第62話 内緒話 1
余り長居をしては、もしスティールの見張りが付いていた場合、
怪しまれるだろうと言い、おじい様は次の日、早々に帰って行かれた。
お帰りになるおじい様に、何度か自分の屋敷に来ないかと誘われたけれど、
やはり私はこの仕事をやり通したい。
せめて今いる子達を、立派な紳士淑女にする…、
いや、一通りのマナーを身に付けさせるまで、
ここを動く訳には行かない。
そんな私の気持ちを思ってか、おじい様は諦めモードで旅出って行った。
「ごめんなさいおじい様。
お休みを勝ち取ったら、必ず訪ねて行きますから。」
私は心にそう誓った。
さてさて、授業も順調に進んできたが、ある日ふと気が付いた。
サラ・ハガードのポッチャリが、始めに比べて少々増しているのだ。
美を保つのも、淑女のたしなみ。
私は授業が終わった後、彼女を引き止めた。
「こちらに通うようになって…、いえ、それを理由にする訳では有りませんが、
つい、こちらでいただくお菓子がとても美味しくて、
ついついつい、買い求めてしまうんです。」
確かにお菓子の説明をする時に、どこで買えるかを伝えている。
つまり彼女は、週三回ここで美味しいお菓子を食べてから、
家でも気に入ったお菓子をタラフク食べていると見た。
「先生のおっしゃりたい事はよく分かっております。
以前に比べて、少し…大きくなりました。
自分でも自覚しているのですが、どうしても止められなくて。」
少し…そうね、少しよりちょっと多めみたいだけれど。
「先生にご相談しようと思っていたんです。
けれど、ついズルズルと…。」
ズルズルと食べていたのね。
「いいわ、以前お約束もしましたし、
今度の授業は、皆でお茶会をしましょうか。」
「えっ、そんな、お茶会と言えば美味しいお菓子…。
そんな殺生な。」
そう言いつつも、サラの顔のは歪み切っていた。
「それまでにあなたは、自分でもどうしたらいいのか考えておきなさい。」
そう言って窘めたつもりだったが、
彼女の考えは、どうやら違う方を向いていたようだ。
今日のおやつは、先週教えていただいたお店のマドレーヌにすべきか、
それとも今日教えていただいた、バームクーヘンにすべきかよね。
悩むわ………。
まあそれもサラの憎めない個性だろう。
さて、当日は、レディー講座Aクラス。10人全員が出席をした。
「今日はお茶会をいたしましょう。
と言いますか、女の子同士の秘密のお話です。
だから今日は無礼講。
お友達と過ごすように話してね。
では、最初のお話はダイエットに付いてです。
皆さんはダイエットをした事が有りますか?」
すると、大多数の子が手を挙げた。
「そうね、私もした事が有るわ。
では皆さんの経験を、結果も含めて聞かせてもらいたいわ。
では、そうですねぇ、カトリーヌはどういうダイエットをなさったの?」
「はい、私は甘いものを一切取らない様にしました。
でも凄く辛くて。
だってお姉さま達がおやつを食べていても、我慢しなくてはいけないし、
大好きな甘いオムレツも我慢したんですよ。
結局6日で挫けてしまいました。」
「まあ、それを6日も。」
「ずいぶん頑張りましたね。」
「私には無理ですわ。」
かなりの賛辞を受けている。
「甘い物を我慢するのは辛い事ですものね。
では、ケイト、あなたの話を聞かせて?」
「はい、私は食べ物を最小限にしました。
パンは食べず、主食を野菜にして。と言ってもその量も極力減らしました。
お肉やお魚も一切取らず、お腹が空いたら、お水でごまかしました。」
何人もの驚きや驚愕の声が聞こえた。
「随分と無茶をしましたね。
体は大丈夫でしたか?」
「いえ、結局7日で倒れました。
お母様たちにもひどく怒られました。
実は私には好きな方がおりまして、
もっときれいになって、その人の気を引きたいと思っていたんです。
だから、お母様の忠告も聞かず、我を通していたんです。」
「あの…、ケイト様、その好きな方とはどうなったんですか?」
「結局は私の一人よがり、その方には他に好きな人がおりました。
だから私は、外見だけでなく、内側も綺麗で立派なレディーになって、
もっと素敵な恋を見つけるんです。」
動機はどうあれ、自分を磨くと言うのはいい事だわ。
「先生!先生もダイエットをなさった事が有るんでしょ?」
サーシャが興味津々と言うような顔をして聞いてくる。
「ええ、有ったわね。」
「先生は、スタイルはいいんですもの、一体どういう事をなさったんですか?」
おっと~、”は”と来ましたか。
まあ、自分の容姿に自信を持っている訳では無いけれど、
少しばかりショックだったわ。
まあいいでしょう。
私は気を取り直して、その質問に答える事にした。
「私は、ちょっとちょうだい作戦をしました。」
「「「「ちょっとちょうだい作戦?」」」」
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