第二三階 不遇ソーサラー、我を失う


 目眩とともに頭が真っ白になりそうだった。エリナって、やっぱりあのエリナなのか? いや、でもよくある名前だし、名前が同じなだけで別人じゃないのか……? だって、あいつの固有スキルは【反射】なんだぞ。手を出せば通り魔だって無事じゃ済まないはず……。


「……」


 俺はしばらく狭い部屋の中を右往左往したあと、外へ出ることにした。例の教会へ行くためだ。ないと思うが、可能性を捨てきれなかった。本当にやられたのがエリナなのかどうかこの目で確かめなきゃいけない気がしたんだ。


 アパートからダンジョンへ続く大通りを真っすぐ走っていくと、やがて十字架を雄々しく掲げた教会の尖塔や飾りと化した鐘が、脇に聳える建物群の合間から覗いてくる。


 あれ、もうすぐなのか。こんなにも早く着くなんてな。俺、どんだけ急いでるんだ……ってか、なんでこんなにも必死になってるんだ。やられたのは絶対あのエリナじゃないって……。


「……はぁ、はぁ……」


 もう走れない。きっと自分がここまで闇雲になってるのは、こんな別れ方じゃ後味が悪すぎるからだろう。このまま死なれたら困るしな。ただ単にそれだけのこと。それに、どう考えても俺の知ってるエリナとは別人だと思う。被害者には悪いけど、それを見届けたあとでお祈りしてから帰ろう。


 大通りから路地に入り、しばらく歩くとようやく教会の入り口が見えてきた。


「――おい、止まれ!」

「ここは関係者以外立ち入り禁止だ!」

「あっ……」


 アーチ型の門を潜って中へ入ろうとしたところで二人の教会兵に道を塞がれてしまう。そうだ、ここはもう一般人が祈りを捧げるところではなく、ダンジョンでの死者や患者を回復する専用の場所になってたんだった。確か一般人だと家族でもない限り入れないんだよな。こんなことに今頃気付くなんて、よっぽど気が動転しちゃってたってことか……。




 ◆◆◆




名前:マイザー

年齢:24

性別:男

ジョブ:ソーサラー

レベル:50


LEP531/531

MEP884/884


ATK30

DEF575

MATK159

MDEF105

キャパシティ10


固有スキル


【転生】【先行入力】【効果2倍】

【レア運上昇】【先制攻撃】【必中】

【鉄壁】【呼び戻し】


パッシブスキル


ムービングキャスト7


アクティブスキル


コールドボルト5

マジックエナジーロッド7

エレメンタルプロテクター2

サモンノーム1

インビジブルボックス5

ベナムウェーブ6

サモンシルフィード4

フレイムウォール5

エレメンタルブレス2


「うおおおおぉぉっ! コールドボルト――マジックエナジーロッド!」


 俺はあれからダンジョンへ行き、牛エリアで暴れていた。そうでもしないと気が狂いそうだったからだ。なのでかなり適当ではあるが、構成スキルはこの階で必須のコールドボルト以外、前のものをほぼそのまま残す形にした。


『ブモオオォォォオオオッ!』

「おらっ! どうした来い! 化け物ども! 俺を殺してみろ! 早く殺してみろよっ!」


 マジックエナジーロッドでミノタウロスの太い足を砕き、巨体を倒してから牛頭を木っ端微塵にしてやる。【先制攻撃】と【鉄壁】があることで、やつらには俺のほうが化け物に見えていることだろう。


 きっと、やられたのは俺の知ってるエリナじゃない。でも、もし本当にあのエリナだったら……。


「うるぅぅぁああああぁぁぁぁああああっ!」

『『『ブモオオォォォォォッ!』』』


 気が付けば俺は牛の塊に突っ込み、返り血で真っ赤に染まりながらロッドを振るっていた。無茶苦茶な動きでも【必中】で当たっちゃうんだな、これが。威力も【効果2倍】で凄まじいし、【レア運上昇】のおかげで周囲はドロップしたカルビだらけだ。今夜は焼肉パーティーとしゃれこむかな。突然死角に現れた猛牛も、【先行入力】していた杖の軌道で足を無残に砕かれていた。


 あの教会にはリザレクション8を持つ神父がいることで知られてるが、死者は家族の許可がなければそういったスキルを使えない決まりなんだ。何故なら失敗する可能性も充分にある上、復活しても記憶喪失になる可能性が高いから。なので家族が現れなければ丸一日放置され、翌日に葬儀が執り行われるようになっている。


 つまり……もし殺されたのがあいつだったら、このまま……。


「ああああぁぁぁぁあああああああっ!」


 いつしか、俺はマジックエナジーロッドの効果が切れたあとも牛を叩いていた。そのため、やつらはどんどん集まってきて俺を攻撃するが、【鉄壁】のせいでほとんどダメージを感じなかった。なんでなんだよ、早く殺してくれよ。俺のせいでエリナは死んでしまったんだ。俺のせいで……。


「――ひ、酷い怪我だ、早く手当てをっ!」

「リザレクション!」

「だ、大丈夫なのか!?」

「息はしてます!」

「……う……?」


 起きると、俺はまだ生きてるようでリザレクションの上で横たわっていた。なんだ、助かったのか。死ねばよかったのに。どうせエリナは助からないんだから。


「お、おい、君!?」

「どこへ行くんだ!?」

「危ないですよ!」

「……」


 後ろからごちゃごちゃと誰かの声が聞こえてくるが心底どうでもよかった。何もかも、もう終わったことだから……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る