第31話 番外編/大波 小波 2

その後、私は極力部屋からも出ないように心掛けた。


だって、おじさまは王様なんだよ。

きっと私の血縁を調べ上げ、端から尋ねるに決まっている。

もしかしたら国外の血縁も調べたんじゃないかな。

だからこそ、堂々とグレゴリーに来れるこの機会を利用して、

ここに来たんじゃないの?

とすると、大叔母様の家に来る可能性大!

まずい、これは凄くまずい。

私はこの屋敷に隠れているより、別の場所に隠れた方がいいかもしれない。


そう思ったんだけど、


「そんなに具合の悪い人が何を言っているの。

あなたの事は何が有っても私が守ります。

だから大人しくここにいなさい。」


ジゼルはそう言ってくれた。


ジゼルの言った通り、私は有難くここにに居させてもらったけど、

流石にパーティー当日は、凄く不安に駆られた。

やはり恐怖は拭い去れない。

とにかくどこかに隠れなくてはと思い、

クローゼットの服をかき分け、その奥に座り込んだ。

でも、様子を見に来たジゼルに、そこから引きずり出される。


「一体何を考えているの。

そんな所にいて、体を冷やして何か有ってからでは遅いのよ。

さっさとベッドに入りなさい。」


……怒られた。


確かにそうだ、ごめんね赤ちゃん。

あなたに何かあったら、悔やんでも悔やめないよね。

ここまで来たら仕方がない、もう開き直ってしまおう。

そう思ったら、気が楽になった。


そうよ、私はこの子の事だけ考えればいい。

後の事は後で考えればいいのよ。


そうとなったらクヨクヨしていてもしょうがない。

ジゼルの言う通り寝てしまおう。

ものね。

私は枕をポンポンと叩いて直し、

頭をうずめた。




ふと気が付くと、周りは真っ暗になっていた。


「夜?

ずいぶん寝ちゃったのねぇ。

何かお腹すいちゃったな。」


私はのそのそとベッドから降りて、そっと食堂に向かった。

もうみんな寝てしまっているかもしれないし、起こしてしまったら気の毒だ。

足音を忍ばせて歩いて行くと、何やら言い争うような声が聞こえてきた。


「やだ、誰か喧嘩でもしているの!?」


どうする?

立ち聞きするのは、はしたないかしら。

でも、大事になったら止める人が必要かもしれない。

私はそっとドアに近づき中の様子をうかがう。



「……ですから、彼女に会ったのはその時が最後です。」


「しかし、彼女らしき人が、この屋敷にいるのを見た人がいるんです。」


「その子でしたら、きっと行儀見習いに預かった、メイドの事ですよ。

何でしたら会ってみますか?

しかしもし間違いだと分かったなら、どうなさるお積もりです?

いくら国王殿下でも、それは隣の国での話。

たかだかメイド一人の事で、国際問題になるとは思いませんが、

一応私の主人も王宮に勤めておりますの。

この事が回り回って我が国の国王陛下の耳に入るかもしれませんね。」


おっ、おじ様ですよね!?

やっぱりいらっしゃったのね。

でも、流石ジゼル。

物凄く肝が据わっている事。やっぱり頼りになるわ。


「まあいいでしょう。

コリアンヌ、コリアンヌ。」


するとドアの音がした。


「はい、奥様。

何か御用でしょうか。」


あぁ、いつものメイドさんだ。


「こちらの方がね、あなたに会いたいと仰るの。」


「まあ、こちらの方が…ですか?

私に何か御用でしょうか?」


「いや、こちらにあなたほどの年のご婦人がいると聞いたので会いに来たのです。

名前はマリーベルと言います。

どちらにいらっしゃいますか?」


「どちらに……と申されても、

この屋敷には奥様と、

後は時々帰っていらっしゃるご主人様と私の3人しかおりませんが。」


「そんな筈はない。

確かに、こちらにいると聞いて来たんだ。

あなたの姪御さんの子供です。

ご存じなんでしょう。」


「そりゃぁ、存じておりますとも。

あの子の祖母の葬式に会いましたと言ったでしょう。

でも、私よりも親しい方が、お国では何人もいると聞きました。

それなのに、なぜ私の家なんて遠い所にわざわざ来るんです?

訳が分かりませんよ。

それとも、ここに来なければならないほどの、理由が有るんですか?」


「い、いや、それは……。」


「とにかく、ご希望に添えなくて申し訳ありませんが、

この子が言っている通り、我が家にはマリーベルさんはいらっしゃっておりません。

このような時間にいらしたのに残念でしたね。

もしよろしければ、お引き取り願えませんか?

年寄りは夜が早いので、そろそろ休みたいのですが。」


「………お騒がせしてもうし訳なかった。

何かお詫びを…。」


「そんなものいりませんよ。

この老人に必要な物は、穏やかな眠りだけです、

こんな夜更けには他に何もいりません。」


「それは…大変失礼をした。

申し訳なかった。」


そのすぐ後に、ドアの閉まる音がした。


おじさま…………。

私はすぐに飛び出して、おじ様の所に行きたいという衝動にかられた。

でも、そんな事をしては、何もかもが水の泡だ。


ごめんなさい、おじ様……。

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