戦死
隊長とその護衛。激しい闘気を撒き散らしながら、円形防御に体当たりでもするかのような突撃を仕掛ける。攻撃を受けた兵の盾が飛び、剣が手から離れる。防御陣形の一角が崩れるの見て、他のオーク達も吠えながら遮二無二に突撃する。
英俊の眼前に、キルトアーマーを着て粗末な剣を持つ兵が、恐怖におののいていた。自分の腕が勝手に動く。その瞬間、その兵の首が斬り落とされた。
陣形を突破されたのに気が付いた陣形内の騎士達は、馬を駆り、穴を塞ごうと駆けつけてくる。英俊(百人隊長)の視線は、そいつらには目もくれず、深馬だけを見据えていた。
(大将の首だけは取ろうと考えているんだ)……絶対殺すマンってやつだ。差し違える気でいるのは明白だった。
だが、騎乗した深馬を守る騎士達の援護は余りにも早かった。百人隊長は騎乗していない。あっという間に包囲され、騎士達の激しい攻撃を受ける。百人隊長と共に陣形を突破した護衛達は、隊長を守るように周りを固め、絶望的な状況になりながらも、激しい闘志と憎悪を剥き出しにして戦い続けた。
(なんで……なんで、こいつら最後まで諦めないんだ?)
誰一人として(もう駄目だ)と言った悲痛な表情を見せない。眼に、表情に、決して弱気や怯んだ色を見せなかった。
"オークだからだ”
(……え?)一瞬、自分の脳内に低く重い声が響いた。
(誰だ?……”百人隊長"か?)
声はもう聞えない。
眼前のイメージは続いていた。百人隊長は何度か切りつけられながらも、それでも騎士の何名かを切り伏せ、馬から引きずり落として戦闘不能に陥らせ、深馬に接近した。
両手剣を握る手に力が入る。……もう目の前だ。
その時、突然視界に真っ白な光が入り、斜めに
右側には、水着のような鎧を着た粟國が笑っていた。百人隊長の血で濡れた剣を手に持ちながら。
人を見下すような。傲慢な顔で。
次の瞬間、またもやイメージが激しく動いた。逆側から斬られたのか。視線がゆっくりと左に向けられる。深馬が美しい彫刻を施された剣を持ち、馬上からこちらを見ていた。剣からは血が滴り落ちていた。
深馬もまた、酷く冷酷な顔でこちらを見ていた。酷薄な顔に薄笑いを浮かべた表情で。
その後、イメージは、ゆっくりと下を見る。地面が急速に近づく。倒れたのだ。
(というか、強力な斬撃を二回喰らっても立っていたのか……なんという根性だ)
視点は汚い地面と、自分が装着している篭手だけが映っている。篭手に彫られた獅子と蛇の線画が大写しになっている。
段々と視界が暗くなった。その時、篭手に描かれた線画が青く光り始めた。周りが暗くなるに従い、その光は急速に強くなり、それにつれて、心が急激に暖かくなるような安堵感と解放感に包まれた。
……目の前の青い光が突然消えた。視界一杯には青い光が残光として残っていたが、それも徐々に消えて無くなり、真っ暗な闇が広がった。
……そこでイメージは消えた。
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