第63話 内緒話 2

「と言うか、まあ我慢するよりは、ほんの少し食べると言う方法ね。

例えばお菓子。

我慢はするけど、お母様の分を一口だけ分けてもらう。

お友達から一粒だけもらう、と言うやり方をしたの。

絶対に食べないと言う方法より、

一口だけでも食べれば満足感も違うでしょ?」


「お菓子だけでいいのですか?」


「私の場合は、お菓子だけだったけど、

例えば好きなおかずって、ついつい食べ過ぎてしまうでしょう?

それも一口ちょうだいにするか、小さなお皿に自分の分を盛ってもらうの。

見た目は沢山あるように見えるから、視覚的に満足感があるわ。」


「とてもいい方法だと思いますが、やっぱり寂しいわ。」


まあ、ダイエット中は、我慢の連続だからね。


「そう、だから私は週に1日だけ、ダイエットお休み日を作ったの。

だからと言って、その日は馬鹿食いしていいと言う訳では無いわ。

ただ普通に、好きな物やスイーツを解禁したの。

一週間のうちの特別な日、その日が私に取って、とても幸せな日になったわ。」


「それっていいかもしれないわ。」


「先生、それで結果はどうでしたか?」


「そうね、個人差があるでしょうから、私の数値は単なる参考ですが、

一月で2キロほど痩せたわ。」


2キロも!と驚いている子もいれば、それだけ…。とがっかりしている子もいる。

やはりポッチャリちゃんほど、がっかりしている子が多いようだ。


「ダイエットは、結局は日々の積み重ねです。

無理な方法を取って、早く痩せようと思っても結局は体を壊すのが落ち、

ならば気を長く持って、少しづつ無理のない方法でするのが一番ですよ。

あなた方はまだ若いんですもの、

例え一月2キロでも、10か月で20キロも減る計算ですよ。

まあ楽観的に考えた数字ですけど、

とにかく継続できる方法を考え、諦める事無く続けるのが一番です。」


さっきまでガッカリしていた子が、今は目を輝かせている。

20キロ………そう呟いていた。

少しでも力になれたならいいのだけれど…。


「さて、ダイエットで他にお話ししたい方はいますか?」


誰も手を上げる様子が無い。


「では、他にお話したい事はありますか?」


「先生のお話が聞きたいです。」


一人の生徒が手を挙げ、そう言う。

プライべートな事は話せないわね。

それならと、一つ思いついた事を話し始めた。


「それでは、女の子だけの秘密のお話をしましょうか。

これは殿方に言わない様に。

皆様はレディーファーストと言う言葉を知っていますか?」


はい!と数人の子が手を上げる。


「紳士が女性を思いやり、優しく丁寧に接する為のマナーです。」


自信たっぷりにそう言う。

そうなのよね、私もそうだと思っていたわ。


「ほとんどの方がそう思っていると思います。

男性の方もそう考えている人が多いですね。

でも、本来の意味は違うのです。」


さて、この話を聞いて幻滅しなければいいけれど。

まあ、現実を知っておいて、損は無いでしょう。


「これから私が話す事は、男性ですら思い違いをし、

皆が思っているレディーファーストを、

真実と受け取っている方もいらっしゃるでしょう。

男性には、今から話す事は内緒にしていた方が賢いと思います。

さて、レディーファーストとは、

先ほどアンが言った意味通りだと思っている方は?」


すると、殆んどの子が手を挙げた。


「先生、もしかして違うんですか?」


「ええ。実はこの作法が出来た当時、本来の意味は真逆だったのです。」


嘘~。真逆ってどういう事?

皆が興味津々だ。


「後から本来の意味通りの作法も付け加えられましたが、

元々有った物は、女性にとってかなり隷属的でした。

例えば、知っている物を言ってみて下さい。」


「えっと、男性がドアを開け、女性を先に通してあげる。」


「そうですね、これも当初からあった作法の一つです。

今はある程度平和な時代ですが、昔は暗殺や人殺しが横行しておりました。

それで男性は、暗殺者が自分を襲ってくることを恐れ、

先に女性を部屋に通したのです。」


「酷い!」


「そう言う時代だったのです。男性上位の時代はそれが普通だったのですね。

他の例を知っている方は?」


「女性を馬車から守るため、車道側を歩かせない。」


「ええ、これも同じです。

少々汚い話ですが、昔は汚物などは窓からそのまま捨てる事が普通でした。

車道の反対側に有る物、それは建物ですね。

つまり女性をそちら側に歩かせ、上から降ってくる物を男性は除けたのです。」


「つまり、女性は盾ですか?」


「そう、その通り。」


「でっ、では先生、もしかして女性が食事に手を付けるまで、

男性は食べないで待つと言うのは………。」


「分って来たようですね。

それは女性を毒見役にしていたのです。」


みんなショックを受けたようだ。

この話題は、振らない方が良かったのかな。


「ですが、現在はそのマナーを考え違いしている方が多いのです。

だからこの話は、あなた方の胸の中にしまっておいて下さい。

男性のプライドも有るでしょうし、

今の時代、上から汚物が降ってくるなど無いでしょう?

ですから男性も、自分を盾にして馬車から女性を守っているつもりなのですから。」


ごめんなさい、あなた達の夢をすっかり壊しちゃったわね。

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