オーク

<百人隊長殿……百人隊長殿>




 (……声がする。頭の中に声が響く……どうしたんだ……俺は……バスが転落して……ん……助かったのかな?……ここは病院なのか?)




 <百人隊長殿はお疲れだ……『鷹の舞う地』での戦いで傷つき……そう一度はその生命の火を消したにもかかわらず、我が信仰する神『獅子と蛇』の救済で、その命を甦らせたのだ。暫く待とうではないか>




 <"深い水底の魚"様……おっしゃることはごもっともですが……時間が無い……もうすぐ、やつら……ハーシュ王国の討伐隊がこちらに向かってくるのです>




 相変わらず、脳内に声が響く。(なんだ?病室のテレビか?それともラジオか?……)英俊は眼を開けようとした。瞼を閉じていても眼前は明るく、電気のある場所か、夜では無い事は分かった。




 英俊はゆっくりと眼を開ける。……自分が腰掛けているのが分かった。胡座をかいて座っている。周りには……オークがいた。




 (は?)




 英俊は驚いた。(なんだ?俺はまだ夢を見ているのか?なんで……オークが居るんだ?)




 もう一度、眼の焦点を合わせる。やはり……いた。十数名のオークが車座になって胡座をかいて座り、こちらをじっと見ている。




 英俊の好きな人間に近い姿のオークだ。皆、頭髪を辮髪のように結い、顔には戦化粧のような奇妙な文様を塗りたくっている。肌は緑色。引き締まった筋肉質な身体……もしくはアメフトかラグビーの選手かのように、盛り上がった筋肉を誇示しているのもいた。皆が皆、下顎からは牙が突き出している。




 (もしかして……)英俊はハッとなり、自分の手を見る。粗末な鉄製の籠手をしている。拳の部分には棘状の突起物が付いていて、相手を殴った時の攻撃力が増すようになっていた。指は分厚い革製の手袋になっていて指の上面は、薄い鉄板が貼り付けてある。


 前腕を保護する部分は鉄製だ。紀元前の壁画のような下手くそなひっかき傷のような線画が施されている。




 (なんだ……? これ獣と……蛇か?)


 (……我が信仰する神『獅子と蛇』の救済)英俊はさっき脳内に響いた声を思い出した。




 (獅子と蛇のつもりか……下手くそだけど……なんか引き込まれる)




 そのひっかき傷のように彫られた線画は、確かに下手くそだった。だが何か見入ってしまうような魅力があった。技巧が無い代わり、製作者の剥き出しの躍動感や熱意を感じた。




 上腕部をそっと見る。自分の腕とは思えない筋肉が隆起している。長倉の腕も凄かったが、それを凌駕していた。少し腕を曲げるだけで筋肉が膨れ、うねり、逞しい力こぶを作り出した。ただ、その筋肉を覆う肌は緑色だった。




 (え?……緑? やっぱ俺、オークになったのか?)




 驚きで声を出そうとする。上手く口が開かない。ひどく話しずらい。英俊は、周りのオーク達を見てあることに気が付き、自分の顔……口の周りを撫で廻した。




 (……やっぱり)




 牙が生えていた。口蓋もヒドイ受け口になっていて、とにかく話づらい。(それにしても……これが現実なら、なんでオークなんかになったんだ?)

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