさつに行かなくてもいいの?」

 フリーダは心配そうにたずねた。

「いいんだよ」オルヴィスは語気を強めて言う。「あらたまってあいさつに行くほどキレイな関係じゃねーし、そもそも、いま村に戻ったらまだ役人どもがいるかもしれねぇし、いつだったか盗賊どもが村を襲撃した時だったか。その時にもお前が危険を知らせようと戻った時にもヒドい目に遭っただろ。今更戻っても、いいことはねーと思うな」

「そうだったね」

 ついこの前のムスティリ村での出来事を思い出してフリーダは身震いした。

 あの時は、自分の安っぽい正義感のせいで、自分だけでなく、オルヴィスの命まで危険にさらした。

 やはり後ろは振り返らずに、前だけを見ないといけない。

「次はどこへ行くの?」フリーダは空を仰いだ。「めっちゃいい天気。ここからだと、エスペランサ村なんかどう?」

 エスペランサ村は、製造業と鍛冶が盛んで、特に刃物や刀剣は質が高いとして知られている。オルヴィスにとっては、イヴァルディという有名な鍛冶屋の打ったとして有名なオノが喉から手が出るほど欲しい一品である。もちろん高級品である。

「エスペランサ村は……ダメだ」オルヴィスは珍しくためらうように口にした。

「え? どうして? イヴァルディの故郷だよ? 行ってみたくないの?」

「よく考えろ。俺は鍛冶屋じゃねえ。多少は林業の仕事があるにしても、やっぱりオレにはエスペランサ村だけは、ダメだ。いくらイヴァルディの故郷でもな。観光に行くんじゃねーしよ」

「エスペランサ村だけは、ってどうゆう意味?」

「あの村は刀剣や武具をメインに製造してんだぞ。戦争がクソ嫌いなオレが、戦争のサポートをしてる村へ行ってどうする? オレは人殺しの道具で稼いだ金で、生きていくのか? 冗談じゃねえ。そんな矛盾まっぴらゴメンだぜ」

 オルヴィスの意思は強固だった。兵士になりたくないから。戦争をやりたくないから徴兵まで拒否し故郷の村を出たのに、戦争のために必要な武具を作る村で過ごすのは、オルヴィスにとっては簡単に割り切れるものではなかった。

 では行く先はどうしようかと二人で頭を悩ませている時、後ろからカラカラと音がして、同時に振り返ると馬車が近づいてきた。

「乗合馬車だ」オルヴィスは喜んだ。「ちょうどいい。あれに乗ろうぜ」

「他に誰か乗ってるのかな」

 乗合馬車は、街と街、国と国を結ぶ移動手段である。乗り合い、ということもあり、他にも客が乗る可能性がある。御者は目的地の一番遠いところまで、各街を経由しながら走る。

「おおーい!」オルヴィスは止まるよう手を振った。

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