第52話 レディー養成所

「私はスカーレットの遠縁で、この町でレディー養成所を開く事にしたの。

よろしくね。

ただ事情が有って、いつもはさっきみたいに変装をしているけど気にしないでね。」


今私はルイ―ザの前で、素をさらけ出していた。

ルイ―ザは常に私の傍に居てくれるらしいので、

それなら変装前の私も知ってもらわなくちゃと思っての事だ。


「はい、承知しました。

では先ほどの姿を普通とし、

今のあなた様の姿は秘密と言う事で宜しいでしょうか。」


「そ…うね。それでお願い。」


スカーレットの言う通り、

彼女はかなりの切れ者で有り、良く出来たメイドのようだ。


「それで私は、通常のメイドの業務の他、

何かお手伝いすることはございますか?」


「あぁ、そうね。

追々状況を見ながらなのだけど、

もしかしたら、マナー講座の方で協力をお願いするかもしれないわ。」


実技でお茶などをサーブしてもらうのもいいかもしれない。


「はい、その時は遠慮なくお申し付け下さい。」


「そう言えば、ルイ―ザはダンスは出来て?」


「そうですね、ワルツ、タンゴ、

スローフォックス・トロットぐらいでしたらある程度は…。」


「そう…、ねえもしよろしかったら、

私の手が回らない時にダンス講座の助手をお願いできないかしら。」


「まあ…、初心者の方を対象にするのでしたら可能かと思います。」


それで十分。よろしくお願いします。

ただ、男性パートナーがダールさんのみと言うのは痛いわね。


「ならば、男性の生徒さんも募集してみたらいかがでしょう。」


ルイ―ザのその言葉は目から鱗だった。

そうか、そうすれば女の子も授業に熱が入るかもしれない。

男性側はダールさんに講師をお願いすればいいしね。

さっそくスカーレットに相談してみよう。


工事をしている間に、私達は何をどう教えるかと計画を練る。


「対象は初心者。

色々なレベルの人を、最初からあなた一人に任せるのは

負担が大きくなってしまうでしょ。」


ありがとうございます。


「手始めにマナーとダンス。

その二つから始めようかと思うの。」


後は女の子の話を聞きながら、決めた方がいい。


「そのうちに、上流社会に必要な教養とか知識、

男性のあしらい方と、え~と。」


「ちょっと、それって全部私が教える訳じゃ無いわよね……。」


「………必要であれば、助手を雇ってもいいわ。

それらの知識が有り、適役の人がいればだけど。」


結局私がやるんかい!



教室の工事も着々と進み、大きな鏡をホールに取り付け、完成となった。

でも考えてみたら、最初はスカーレットの手助けを何かしたいと思っただけなのに。

ここ迄お金をかけて、大々的に工事をして………。

つまり私の負債は膨れ上がり、生徒を抱えると言う責任も大きくなる。

一体私はいつまでこれを続ければいいのでしょうか。


「大丈夫よ、本場仕込みのあなたが基盤さえ築いてくれれば、

後はそれなりの講師を何人か雇えばすんじゃうわ。」


ジュリエッタがいなくなったらね。

とスカーレットは笑いながら言うけれど、

今、私がいなくなったら・何人もの人を・雇うって言ったよね。

つまりその何人もの人がやる事を、

それまで私一人がやらなければならないのだろうか。


「さて、準備は整ったわね。

では早速明日から開講としましょうか。」


「え、完成祝いとか、開校祝いとか、けじめを付けなくていいの?

広告とか出して、生徒さんを集めなきゃならないだろうし、

明日からいきなり始めるって出来ないでしょう。」


私がそう言うと、スカーレットは実にいい顔で笑いながら、


「生徒さんはもう集めて有るわ。」


と爆弾発言。一体いつの間に…。


「明日の午前9時には集合するように伝えるから、よろしく!」


「よろしくって、一体いきなり何をすればいいのよ!」


「何って……任せるわ。」


酷い!


初めはそんなに大勢じゃ無いわよ。

そうスカーレットに聞かされ、少しはほっとした。


ならば初日はお茶会でもして、情報収集をしよう。

あと残りの1時間ぐらい、教室っぽくダンスのレッスンでもしましょうか。




そして次の日、現れたのは3人の女の子。

女の子と言っても14歳が二人と、16歳が一人、夢見る年頃の女の子ね。

取り合えず声を掛けたのはこの3人だけよ。

そう言ってスカーレットがまたニンマリと笑った。

3人なら集中して教える事が出来るし、立派なレディに仕上げる事は可能でしょう。


私はそう思い、早速ルイ―ザにお茶の支度を頼んだ。

品よく整えられた教室の様子に、歓喜する女の子達。


「今日から淑女となるべく学んで下さい。

では最初に。」


私はテーブルに着く前に、最初の講義、

この子達の前で、優雅にカーテシーを披露した。

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