大事なもの

内藤理恵

第1話

(もう三時間も待っている)

 美和子はいいかげんうんざりしてきた。

 インターネットの情報や人から聞いた話では、最近のメンタルクリニックは待ち時間が長いという。

 まさか忘れられたのでないかと心配もあるが、予め予約をとって来ている上、ここはそう大きくもない病院である。受付のスタッフさんとも何度も目があっているのであまり心配する必要はなさそうだ。周りを見渡すと皆、待ち時間の長さに慣れているようで、スマートフォンを見ている若者や雑誌や本を見ている人が多数を占めている。

(小説でも持ってくればよかった)

 何もやる事が無いと時間は長く感じられる。

 しょうがない。念の為もう一度医師に何を相談するべきか頭の中で整理をする事にしよう。

 まず第一は物が食べられない事を言わないといけない。食べられないというのはおかしいのか。なぜなら自発的に嘔吐する事があるからである。

 胃の中に物がある事が我慢できない。そう表現するのが正解かもしれない。

 その為体重が激減してしまった。

 最近は道をすれ違う人が驚いた顔で美和子を見るのだ。例えて言うなら・・・、そう、友達が上手い表現をした。

「待ち針みたいだよね」

 手芸でいう待ち針のようなのである。自分でも体調がおかしいのは解っている。立っているのも座っているのも骨が床や椅子に当たって痛い。横になって寝ているのも骨盤が床に当たる。そんな箇所は全部皮膚が厚くなってタコのようになっているのである。

 最初は美を求めてダイエットしたはずが美とかけ離れた状態になってしまっているのだ。それは解っているがどうあがいても治す事が無理なのだ。

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