吉報の白花
ゆたか@水音 豊
博愛と秩序の色
「お疲れー。今回も頑張ったな」
手紙世界から帰還した辰哉を真っ先に迎えたのは、共に戦いの場に在ったシースの姿だった。
軽やかに手を上げたままの動作の意味が察せない辰哉ではない。渋々とだが、己の掌を軽く勢いをつけて千鳥の手へと当てる。パン、と小気味の良い音が響いた。
満足したように笑った千鳥が、一転してまじまじとした視線を辰哉の身体へと向ける。遠慮のない目に、辰哉の方も怪訝な態度を隠さずに尋ねた。
「……どうした」
「んー、最近は迎撃戦だっけ? 終わった後も傷だらけなことばっかりだったからさ。戻ってきて無傷なのが新鮮だなーって」
今回の世界の危機の直前まで、二人は誓約生徒会の一員として霧の帝都に派遣されていた。そこでの戦いはブリンガーにも負傷が残るものだったため、今回のようなドレスを解除すれば傷が残らないステラバトルというのは千鳥の言うように久しぶりだった。
「ステラバトルであれば本来はこういうものだろう」
「うん。そうだよな、思い出した。だからお前がピンピンしてるの見て“ああ、そいえばそうだったな”って安心した」
思いがけない言葉に辰哉の眉が少し動く。その反応にふっと柔らかく笑い、千鳥は言葉を続けた。
「お前って基本的に自分の事は二の次で戦うじゃん? その度にオレはハラハラしてる訳なんだよ」
「戦況を見て最善を尽くしているだけだぞ」
「そーいうトコなんだよなぁ」
わざとらしく千鳥は溜息を吐く。けれど顔には『仕方がないなぁ』と言わんばかりの受容の笑みが浮かんでいた。「文句があるか」と睨め付ければ、緩く首を横に振った。
「いーや。だってそれがタツヤだし? ま、何にしても、無事で何よりってことで」
眉間の皺にも一切揺るがない緩やかな笑みに、辰哉は何も言い返せなかった。憮然とした態度のまま、戻ってきたばかりの世界の様子を確認しようと足を進めた。
軽やかな足音が、何の迷いもなくそれに従った。
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