第32話 番外編/大波 小波 3

とにかく今は、この子の為に頑張るしかないわ。

そう気持ちを切り替え、私は生きて行く。


あれから数日経った時、ジゼルから箱に入ったプレゼントをもらった。

中を開ければ、ウイッグが入っている。


「そろそろ悪阻も収まるかなと思って。

もし外に出る事が有ったら、それを被って行きなさい。」


よくよく見たら、このウイッグって、

メイドのコリアンヌさんと同じ髪色で髪型も同じ。

そっか、ウロウロするときは、彼女に化ければいいわけね。


「ありがとうございます、ジゼル。

これは私もいい考えだと思います。」


「あの男が早い事マリーベルの事を諦めれば、堂々と外を歩けるようになのにね。

本当に厄介な男だ事。」


ジゼルは本気で私の事を思ってくれているんだ。

私の心の中がホンワリと暖かさに満たされた。




やはり、平凡な日々はいいものだ。

色々な事があったけれど、心配事が無くなった途端

(実際はまだ少し心配事は有るけれど、自分自身が諦めがついて、

落ち着いた途端…かな。)

悪阻も、とんと無くなった。


寝起きもさっぱりしているし、何より活力が漲って、やる気が出てくるんだ。


今日も、目覚ましの鳴る前に、パッと目が覚めた。


「んー、いいお天気。

さて今日は陽気もいい事だし、庭の手入れでもしようかな。」


しゃがんで、雑草を長時間抜くのはさすがに怒られそうだけど。

伸び切った枝の剪定とか、枯れ葉掃除ぐらいなら大丈夫。

そう思ってお仕着せに着替えエプロンを掛ける。


流石に、枝の剪定はさせてもらえなかったけど、庭の掃除ぐらいはさせてもらえた。

ただしジゼルも一緒にだ。


「こんなにいい天気の日に、外で体を動かすのは、気持ちのいいものね。」


「ジゼル、私一人でも大丈夫ですから、どうぞ休んでいて?」


「まあ、それなら私もその言葉、そっくりそのままあなたに返すわ。」


そう言いながら笑っている。

何て穏やかで気持ちのいい日なんだろう。

こんな日がずっと続くといいのに。



それからは、私にはまだ秘密裏に見張りが付いているかもしれないと、

ちょっと不安になったり、

おじさまは、もう私の事は諦めたのかもしれないと思い、

安心する半面とても寂しく思った時も有った。


そんな気持ちの浮き沈みは会ったけど、それ以外は平穏の日々が過ぎていく。

赤ちゃんも順調で、お腹もポッコリと目立ってきた。

お腹が膨らんで、無様に見えると思う女の人もいるらしいが、

私は全然そんな事を思わない。

それどころか、もっともっとみんなに見てもらいたいぐらいだ。


ねえ、見て見て、この私のおなかには赤ちゃんがいるのよ。

もうじき生まれるの。

そう言って回りたい。

お腹の中の赤ちゃんはとてもよく動く。

まるでお腹の中で、ぐるんと宙返りをしているような感じがする。


「きっとこの子は男の子ですよ。」


そうジゼルは言う。


「お腹が尖がってきているし、良く動くのでしょう?

それなら絶対に男の子。」


そう自信たっぷりに言っていた。


お腹の子に、子守唄をうたいながら夜の空を窓越しに眺める。

おじさま、ごめんなさい。

あなたにこの子を授かった喜びを教えて上がられなくて。

だけど、あなたの分もこの子を愛します。

いい子に育つように頑張ります。


そう思いながら、同じ空の下にいる筈のおじさまに誓った。




やがて産み月が来て、ジゼルは気が気ではないようだ。

小さな変化も見逃すまいと、いつも私に張り付きハラハラしている。


「やだわ、ジゼルの方が妊婦さんみたい。」


そう言ったとたん、お腹にツキンと微かな痛みが走った。

顔を顰めた私を心配してジゼルが声を掛けてきた。


「大丈夫よ。ちょっとした神経痛かもしれないし。」


そう言って笑ったけど、暫くするとまた痛みが走る。

それが徐々に痛みを増す。


「もう、間違いないわ。

コリアンヌ、お医者様をお呼びして。」


「はい、奥様すぐに。

マリーベル様、すぐに呼んでまいりますから、頑張って下さい!」


そう言ってコリアンヌさんは飛び出していった。


「さあ、あなたはすぐに横になって。

これからが大仕事ですからね。」


そう言ったジゼルの気合は凄かった。

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