第19話 番外編/高級食料品店
それから私が連れてこられたのは、とある1軒の建物の前。
おじ様は、確か食料品店に行くって言いましたよね。
私はブティックに行きたいなんて一言も言ってませんよね?
そう、連れてきていただいたその店の雰囲気は、
まるでブティックの様におしゃれで、かつ、とても立派な建物でした。
「あの~、此処がおじ様の仰っていた食料品店なのですか?」
「そうだよ。」
私にとっては、信じられないようなお店だった。
だって私が知る食料品店は、こんな派手な店構えしていない。
どう見ても食料品店には見えない。
だけど、確かによく見ると、ウインドゥに並んでいるお洒落なパッケージは、
どうやらフルーツの缶詰みたいけど、
それも、私にはあまり馴染みのないフルーツだった。
そしてその横には、やはりあまり見た事の無い野菜らしき物が陳列されていた。
そして店の中心には、まるでドレスのような顔をして、大根やニンジンなど、見慣れた野菜達が鎮座していた。
おまけに、中に入っていく人達の人種が違う。
とてもきれいなドレスを着た夫人や、
とても上質な生地で作られたお仕着せを着たメイドさん。
果ては、とても立派なおひげを生やした、いかにも三ツ星レストランのシェフらしき人が、次々と入っていく。
私みたいな洗いざらしたワンピースに、
ちょっとシミの付いたエプロンで入っていく人なんて一人もいない。
でも、しょうが無いじゃないですよね。
だって近所のニコルさんの店に行くつもりだったんだもの。
「あの……。申し訳ありませんが、ここはちょっと………。」
「え、食料品店じゃ無かったの?
あぁ、雑貨とか……。」
「い、いいえ。
私の欲しかった物は、ありふれたチーズで、後は小麦粉とか、塩みたいなもので、
こんな高級品では無く……。」
「あぁ、それなら大丈夫。
ここでもちゃんと、君の欲しいものが売っているよ。」
おじさまはにこにこ笑いながらそう言うけど、
私は、あ・り・ふ・れ・た物が欲しいのです。
でも躊躇う私の手をぐいぐい引いて中へと入っていく。
だめよ、きっとそこに山積みになっている缶詰一つ買っただけで、
私の財布はすっからかんになる筈ですもの。
店内では、おじさまをチラッと見た店員が、慌てた様子で奥に入っていく。
すると、中から恰幅のいい男性が、こちらに走って来た。
「い、いらっしゃいませ。
これは急なお越しで、
今日はいかがなされました?
申し付けて頂ければ、こちらからすぐに伺いましたのに。」
「あぁ、いいんだ。
急に思い立ったものだから、気にしないでくれ。」
それとも急ぎだったかい?
そう言って、私に問うけれど、
まな板の上の鯉状態の私は、プルプルと首を振る事しかできなかった。
「えッと、必要な物は、確か小麦粉と、砂糖、塩。それとチーズだっけ?」
「はい、すぐにご用意します。」
多分店長さんが、すぐに店員さんに申し付けていた。
「そうだ、実は彼女はパン屋を営んでいるんだよ。
その材料なんだが、パン作りに適したものをお願いするよ。
私は彼女のパンとても美味しくてね。
私はそれの大ファンなんだよ。」
「何と、その若さでパン屋を経営しているのですか。
分かりました。
御希望の品が見つかるよう、私も精一杯ご協力いたしましょう。」
そう言って、店長さんは、おじ様と私を奥のテーブルに通す、
そして女店員さんが、次々とケーキやお茶を並べて行く。
私は此処に買い物に来たはずなのに、なぜ私達はお茶をするのだろう。
解せぬ。
それともここは、高級食料品店を装ったカフェか?
なんて馬鹿な事を考えていたら、おじ様が”ご馳走になりなさい”とすすめる。
おじ様が優雅にカップを傾けるその姿が、はまり過ぎていて眩しいです。
やがて、私たちの前には小分けにされた、多くの品物が並べられる。
たった4品の買い物になぜこんなに並ぶのだろう。
もしや、ついでにいろいろ買わせる気かも知れない。
用心しなくちゃ。
やがて店長さんがその口を開いた。
「さて、まずは小麦粉からです。
こちらの小麦粉は、南地のシトラールで収獲されたものです。」
シ、シトラールですって!?
あの注目の小麦粉ですか?
確かそれで作ったパンは、微かに自然の甘さが引き立つと言うあのシトラール産!?
「それからこちらは北州山脈の麓、コウラル産の小麦粉。
山脈が北風を遮るので、強い風にあたる事無く、穏やかな地域で収獲された、
とても上質の小麦粉です。」
えっ!それは凄い。
「次は、こちら。
グレゴリーから輸入された一級品の小麦粉です。」
一級品ですか!?
ちょ、ちょっと触ってみたい。
「しかし、私のお勧めはこれですね。
パンを作るとの事、でしたらこのアンメール島産の小麦粉がお勧めです。
北部にある島ですが、穏やかな天気に恵まれる島で、
寒暖の差が有るせいでしょうか、とても上質の小麦が収穫されるのです。
まあ、作られるパンにもよりますが、これでしたら間違いが有りません。」
アンメール島産の小麦粉ですって!
それってほぼ幻と言われている奴じゃないの!
欲しい、欲しいけど私の財布では買える訳が無いじゃない。
「続いて塩です。
もしこのアンメール島産の小麦粉をお求めになるのでしたら、
ぜひ同じくアンメール島産のこの塩をお勧めします。
こちらは島の海岸で、人の手によって作られた塩です。
やはり同じ土地で採れたせいか、とても相性がいいのですよ。
とても美味しいパンが出来る事は保証しますよ。」
「買った!!!」
私は思わず叫んでしまった。
でもお金が……。
「ふふ、では店主。
その二つをいただこうか。」
「ありがとうございます。
では後は砂糖とチーズでしたね。」
今度はたった一つの皿だけ用意された。
「こちらは南の平原、カルストの糖黍で作られた砂糖です。
少々癖がございますが、お客様が気に入られる事間違いなしです。」
少し舐めさせてもらったそれはとてもコクがあり、
生地にこれとナッツを練り込めば、とても美味しいものが出来る筈だ。
私の満足そうな顔を見たおじ様は、すかさずこれも注文していた。
その後、店長さんがパンパンと手を叩くと、奥から何枚ものお皿を持った女店員さん達が出て来た。
「どうぞお試しください。
色々な処で作られたチーズです。
これらも、それぞれ色々な特徴がございますので、
きっとお探しのものが見つかりますよ。」
店長さんが自信たっぷりに頷いた。
※※※※※※※※※※
今年はありがとうございました、良いお年をお迎え下さい。
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