第10話 令嬢 策に溺れる

「へ、陛下!

陛下が何を考えていらっしゃるのか、大方の想像は付きます。

しかし、私はたった今婚約破棄された身。

スティール様のお相手になど相応しくありません。」


「成程、

そなたが相応しく無いとなると、

他に誰かスティールに相応しい令嬢に心当たりがあると?」


そんな事、急に言われても…。


「はい、あの……。」


えーと、…アデレード侯爵令嬢は…、

いえ、あの子は可愛いだけで、お頭が少し足りませんね。

スティール様の隣に居ても、何の助けにもなりません。

却下!


他には、あー、カミラ伯爵令嬢。

ダメよ、あの方は女性として冷たすぎるわ。もっと暖かくスティール様を見守るような方でないと。


では、ケストレナ伯爵令嬢などどうかしら。

あの方だったら、お優しいし、思慮深くて……。

ダメ、ダメよ。

あの方の赤毛はちょっと…。

スティール様の隣には輝くような美しい髪が似合うの。

それにあの方の親戚筋には、確か賭博好きの方がいた筈…。


あっ、あら?

私は何故、王太子妃候補の粗ばかり探しているの。

もっといい所を探して、とにかくどなたかを紹介しないと。

下手をすると私はまた鳥籠に逆戻り。


誰かいないかしら。誰か……。

だめだわ、思い当たらない。



「申し訳ございません陛下…。

急な事で、すぐには殿下に相応しい方が思い当たりません。

しかし、必ず見つけてみます。

私よりも殿下に相応しい令嬢を」


「そうか。

まあスティールもまだ若い。

結婚するのはまだまだ先の話だろうから、それまで時間はたっぷりあるが……。

だが、多分無理だと思うぞ。」


はい?


「父上、私がまだ若輩者だと言う事は認めましょう。

しかしお忘れでしょうか、私も後2か月で16歳となります。

国で定められた、妻を持てる年になるのです。

まあ、私もすぐに結婚とは少々気が早いかと思いますが、

そう気長に待つつもりも有りません。

ただ、ジュリエッタ嬢が、私に相応しい他の女性を見つけ出すのは無理…、

と言う父上のお考えには賛成いたします。」


「そうか、そうであった。

お前も、もう16歳になるのだな。

うむ、うむ。

今までその事を考えてやらなくてすまなかった。

そうだ、これもいい機会じゃ。

この場でこの話を進めるのも良いかも知れぬ。」


「あの……、お二人の話を遮って申し訳ありませんが、

今はスティール様のお相手の話、

私は何としても、スティール様に相応しいお嬢様を、

お探しいたしますと言っておりますのに、

一体どうしてそれが無理と仰るのでしょうか。」


「ああ、まあスティールに相応しい女性に心当たりがあるからか?」


「と言いますか、この国の事を一番に思い、

且つ最高の女性を知っている……からですかね。父上。」


「まあ、でしたら私が探さなくてもよろしいのではないですか。

アンドレア様には、既に婚約者がいらっしゃいますから、その方との縁組は無理としても。

その令嬢をスティール様のお妃様になさればよろしいですわ。

そう、問題は解決。よろしゅうございました。」


「ふむ、そなたもそう思われるか。」


「はい、思いますとも。」


この際だわ。

それほどの令嬢がいるのならば、さっさとその方とくっつけて、

私は晴れて、自由の身。


「それは良かった。

と、本人が申しておるが。

リドホルム伯爵、どう思われるだろうか。」


「そう言われましても、私どもはやはり娘が大事。

本人同士が納得した上でなければ何とも……。」


国王陛下、何故そこで私の親に話を振る!


「陛下、私の親と一体何の話を…。

先ほど、スティール様にお似合いの、

国一番の令嬢がいると言っているでは有りませんか。」


「あぁ、確かにそう言った。

そう、わしたちの知る限り、この国で一番の最高の女性とは、

ただ一人しか思い浮かば無いのだ。」


まさか…それが私だなんて言わないで下さいね。

それに、こんなに大勢の方の前で、そんな事を言われた日には、

それは勅令にも等しくなってしまうわ。


「国王陛下、その話は……。」


「そうだな、ジュリエッタ嬢ほど、このスティールに相応しい女性はいないだろう。

のう、そなたらもそう思わぬか。」


あろうことか、国王陛下は会場にいる方々に同意を求めたのだ。

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