1.タケルの覚醒(あっさり)
「それにしても、アイツは本当にバカだったよな!」
「マイケル様の言う通りですわ! 根も葉もない自分の悪評を振り撒かれていることにも気づかない! なんとお気楽で、お人好しなのでしょう!」
「その結果、誰もタケルには協力しなくなった。多くの騎士、そして冒険者は私の配下となった! 魔王を相手にしても、これならば盤石だ」
「さすがですわ、マイケル様! あぁ、なんと聡明なのかしら!」
夜の王城にて。
マイケルと王女は、そんな会話をしていた。
語ったのは、自分たちがタケルに行ったすべてのこと。タケルという勇者を陥れるために、彼らがやってきた謀略のすべてだった。
「これで、私たちは結ばれます。あのようなブサイク勇者に嫁ぐ必要はない……」
「あぁ。あぁ、マイケル様……!」
二人は口づけを交わそうとする。
だが、その時だった。
「……え、俺ってそんなにブサイク?」
出入口の方から、間の抜けたタケルの声が聞こえたのは。
「な、なぜ貴様がここにいる!?」
瞬時に身構えるマイケル。
剣を引き抜いて正面に構えると、強い視線をタケルに送った。
「んー、なぜって訊かれてもね。お前たちを捕らえにきた、としか……?」
「と、捕らえにきた、だと……!? どういうことだ!!」
「えっとね、お前らの罪状は――」
ニッと、やや崩れたその顔に笑みを浮かべて。
タケルは大声でこう宣言した。
「魔王に与して、王国の転覆を狙った! ――国家反逆罪だ!!」
◆◇◆
俺が手に入れた力は、あまりにも荒唐無稽なものだった。
考えに考え抜いた結果、俺ことタケル・ムネチカが他者よりも優れていたのは『妄想力』というもの。それはどういったものかというと、子供が布団に入って目を瞑り、冒険の旅にでかけるようなこと。その延長線上の産物だった。
「うわぁ、なんかできるようになっちゃったよ」
考え抜いた結果、ある日俺は自分の身体に起きた変化に気づく。
というのも、今までどれだけ鍛えても割れなかった腹筋が割れていたのだ。うん、どうでもいいところから気づいたと、我ながら馬鹿々々しく思うよ?
でもさ、そこから応用したらヤバい力に目覚めたって気づいたわけ。
「えっと、それじゃ試しに……」
俺はそこで、思いついたのだ。
この力――妄想具現、は少しかっこ悪いから『夢想魔法』にしておこう――を用いれば、自分を取り巻く環境すべてを一変できるのではないか、と。
そうと決まれば、一つ最近仕入れた情報から妄想してみることにした。
そう。マイケルの悪行が、すべて明るみになったら――と。
マイケルが魔王に通じている可能性。
それは、とある噂話として耳に届いたのだ。
そして同時に、数々の勇者が敗れ去った理由、それは情報を魔王に流していたからだということを。俺だけじゃないのだ。アイツの毒牙にかかったのは。
「マイケルが破滅する道筋を、シミュレーション、っと」
俺は夢想魔法を発動した。
できるなら、なんとも間抜けな終わりがいい。
共犯者である王女も、同じ道をたどるのが国のためでもあるだろう。
「さぁ、それじゃ――」
俺は小さく笑みを浮かべて、こう口にした。
「ショータイムの始まりだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます