第54話 開校
彼女の名はサラ・ハガード。
14歳の一人っ子。
お母さんはデザイナーで、お父さんは被服販売をしていると言う。
どうやらスカーレットの店にも卸しているらしい。
「好きな事は美味しいスイーツを食べる事。
悩みはこの体型です。
矛盾していると言われますが、どうにもやめることが出来ません。
どなたか、いいアドバイスが有りましたらお教え下さい。」
わかる。その気持ちはよ~く分かります。
席に着いた彼女に向かい、それも後ほど皆さんで相談してみましょうと伝える。
レディーにとって、かなりの問題でもあるはずだ。
続いて最後の赤毛の子を指名する。
「ドロシー・ローズと申します。
父は工場を経営しております。
兄弟は兄が二人おります。
上の兄は父の仕事を手伝っておりますが、
下の兄は学生で、最高学年の8年生です。
好きな事は、サラさんと同じく美味しい物を食べること、
悩みはこの冴えない赤毛です。」
「あなたの髪は、そう冴えなくも有りませんよ。
嫌いな色だからと言って、お手入れを怠っていませんか?
もう少し手入れをして、つやを出す様にすれば、
きっと見惚れるような髪になると思いますよ。」
すると彼女は目を丸くし、顔を赤らめた。
「マーガレット先生、私の髪の色っておかしくありませんか!?」
「いいえ、そんな事は有りませんよ。
あなたの髪は、白系統のドレスにも、
ダーク系のドレスにも、とてもよく似合うと思いますよ。」
「あ、ありがとうございます!
さっそく今日から、髪の手入れを頑張ります!」
そうね、自分を磨く事も大切ね。
一通り自己紹介を終えた後は、情報収集の時間。
「あなた達は、立派なレディーになりたいのでしょう?
一体何を習いたいのかしら。
もし良ければあなた達の希望をかなえられるように、
力を貸す事も出来ると思うの。」
ルイ―ザの出してくれたお茶やお菓子をいただきながら問いかけてみる。
「いえ、先生。
逆に立派なレディーになる為には、何を学べばいいのか教えて下さい。」
チェルシーに逆に問い返された。
そっかー、そうだよね。
「分りました。
私も教師を務めるのは初めてですので、手探りながらもお手伝いをしましょう。
では、休憩をはさんで初めてのダンスレッスンをしましょう。
その前に、何か質問は有りますか?」
はい、はい! 質問していいですか!? 私も!
途端に教室がにぎやかになった。
「全員に疑問が有るようですね。
分かりました、お一人づつ伺いましょう。」
一番賑やかだったドロシーに話を振る。
「先生は独身ですか、もしかしてダール先生と付き合っているとか。」
「そう言う質問は、初対面の方には相応しくありませんね。
もう少し親しくなってからの話題です。
まあ答えとしては、私は独身であり、彼とはお付き合いをしておりません。」
ドロシーはすいませんと言いながらも、満足げだった。
「さて、次はチェルシーさん。」
はい!と元気良く立ち上がる。
「先生のお年は幾つですか?」
「二十一歳です。」
「二十一歳?」
「ええ、そうですが?」
少しさばを読み、二十一歳としたけれどおかしかったかしら。
「うっそ~。
私と5歳しか違わないんですか?
もっと上かと思っていました。
先生、そんなドレスより、もっと年相応のドレスを着るべきです!」
つまり、老けて見ると言う事か。
もっと年上に設定しておけばよかった。
「一応私も教師となるべく整えたまでです。
TPOを重視しておりますので、気にしないで下さい。」
何と無く少し不服そうな顔をして、は~いと返事をするチェルシー。
それは立派なレディーがとる態度では有りませんね。
最後にサラの質問を聞く。
「先生はこちらには来たばかりと聞きましたが、どの町から来たんですか?」
「クレドールです。」
「クレドールって王都の?」
「ええ。」
「もしかして……、本物の貴族様…。」
「ま…あ。末席ながら伯爵籍を持っています。」
「「「キャア~~~~ッ。」」」
五月蠅い……。
なるほど、スカーレットはその事を一応秘密にしていたのね。
宣伝になるからと、もうバラしているとばかり思っていた。
私ったら、墓穴を掘ったかもしれない。
その後ダールさんの手を借り、ワルツの基本を教えその日の授業を終えた。
どうだった?大変だった?
仕事に出ていたスカーレットが、帰宅後しつこく聞いてくる。
「まあ落着いてよ。」
私は今日有った事をスカーレットに報告した。
「私が年なのかしら。
若い子のテンションて凄いのね。
でも、スカーレットが生徒を3人だけにしてくれて助かったわ。
あのぐらいなら、余裕で完璧に教えることが出来そう。」
「それならまだ余裕が有りそうね。」
その不気味な笑顔。スカーレット、一体何を企んでいるの?
「生徒の特典として、一人に一人だけ他の子に紹介してもいいとしたの。
だからよろしくね。」
初耳だわ。
でも一人が一人だけなら、計6人。
それぐらいなら何とかなるわ。
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