彼岸花に神のレバーを添えて

@Lopi

第1話

俺の娘は化け物だ。生まれて数日しか経ってないのに俺の視線を目で追っては何かの意味を持つ言葉を口からもぐもぐとする。


聞いてはいない、いないが、唇の形からして俺をバカにしているのは確実だ。あほな親を引いてしまったと言っているのを聞いた気がした。俺を何か被害妄想の塊だと思うだろう。


俺もそう思って最初は普通に可愛がろうとしたんだ。だが何もかもがおかしかったんだ。初めからまるで知っているかのように、まだ骨が柔らかい手と指を動かしながら間接一つ一つを確かめた。


何かが取り付いている?わからん。俺は幽霊だのなんだの、決して信じたりはしない。いや、幽霊と言うのは考えようとするもんじゃねぇ。考えたって答えなんか出やしないし俺みたいな、勉強なんてしない、本なんて読まない、ただ日々を暮らすことだけ考えてる人間には、ない頭を回したってわかることじゃねぇ。


だから友人や仕事仲間に相談してみりゃ、俺がただの被害妄想で頭の中がおかしくなっていたことではないことはわかった。何かがない限り泣いたりしない、人を見れば観察はすれど不思議がったりしない。そんな赤ちゃんなんてありえねぇって話だったんだ。


試しに俺が何か話してみたら俺の目を見て、まるで意味が分かっているかのような表情で聞きあがった。他のうちはどうだかって?そりゃ言ってもわかるわけがないに決まってる。


だがあれは、彼女は単語じゃなく話そのものに反応し、口を開こうともしないし表情も変わらない。可愛がろうとした妻も徐々に彼女のそういった態度を薄気味悪く感じるようになった。


必要最低限のことだけやった。最近は児童虐待だなんだうるさいから、それくらいやらないと刑務所行きになるかもしれねぇからだ。


妻は授乳だけはやってたが、ありゃ気が進んでやってるんじゃねぇ。いや、ありゃ感じてるな。聞いたことがある。授乳をすると赤ちゃんは噛みついて痛いんだってな。けどあれは、舌で舐めながら吸ってるって、聞いてみりゃ答えてくれたんだけどよ、お前、どうかしてるぜ。


だがそれだけだ。離乳食が食べられるようになってからは、明らかに避け始めていた。俺だけじゃない、お前もかと。彼女は何があっても泣かない、発音は拙くても伝わってくる。はっきりと。俺より頭が回るが、ありゃ天才とかそういうもんじゃなく、学のあるやつを相手にする時の感覚と同じだ。


「もしかしてさ、転生とかしちゃって、前世の記憶とか持ってるんじゃないの?」妻が言う。


「じゃあ、あれか。あれは俺たちの子供じゃなくて中身はまるで別人ってわけか。」俺が答える。


「そうなんだけど、不気味なのよね。絶対やばいことやってた人間でしょ。」


「なぜそれがわかる?」


「しゅう君だって同じこと思ってるでしょ?しゅう君の学校、ヤクザの子供とか通ってたじゃん。」


「そいつらが全員やばかったわけでもねぇが。」


「どうするの?あれ、今更捨てたりしたら大変なことになるんじゃないの?」


「……殺そうか。」


「それは冗談でも言わないで。産むときどれだけ痛かったか。」


「成長したら俺たちを殺したら、その時後悔しても遅いぞ。」


「さすがにぶっ飛びすぎでしょ。不気味でも綺麗じゃない。」


「俺とお前に似てな。」


しかし俺はこの時の言葉が実現してしまうとは思えなかったのである。そう、俺はそれから幾年が経った頃、実の娘のわけのわからない力により殺された。


ああ、くそ。くそ、くそ、くそ、くそ。


──────


 この度、私、死んでから10年後の時代にめでたく超能力者として転生することになりました。


 死んだ年が1986年の夏、生まれたのが1996年の秋。ロシアがまだソビエト連邦だった時に撃ち殺されて死んで、生まれ変わったら共産主義国家は殆ど残ってない。


 時代の変化を感じつつ産声を上げたのも束の間。親がとんでもないレベルの地雷でした。


 つい最近まで工場労働者として、くそみたいなプライドをまき散らしながらろくな教育も受けずに育ち切ってしまったあほくさい若者の父親と、あほの分際で顔と発育だけは良かった、顔のいい父にあっけなく落とされてしまった、これまた頭の中空っぽの母親。


 ある意味お似合いのカップルと言わざるを得ませんが、それも子供がいない場合の話です。


 父親はお酒を飲んだ日には必ず私に向かって暴力を振るいました。


 その時母親は知らぬ存ぜぬを通して部屋の中でテレビを見ているのです。


 ボリュームを大きくして、私の悲鳴や殴打の音は聞かないようにする戦略です。


 どこにでもありそうな話なんですよね。


 最近はそうでもないかもしれませんが、社会には暗いところがそれなりにあります。


 人口が多いので、比率としては少ないかもしれませんが、数はそれなりにあります。


 数だけは。


 家の中では誰も彼を止められないので、一人娘に過ぎない私は坦々と殴られていました。


 その時はまだ弱く、超能力の力があると言うことは知らなかったのです。


 それとまだ喋ることが下手くそで、誰かに言っても聞いてくれる気がしません。


 父親は何も言わずに足で私の腹を、背中を蹴り、手のひらで顔面を、頭を殴っていました。


 痛みに対して免疫をなくしてしまった子供な私はたくさん泣きましたが、それくらいで許してはくれませんでした。


 別に悪いことをした記憶はないんですが。


 むしろ泣き声がうるさいからともっと殴られます。


 私は侍でもなんでもないのに何言ってんだこいつ。


 お腹蹴られると内蔵破裂して死にそうでしたけど、多分この時死んでなかったのは体が丈夫だったからとか、父親が手加減をしていたからとかじゃなく、無意識のうちに超能力を使って自己回復をしていたからなんじゃないかと。


 死ななくても子供を作れない体になるかもしれないんですよ。


 絶対今子宮のところまで衝撃が響いたぞ、って瞬間が何度かありましたね。


 別に自分の子供が欲しいわけでもありませんが、他人に勝手に体を壊されるのは決して許せることではありません。


 そういう意味で前世でも私の体を誤診した医者は殺していましたね。


 それを知らないのか父親は何の躊躇いもなく私を殴って殴って殴ります。


 あの、私の体はサンドバッグではないのですが。


 それに殴られると頭が悪くなるのです。


 人が人に殴られると人を信じられなくなるのですよ。


 女の私は自分の中に閉じこもるようになるのです。


 だからDVにさらされると知能が低くなったりします。


 私は転生者なのでそんなこともあまりないですけど、とめどなく怒りだけは湧いてきます。


 殴られると殺したくなるのが私なんです。


 手を出しちゃいけないやつに手を出したのを後悔させてあげたくなるのです。


 それにしても、核家族は本当くっそいらない制度だと思いました。


 家の中での政治が成立しない、子供が子供を育てているのに誰も突っ込まないんですよね。


 くそが。


 こんなに殴るぐらいなら子供は作らないで欲しいところです。


 それともサンドバッグとしての子供は欲しいものなんですかね?


 私もくそみたいな人間ですけどお前ほどではないと思いこみたいところです。


 ちなみに母親は居酒屋で毎日働いています。二人ともとても若いのです。


 子供が子供を作っちゃった感じなのです。


 私が3歳の時彼らは21歳でした。できちゃった婚としか言いようがないですね。


 二人とも顔だけはいいですよね。


 顔だけは。


 そんな二人に似て、私も大人になるとあんな綺麗な顔になりそうではありますが、興味ありませんな。


 顔なんて綺麗でもやってるのがあれなのが人間なんですよ。


 そんなあほくさいお二人さんでしたが、今になってはもう会うこともないでしょう。


 それなりに友人はあったらしいですけど、誰も彼らの顔を見ることはできなくなっちゃいました。


 もう死んでしまったのです。


 自分に超能力があることを自覚した日、真っ先にやったのが念動力を使い彼らを殺すことでした。


 母は首をへし折って、父はお腹を徐々に膨張させて最後は爆発。


 私がやったんですけど臭いし汚いですね。


 何となくそんな死に方をさせてあげたかったんですよね。


 臓物があっちこっちに飛び散りましたね。


 まあ、二人を殺害した現場は小さなアパートの部屋の中ではなく、そのアパート前にある駐車場だったので、証拠隠滅くらいは簡単にできました。


 もともと台風が来ていて風音で何も聞こえない。


 二階のベランダから彼らを飛ばして雨の中に転ばせましたね。


 誰の目も届いてない。


 いたいけな幼女にも目が届いてないのに、あんな親モドキに目が向くわけないんですよね。


 一応近くに行ってから聞いておきたいことはあります。


「娘を殴って何が楽しいの?」私の父親であると自己主張すらもしてない哀れな青年が、ぷるぷると恐怖で震えています。


 そうなんですよね。


 リアルホラー映画してる自覚はあります。


 確か、リングの貞子さんも超能力者でしたね。


 まあ、答えてくれないのです。


 私が続けて話すことにします。


「お前も殴られて育てたの? だから私を殴ったの?」


 多分そうなんじゃないかと思ってました。


 おじいちゃんはいかにも家庭内暴力を振るいそうなくそみたいな顔だったので。子育てが下手くそなやつは五万といますが、手を上げるやつはその中でも最低です。


 頑固で頭も悪いのは当然のこと。彼も肉体労働を専門としていました。


 別に労働者に対して偏見はないんですよ。


 私だってろくな人間ではないという自覚もあるので。


 けどね、別に前世でも親を殺したことはなかったんだよ。


 むしろ物心がついたころには親が死んで孤児になっていたので、今世では殺人鬼呼ばわりにもうんざりだったこともあって、できれば仲良く生きたかったんですよね。


 せっかく生まれ変わったんだから、手を血で汚したくはなかったんだよ。


 そうです。


 私はどこにでもいる普通のサイコパスだったのです。


 現在進行形でサイコパスの子供にもなりましたが。


 前世では殺しすぎた結果、銃撃戦の末に殺されました。


 相手はやり手の殺し屋、つまり同業者でして、私より銃の扱いがうまかったのです。


 銃刀法がある日本生まれな私には、一年を通して銃で殺される人間が15万人を超えちゃうアメリカで生まれたきちがい野郎を相手にするのは分が悪かったとしか言いようがないですね。


 しかし今世での私は超能力が使えるので、そう簡単にやられることはないと思います。


 思いたいです。


 と言うかあの男と出会いたくないです。


 15歳くらいのガキだったんですよね、私を殺した名前も知らないヒットマン君。


 アジア系とのハーフ見たいな顔で、後20年くらいならストライクゾーンだったんですけどね。


 まだ生きているんでしょうか。


 アメリカには行くつもりもないので、勘弁して欲しいです。


 ダブルタップを決められる気持ちなんて、もう二度と味わいたくない。


 そんなわけで親を亡くした私は、性懲りもなく孤児になりました。


 どうせ誰も私なんかを気にしちゃいないので、超能力を駆使してパチンコ屋、地上げ屋などを強襲してお金をもらいます。


 ヤクザの事務所を空っぽにするのも忘れてはいけない。


 別に正義のミカタ気取りではありません。


 警察が積極的に捜査しないからね。


 ああいう連中相手には。


 目撃者は記憶操作をして、監視カメラがあったら入る前に壊しておきます。


 謎の窃盗事件が立て続けに起きたところで、何が起こったのか説明できる人間なんて存在しない状況で、皆疑心暗鬼になってるところでしょう。


 せいぜい潰し合うといいです。


 5歳の私の総資産が一億円を超えてしまいましたので、金を管理する手段も欲しいですね。


 超能力は本当に便利なもので、前述したように記憶操作なんかお手の物で、永久的に洗脳することもできなくはないです。面倒くさいことになりそうなので、そんなことはしませんが。


 ただ一時的に睡眠状態にして、行動を操作することはできます。


 一時的な洗脳です。それで偽物の保護者を作り、通帳を作り、マンションの一室をも買い取り、密かに一人暮らしを始めました。


 元々住んでいた町からはずいぶんと離れました。


 どれだけ離れたかと言うと元居た町は関西で今いる町は関東です。


 周りの誰も私と言う人間を見たことがないです。


 まだ5歳とちょっとですが、精神年齢は40歳以上なので、問題ありません。


 今更ながら私はどこからどう見てもとんでもないレベルの美幼女…、ではなく美少女ですが、現実だと美少女だからって、芸能人でもない限り目立つこともないと思います。


 フィクションなら美少女は目立ちまくることになりますが、東京ジャングルで他人にそこまで気を向ける人間なんてあんまりいません。


 自炊生活は面倒だったので、浮浪者を適当に捕まってから超能力を使い洗脳して、適当に使っています。


 排泄とか食事とかの問題があるので、汚いおっさんを使うのは一日二時間限定です。


 臭いのは嫌なので、超能力を使い口と肛門と尿道を開けなくしちゃいます。


 これくらい罪悪感もくそもありません。だってほら、五体満足で生きているでしょ?誰が許してそうしていると思ってるの?


 まあ、対価として近くの綺麗な一軒家を買い取り、使える浮浪者共はそこに詰め込んでから生活するようしておきました。


 頭のおかしい詐欺師共とは違って、政府の補助金目当てで詰め込むわけではなく、普通に広いスペースで自分の部屋も確保できちゃいます。


 二段ベッドではありません。


 おっさんの匂いが染み込んではいても特に不便なところはないでしょう。


 お風呂も使えるし、たまには温泉旅行にも行って来いと、お金を握らせます。


 もちろん超能力で私が誰なのかわかってない状態にしてからです。


 認識阻害です。


 定期的にお金が入る通帳もつけて、お料理も教えて、簡単なスポーツも教えちゃいます。


 もちろん私が教えるわけじゃありません。


 その辺に転がってる暇そうな居酒屋の料理人を超能力で一時的に洗脳したり、またその辺に転がってる体育教師を捕まえてこき使う感じです。


 以前よりかはよっぽど人間らしい生活ができているんじゃないでしょうか。


 別に慈善事業のつもりではございません。


 ストレスをためると仕事の効率が減るのは当たり前なのです。


 なるべく家の中に入れたくないですけど、それしか手段がいないものでして。


 週に一回以上は体からものを出せる穴が開けなくなった状態で、美少女の家で奉仕する喜びを味わうこと以外は普通の人生と言えなくもないでしょう。


 そして普通の人間なら普通の効率で動き回ることができちゃいます。


 エロ同人だとこんなことしたら後で痛い目に遭って、最後はあへ顔ダブルピースを決めちゃいますが、超能力に頼り切りではなく、前世で培ってきた武術の鍛錬も欠かせないようにしているので、そういうことにはならないでしょう。多分…。


 私は彼らに家事を全部任せてから一日中部屋で遊んでいます。


 アニメや漫画やゲームが面白すぎるのです。


 トレーニングももちろんやっていますが、毎日やるのが重要で、時間が増えたところでそんなに差はありません。


 訓練に使うのは一日1時間で十分なのです。


 もっと年を取れば一日3時間まで増えますが、まだこの体は5歳の子供でしかないので。


 最近は無鉄砲な男の子が海賊王になるために頑張る物語が面白いです。


 喋る鹿さんを仲間にしちゃってて、もうワクワクします。


 可愛いモンスターを球の中に入れるゲームもやっていてあきません。


 カードを集めてステッキを回す魔法少女のアニメも好きです。


 こんなに面白いことがたくさんあるなら、別に人殺しで憂さ晴らしなどをする必要もないかもしれませんね。


 希望的な観測?そうですね、私は殺さないと狂いそうなので、目障りなやつは誰であろうが殺してやる。その血を飲みほしてやる。


 どうしてでしょう?笑みがこぼれてしまいます。

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