第12話 勝敗は決す

「父上、スティールの考えは甘すぎます。

そんな施しをしても、国民はつけ上がるだけです。

納めるものは、きっちり納めさせる。

さもないと”何か有ったら国が何とかしてくれる”と思い込み、

それぞれ自分の努力を怠ります。

おまけに、自身での創意工夫をしなくなってしまう。

作物が取れなくなったなら、自分でどうすればいいのか、

強く、収穫が増える物が作れるのかを考え、工夫すべきです。

さもなくば、国に頼り切った自堕落な国民になってしまいます。

国の財産を放出?

それではまさかの事態に、金が無かったらどうしますか。

全く、スティールはまだまだ子供ですね。

国政と言うものをまるで分っていない。」


さも得意そうに持論を並び立てるアンドレア様。

確かにそれも一理あるかもしれません、

しかし、その研究をするにも、資金は必要となるのですよ。

一介の農民に、そんな資金が有るとお思いですか?

それに国民の感情を考えれば……。


「兄上、確かに兄上の言いたい事も分かります。

しかし今まさに、そのまさかの事態が起きようとしているのです。

分からないのですか、国民の事を蔑ろにして、良い国が出来るとお思いですか?

国民有っての国家です。

国民無くして国は成り立ちません。

それに、もし国民の多くが国に不満を募らせ、

それが膨れ上がり、暴動など起こしたらどうされますか。

国の財政を使い、それを鎮圧しますか?

それでは、鎮圧にあたった兵もかなりのダメージを食らい、

多くの民を失う事にもなるでしょう。

街も焼け、かろうじて残っていた作物にも影響が出るやもしれません。

一体幾らの損失になるでしょうね。

それでしたら、どうせ失った物かもしれないと諦め、

国民に還元してあげた方が、よっぽど有益では有りませんか。

まあ、これらは天気が回復さえすれば杞憂となりますでしょうが。

ですが、今から有事に備えておく事も大切と思います。」


パチパチパチパチ!


「だが!

だがそれは、単なるスティールの想像じゃないか。

実際に起こるとは限らないだろう。」


「では、兄上の言う通りにして見ますか?

そして、逼迫した国民の様子を眺めればいい。

果たしてその様子を見て、何も感じないようだったら、

あなたには国を背負う資格はない!」


悔しそうな顔をして、スティール様をにらみつけるアンドレア様。


「だが、国民はそう思わないかもしれないだろうが、

たとえ収穫が減っても、国に逆らわず大人しく税を納めるかもしれない。

暴動を起こす?そんな自分の命を懸けてまで、

無茶な事をする愚か者などいる筈が無い。

私だったらそんな馬鹿な真似はしない。」


そこまで言われても、自分の保身ばかり気にし、

有り得ないと言う理由を模索する。

ここまで言われて、まだ分からないのですか。

”そんな事を言っていては、”などと、

スティール様の言葉を否定しようと未だに知恵を絞っている様子。

そんな事に頭を回すくらいなら、もっと有意義な事に使いなさい。


しかし、そこまで言われても考えを改めない時点で、

貴方は既に国を背負う、つまり次期国王陛下となる資格は無いとおもいます。


今までの流れを見ていた会場の方々は、お二人の方に注目し、

何やらひそひそと話し合っています。

どうやら、私から興味がそれたみたいですね。

よしよし、このままアンドレア様を引きずり下ろし、

私の事は有耶無耶とし、さっさと逃げ出しましょう。


「お前達の考えはよく分かった。」


「「父上。」」


「ちょうどここには大勢の者達がいる。

ならば後に通達を出すより、今決められる事を決めてしまった方が手間が省けるであろう。」


その通りですわ国王陛下。

ここで一気に行っちゃって下さい。


「我が第一子アンドレアは、隣におるミレニア男爵令嬢と近日中に婚姻を結ぶ。」


陛下は声を張り上げ、そう宣言した。


「これに関してはわしも書面に認めた為、覆ることは無い!」


やりましたぁ、これで私はアンドレア様から完全に逃げ切った!


「しかし!アンドレアとの婚姻を結ぶミレニア嬢は男爵の身。

結婚するのにはいささか不都合となる。」


ま…あ、そうですが……。

もしや国王陛下、ミレニア様をどちらかに、いったん養子縁組をした後で王太子妃になさるおつもりですか……?


「従って、アンドレアの王太子としての位を剥奪したのち、ミレニア男爵令嬢との婚姻を結ぶものとする。

なお、空白となった王太子の座にはスティールを据える事とする。」


おおっと、まさかの爵位剥奪からの婿入りですか。


「そ、そんな馬鹿な!

私が一体何をしたと言うのです。

なぜこのような目にいきなり……。」


ごめんなさい。まさか私もここまでとは思っていませんでした。


「これと言うのも、スティールのせいだ。

お前さえいなかったら私は!」


そう言い、いきなりスティール様にとびかかるアンドレア様。

その手にはいつの間にかナイフが握られていた。


そんな物、一体どこに隠し持っていたのよーーー!


私は近くにあった銀色のトレーをつかみ、スティール様の下に走った。

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