第41話 計画続行

「さて、まだまだ行きますわよ~。」


完全に楽しんでいらっしゃいますわね、スカーレット様。


「窮地は脱したと考えても大丈夫と思います。

後はあまり人通りのない道を選んで、力の限り突っ走りますので、

少しゆっくりできますわ。」


力の限り突っ走るから少しゆっくりできるって、

何と無く矛盾を感じるんですが…。

するとスカーレット様は、座席の下から大きなバスケットを取り出した。


「大した物は有りませんが、食事を用意しました。

お腹が空かれたでしょう?」


そう言って差し出された中には、

蒸し鶏のサンドイッチに、生ハムの野菜巻き。

チーズのココット、エトセトラ。

デザートにはメロンやイチゴの、果物の盛り合わせまで有る。

こんなに誰が食べるのかしら。


「ところでジュリエッタ様、車酔いは大丈夫ですか?」


「まあ、普通に大丈夫ですが……。」


「良かった。

実はこれは、レース用の馬車を改造し、競技用の馬をお借りしていますの。

借りると言っても、主人の持ち馬ですから、

足が付く事は有りませんよ。」


「レース……。」


「でも長距離用の馬ですし、スタミナは有りますから大丈夫ですわ。

ただ私は故郷と家を、何度も行き来してますので慣れておりますが、

少々揺れが激いので、ジュリエッタ様は大丈夫か心配しておりましたの。」


そう言いながら、スカーレット様は二つ目のサンドイッチに

手を伸ばしていらっしゃる。


「あら、どうぞジュリエッタ様も召し上がって下さいませ。

逃亡には体力も大切、

しっかり食べなければ、後々まで持ちません事よ。」


「い、いただきます。」


そう言って、赤いイチゴに手を伸ばした。

どうして私の周りには、こうも胆の座った方が多いのでしょう。

何故か自分は運命にコロコロと遊ばれているような気がした。



やはり食事は控えめにしておいて大正解でした。

やがて馬車は町を通り過ぎ、村を抜ける頃には道は荒る一方。

スピードは落ちたものの、馬車はガタガタとかなり揺れが激しくなっていた。

それでも馬は何事も無さそうに駆けて行く。

こうも揺られ続けて馬車は壊れないにか心配です。


途中で軽い休憩を取りながら進む馬車の中で、

スカーレットは何でもないように、話したり食べたり。

私は合槌をしながら、何とかこの揺れと戦っていました。


「そう言えば、マリーベル様からのご指示が有りましたね。」


「はひっ?な、何でしたっけぇ。」


揺れと必死に戦っていた私は、いきなりの言葉に戸惑った。


「ほら、私とあなたの続柄を決めておくようにと会ったでしょう?」


そう言えばそんな話が有ったっけ。


「あ、あの、よ、宜しければ、スカーレット様に、お、お任せしても……。」


「え、私が決めてもいいのですか?

任せて!

とても面白い設定を考えますわ。」


スカーレット様はワクワクとした表情で意気込んでいる。


「えっと、実はあなたと私は生き別れた姉妹で~、

それから……、最近引き取られた先の人が亡くなって

残された手紙で身元が分かって……、

それを頼りに街に出て来たあなたが王子様と偶然知り合って、

あなたと王子様は恋に落ちて、

王子様の助けで、親の元に辿り着くことが出来て~~。」


「スカーレット様、それは何という小説ですか…。」


「えー、何で分かったの?

”バラ色の運命”って言うの。とってもロマンチックでステキなお話なのよ~。

それからね、王子様と一緒に我が家に来たあなたは、」


「もういいです。私も一緒に考えます。」


という訳で、私はスカーレット様の義理のお兄さんのお嫁さんの妹、

まあ、赤の他人みたいなものだけど、取り合えず繋がりが有る程度でとどめました。


スカーレット様は、つまらないですわとブーたれていましたが、

そんな事にかまってはいられません。



それから何時間か走り続け、一つの村を通り過ぎ、

森にさしかかる頃、前方にちょっとした建物が見えてきました。


「お疲れになったでしょうジュリエッタ様。」


あぁ、ようやくあそこが目的地……、ではないですよね、多分。

日も傾き、星が瞬き始めています。


「無理は禁物、今日はあそこで休みましょう。」


いえ……十分無理をしたと思います。

あえて、口には出しませんが。

私は座っていただけとはいえ、もうヘロヘロです。


「でもジュリエッタ様が、追っ手の事が心配で早く前へ進みたいのであれば、

馬を変え進む事も出来ますよ。」


「いえ…、ご心配ありがとうございます。

でもこれから先は森が深いような気がします。

此処で無理をして、 森の中で獣にでも襲われでもしたらそれこそです。

残念ですが、今日はお言葉に甘えて此処で休ませていただきます。」


「そうですわね。それが宜しいかと。」


それから馬車は、その家の敷地に入り、

馬車から飛び降りた御者は高い門をしっかり閉める。

すると家の扉が開き、中からエプロンを掛けた、ふくよかな女性が出てきました。


「まあまあスカーレット様、とお友達の方ですわね。

お待ちしておりましたよ。

さあさ、中に入ってお寛ぎ下さい。

美味しいものも、沢山用意しておきましたよ。」


「ありがとう、クララ。」


そう言って、スカーレット様はその女性を軽く抱き締め、頬にキスをしていた。


「スカーレット様、お知り合いの方ですか?」


それならば、しっかり挨拶をしておかなければ。


「彼女は私の乳母だった人です。

今は引退して、此処で暮らしていますが、

私がグレゴリーと家を行き来する時は、必ずここに寄らせてもらっているのです。」


まあ、だからあれほどまでに親しげだったのですね。

この方なら、きっと信用できる。

そう思った私は、ようやく肩の力を抜くことが出来ました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る