第40話 計画実行

それから数日後、

学生時代の知り合いが、急に訪ねて来た。


その日は父母とも出かけいて、

屋敷には執事やメイドぐらいしかいなかった。


「ご無沙汰しております。ジュリエッタ様。

お変わり有りませんでしたか?」


「まあ、お懐かしい事。

スカーレット様こそ、いかがされいてましたの?」


一般的な儀礼とも取れる会話をする。


「ふふ実は私、結婚しましたのよ。」


「え、結婚なさったのですか?」


「はい、遠縁の方なのですが、とてもお優しい方で、

今は夫の仕事を手伝いながら、幸せに暮らしていますの。」


「まあそうなんですか。」


それからお茶を飲みながら、たわいのない話をしていた。

あれからどうしていたとか、あの人はどうしていますかとか。

私も子供も欲しいけれど、まだ恵まれないとか。

う~ん、現実的な話だな。

それから突然スカーレット様が、学校へ行ってみたいと言い出した。


「まあ今日はお休みですから、学校には生徒はいないでしょうし、

卒業生が入り込んでも、あまり怒られる事は無いでしょうけど、でも…。」


「ね、行きましょうよ、久しぶりですもの。

お昼はどこかのカフェでいただいて、

そうだわ、久々に、他の方にもお会いしたいわ。

ジュリエッタ様もご一緒していただけると嬉しいわ。

ね、そうしましょう。」


そして私は、おばあ様からの連絡を気にしつつ、

押し切られるままに、彼女の馬車で、学校まで行く事になった。


「帰りは少し、遅くなるかもしれないわ。

何か色々と行く所が有りそうなの。

久々に会うお友達だから断り切れないのよ。

お父様達が早く帰られたら、そう言っておいてね。」


私は執事のシルバーにそう頼んだ。


「はい、畏まりました。

ごゆっくりなさって下さい。

お気をつけて。」


シルバーはにっこりと笑い送り出してくれた。


「それじゃあ、行ってくるわね。」


そう言って、私は屋敷を後にした。




「ご無理を言ってごめんなさい。

私も急だったので、どうやってあなたをお屋敷から連れ出せばいいのか、

あまりいい知恵が浮かばなかったの。」


屋敷が視界から消えた頃、急にスカーレット様の雰囲気が変わった。


「え?」


今までの経緯とは全然違う話が、急にスカーレットの口から飛びだし私は驚いた。


「実はね、私の主人は隣のグレゴリー出身なの。

今はあちらでかなり手広く商売をしているわ。」


「グレゴリー……。」


「そう、そして私はちょうどあちらに帰る予定だったの。

だからこそ白羽の矢が立ったのかもね。

そうそう、これを……。

あなたのおばあ様のマリーベル様から預かって来たわ。」


私はその手紙を受け取り、読むべく開封した。




『ジュリエッタ、急な事で驚いたでしょう? そこが味噌なのよ。

今日でしたら、あなたの両親も朝から家にいないでしょう?

私が無理を言って、家から遠ざけたのだから、帰りは遅くなる筈よ。

まあ、それについてはデーヴィット達もうすうす感づくかもしれないけど、

文句は言わせません。

とにかくあなたは、今一緒にいるスカーレットさんと、

出来る限り遠くに行ってちょうだい。

そうそう、あいにくトニアは腰を痛めて、こちらに来れないそうです。

でも、彼女の知り合いのスカーレットさんを推薦してくれたの。

あなたとも知り合いのようだし、丁度良かったわ。

やはり、偶然とは面白いものね。』


ええ、おばあ様ってそう言うの好きよね…。


『それから、もしかするとあなたには、

スティール様の尾行が付いている可能性がかなり有ります。

なるべくそれを巻くように、スカーレットは色々な計画を立てているみたい。

頑張ってね。

彼女には、あなたの為に、色々な物を預けてありますし、

シルバーからも荷物を託されている筈、後で受け取ってちょうだい。

それと身分証明書は、

ちゃんとグレゴリー帝国の王妃様にお願いして、手に入れておきました。

貴方はスカーレットさんのグレゴリー帝国での遠縁となっています。

口裏合わせは、二人で好きに相談してね。

では、あなたが無事逃げおおせる事を祈っています。


マリーベル。』



「………………。」


「状況はお分かりになった?」


そう言いながらスカーレット様がにっこり笑う。


「私まで騙すなんて、人の悪い……。おまけにシルバーまで……。」


「だって、よく言うでは有りませんか、

人を欺く時は、まず味方からと。」


「まあ、そうは言いますが、

まさか自分が対象になるとは思いませんでした。」


「ふふふ、で、その手紙はもうよろしくて?

状況が分かったのでしたら、そのお手紙をいただけますか?」


まあ、大体の事は把握できたからまあいいか。

私は素直にスカーレット様に手紙を渡した。

受け取った彼女は、おもむろに手紙を真っ二つに引き裂く。


私は驚き、目を見開いたが、

彼女は躊躇せず、手紙をビリビリに何度も破り、

最後には、全てをものすごく細かい紙の破片にしてしまいまった。

それからそれらを一枚の紙に包み、

差し掛かった橋の上から、ポンッと川に投げ込んだ。


「証拠隠滅完了。」


そう言って、スカーレット様は二コッと笑った。


「あなたが何をなさったのかは分かりましたが、

そこまでする必要が有りましたの?」


「ん~、物事何が有るか分かりませんから、

なるべく早くあの手紙の内容を消したかったのです。

まあ、燃やすのが一番手っ取り早かったけれど、

まさか馬車の中で火は起こせないでしょう?」


まあ走っている馬車から煙が上がっていれば、見た人は当然大騒ぎだわ。


「だからインクが滲み判別不能にする為に、水の中に入れる必要があったの。

だけど、紙吹雪のように蒔けば、尾行の方に異変を気付かれる可能性も有るし、

破片の何枚かが回収されるかもしれないでしょう?

まあ、あの細かさならそうそう解読できないだろうし、

もし解読できて、何かしらの情報が漏れる可能性もある。

そうなると少し厄介でしょう?

だから念には念を入れて、全てが水の中に落ちるように固めてからドボン。

あれならなただゴミを捨てたと思われるかもしれないでしょう?

紙吹雪よりもずっと、インパクトが弱いと思ったの。

まあ、騙されてくれるといいのだけれど。」


なかなか悪知恵がきく。

でも、それを考えたのはスカーレット様?それともおばあ様?


それからの私達は、到着した学校で一旦馬車を下り、

留めに行ったと見せかけた馬車に、裏口から急いで乗り込んだ。

それからクラスメートのサーシャ様の屋敷に行き、少しお茶をした後、

わざと目立たない地味な馬車にコッソリと乗り替え、

馬車通りの激しい往来で、サッとその馬車を下り、

止まっていた辻馬車に乗って、大きな商店の前で降りる。

その頃にはもう私はクタクタ。

でもスカーレットは私の手を引いて、さらにその商店の裏口に止まっていた、

また違う辻馬車に乗り換えたた。

その頃には、既に時計は、2時を回ってた。


「はぁ~、楽しいですわね、ジュリエッタ様。」


貴方はそう言って、まだまだ大丈夫よと言いたげな様子。

でも私はもうダメ…。

気は張り詰め通しで、凄く疲れた……。

スカーレット様って、パワフルでとてもしっかりなさっているのね。

まるで劇の中のヒーローの様ですわ。

しかし私は、悪漢から逃げ回る被害者の気分です……。


でも、スカーレットがいなければ、私はここまでできなかったのですもの。

貴方には感謝しなければ。

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