第53話 第一歩

「「「キャーーッ!」」」


教室に上がるピンクの悲鳴。


「いきなりそのような悲鳴を上げるものでは有りません。

いつでも冷静になさい。」


そう少女たちを戒めた。


「マーガレット先生、とても素敵。」


「ええ、本物のレディーに見えます。」


一応本物のレディーのつもりだけど、私もまだまだなのだろうか。


「これからは授業の初めは、このカーテシーを取ってからとします。」


「「「はい!」」」


「では最初のレッスンです。初めに両手でドレスの両端をつまみ、

少し上げるように…………。」


私は早速カーテシーの講義に取り掛かった。


「それでは裾を上げ過ぎです。」


「足を引いた時は音を立てない。」


「もっと流れるような動きで。」


形は教えたが、とてもじゃないけど優雅とは程遠い。


「形は覚えたようですね。

後は指先までの動きを意識し、より優雅になる様に心得て下さい。

ただやり過ぎは禁物です。反っていやらしく見えますから。」


うん、これは大事。


さて、次はお話をしましょうね。

そう言い、私が椅子に腰かけようと思った時、

何処からかダールさんが現れ、椅子を引いてくれる。

そんな事知らなかったから、かなりびっくりしたわ。

でも、それを表に出さず、ついでに講義をする。


「カップルの場合、このように女性が椅子に付く時、男性が椅子を引き女性が座りやすいように椅子を戻す事が通常です。

レストランなどでは、ボーイが変わりをすることも有ります。」


私を座らせた後、ダールさんは次々と女の子を回り、座らせていった。

女の子はダールさんを見て、ポーッとしながらも椅子に腰かけて行った。


「これは女性が長いドレスを着ているが為の行為です。

毎回行うことが出来無いと思いますが、またそのうち機会を儲けましょう。」


ダールさんは、ニッコリ笑いながら軽くお辞儀をし、部屋から出て行った。

そして入れ替えにルイ―ザがカートを押しながら入って来る。

いつもと変わらない、メイドのお仕着せを着ている。

それから一人一人、丁寧な所作でお茶を出していく。

いつ見ても完璧なメイドさんだわ。

その間も、私は少し講義を交えながら説明をしていく。


ルイ―ザが退室すると、さっそく二人の事を紹介した。


「男性はサンタモニカ・ダール様と仰います。

聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。

彼は優秀な建築家でいらっしゃいますから。

今回この講座のお手伝いをしていただく事になりました。」


ダールさんの姿を目の端で追っていた彼女達は、

それを聞き再び悲鳴を上げる。


まあ一応、見れる外見をしていて、動きもスマートだし、

年は少しいっているけど、この子達にとっておじ様ポジションの

アイドル的存在では有るだろう。


「女性の方はルイ―ザ・コルベット。

一応メイド的な立場ではありますが、

講義の手伝いなどもしていただきますから、敬意を忘れないようにして下さい。」


「「「はい、分かりました。」」」


素直で宜しい。


「では、次はあなた達に自己紹介をしてもらいましょう。

まずはあなたから。」


私は一番年かさのいった子を指名した。

戸惑った様子のその子は、それでも立ち上がり何とか話し出した。


「えーと、家は穀物の卸をしています。

あっ、名前はチェルシー・ハーロウ。

年は16歳です。

あと、えー、よろしくお願いします。」


「はい、ありがとうございます。

さて、あなたを例にする事は、大変心苦しいのですが、

一応心構えを教えておきましょう。」


それから彼女を立たせたまま、適した言い方を伝授した。


「……なので、”あの”や”えーと”などの表現は大変稚拙にとられます。

それらの言葉は控えた方がいいでしょう。

それと自己紹介をすると言う事は、

自分の存在を回りの方に知っていただくと言う事です。

なので、自分にしか無い物や、趣味や好きな物を加えるのもいいかもしれません。

ただ、自分を誇示する事や、他の方を見下すような発言は逆効果です。

敵を作る第一歩にもなりかねません。

とにかく、相手に不快感を与えないよう、

明るく笑顔で説明する方が、宜しいかと思います。」


一通り説明した後、もう一度チェルシーに発言し直す様に言う。

当のチェルシーは暫く考えた後、一呼吸置き、なかなかの自己紹介を披露した。


「私の名前はチェルシー・ハーロウと言います。

年は16歳。5月生まれです。

父はハーロウ商会と言う穀物卸問屋をしています。

あとの家族は母と兄が一人います。

兄は今、父の後を継ぐべく、勉強中です。

それから私の好きな事は、可愛いハンカチを集める事です。

多分5歳の頃から集め始め、今は110枚ほど持っています。

目下の目標は、この学校で先生の様な完璧なレディーになる事です。

皆様と同じ志を持つ者同士、仲良くして下さい。」


そしてよろしくお願いしますと言いながら、覚えたばかりのカーテシーをして、

しずしずと席に着いた。

みんなからはパチパチと拍手が上がる。


「大変良かったですよ。後は…、そうですね。

”言います”や”しています”等を丁寧な言い方に直せば完璧と言えるでしょう。」


良かったわよ~チェルシーちゃん、ちゃんとレディーに見えたもの。


「では次は、隣のあなたにお願いしましょう。」


そう言って、ブロンドのほんの少しぽっちゃりちゃんを指名した。

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