第八階 不遇ソーサラー、生まれ変わる
「もう僕に構わないでください。パーティーには別の人を誘ってください」
冒険者登録所にて、深刻さを漂わせながら向かい合う少年と少女がいた。
「ど……どうしてそういうこと言うの!?」
「……」
6か月ほど前に15歳になり、冒険者になったばかりの少年、カイルにはさっぱりわからなかった。この女の子がどうして自分に構うのか。貧乏人で、能力だって大したことがない今の自分に、一体どれほどの価値があるのかと思っていたのだ。
(なんで僕なんかに構うんだ、この人は……)
唯一、彼の中で誇れるものといえば【先行入力】という固有スキルだった。何もない空間に限って攻撃できるというものだ。罠のようなもので、例えば空間を切りつけたあとにそこに3秒以内に誰かが飛び込むと切り傷を受けるというものである。一見凄そうだがタイミングが限られるし、追いかけてくる冒険者やモンスターから逃げるときくらいにしか使えそうにない、と彼は考えていた。
「もしかして、可哀想とかそういう気持ちで私があなたに接してるって思ってるの?」
「そうじゃない。あなたと僕では住む世界が違いすぎる」
彼女については、ちょっと短気だが本当にいい人だとカイルは思っている。でも彼には眩しすぎた。自分は幼少の頃から親に捨てられ、盗むことで生計を立ててきた。ダンジョン内ですら、冒険者を殺して金を奪うという非道な行いをしてきたのだ。怒り狂った冒険者に捕まり殺されそうになったところを、彼女は助けてくれた上にパーティーにまで入れてくれた。だからこそ、これ以上一緒にいるべきではないと思ったのである。
「あなたには本当に感謝しています……エリナ」
「カイル!」
少年カイルはダッシュしてダンジョンへと潜っていく。追いかけてくる少女エリナを振り切るように猛然と。込み上げていた涙は見せたくなかった。カイルは振り返らないように頑強な思いを並べる。
(一度血で染まったこの手を洗い流すことはできない。だから僕はこれからも一人で生きていく。たった一人でも成り上がってみせる……)
◆◆◆
――まだ死んでいない、だと……?
確かに俺は生きている。死に損なってしまったのか。ここはどこだ? 階段のようだが、あいつらはいない。おそるおそる上がってみると扉があった。どうやら俺は登録所の前にいるみたいだ。あまりの眩さに顔をしかめる。
ようやくこの明るさに目が慣れてきたが、なんかやたらと広く感じるな。中にいる冒険者たちも大きいやつばかりだ。まるで俺が小さくなったかのよう。まさかと思って両手を見た。違う、これは俺の手じゃない。こんなに小さいわけがない。
トイレに駆けこんで鏡を見てみると、俺は少年になっていた。わけがわからず、十秒間くらい頬を撫でていた。これは一体、どういうことなんだ。黒いレザージャケットにくたびれたズボン……シーフのような格好をしている。持ち物を確認したが何も……ん?
足元に違和感があって、靴の中を探ってみると何かあった。これは……こんなところにマジックフォンを忍ばせていたのか。結構丈夫とはいえ雑な扱いをするものだ。とりあえず簡易ステータス欄を確認してみよう。
名前:カイル
年齢:15
性別:男
ジョブ:ローグ
レベル:28
LEP466/466
MEP343/343
ATK18
DEF16
MATK58
MDEF52
キャパシティ5
固有スキル
【転生】【先行入力】
パッシブスキル
模倣3
アクティブスキル
ハイド3
スティール5
フレイムボルト3
固有スキルを見てマジックフォンが震えた。【空欄】だったはずの固有スキルが【転生】になっている。
【転生】――命を落とした際、既にダンジョン内で亡くなっている者を復元させる形で転生することができる。その際は元の体のレベル、記憶、能力等を受け継ぐ。
なるほど。死んだことで未知のものだった固有スキルがこうして発現したわけだ。【転生】なら、確かに死ぬしか発現する術はないな。
しかも二つあるということは、これはつまり――ダンジョンで亡くなったカイルとかいう少年として転生したことで、その固有スキルを受け継いだ形なのか。姿形、年齢、ジョブ以外はほぼ変化していないのがわかる。何度か深呼吸してようやく震えも止まり、落ち着いてきた。もう一つの固有スキルの説明も見てみるか。
【先行入力】――何もない空間に限り攻撃可能。3秒以内にその空間に入った人間にダメージを与える。
癖のあるスキルだが、使い方によってはかなり有効そうだ。攻撃ということは、物理でも魔法でもいけるんだろう。とりあえずローグについてはよくわからないので元のジョブに戻そう。できれば服装も変えたい。
名前:カイル
年齢:15
性別:男
ジョブ:ソーサラー
レベル:28
LEP366/366
MEP593/593
ATK16
DEF13
MATK77
MDEF71
キャパシティ5
固有スキル
【転生】【先行入力】
パッシブスキル
ムービングキャスト2
アクティブスキル
マジックエナジーチェンジ5
ベナムウェーブ5
インビジブルボックス3
マジックエナジーロッド4
これでようやく本当の自分が戻ってきたような気がする。所持金欄を確認するとジェムが90ジェムしかなかったが、それで安物のローブと杖を用意することができた。ソーサラーの衣装もよく似合ってるじゃないか。鏡の中の自分がにんまりとしている。俺ってこんなにも残虐な笑顔を作れたのか。しかも極自然に。
ソフィア、ルーサ、ジュナ、エルミス、ローザ……見ていろ。必ず1人残らず最後まで痛めつけて殺してやるからな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます