Noir-黒の章-

福倉 真世

第1話 いらない子

私が私であることが

私はずっと悲しかった


あんた、なんでいるの?とクラスメイトに蔑まれるように言われた

自分だってそんなの知らない


「あなたはパパとママに望まれて生まれてきたのよ」

そうママは言ったけれど


ねぇ、聞きたいよ、ママ


私がこんな子に育つってわかっていたら?

それでも私を望んだの?


私だって、普通の子のように

友達がいて、輪のなかで笑っている

そんな風になりたかったけど

運動が下手でも勉強がだめでも

友達と遊ぶのは大好きな

明るい子になりたかったけど


ねぇ、ママ

なんでだろう。私、わかってしまってるんだよ

ママががっかりしているの


勉強ができなくたっていい

運動ができなくたっていい

健康で

人に愛される子であってくれれば


ねぇ、ママ


ママのささやかな願いごとを叶えられない私は

いったい誰のために何のために


ずっとずっと考えていた


ずっとずっと問いかけていた


私はいらない子ですか


そのとおりだといわれるのが怖くて誰にも

聞くことができないその問いは

自分の心の闇のなかでこだまして

わんわんやまびこみたいに大きくなっていった


私はいらない子ですか

私はいらない子ですか

いらない子ですか

いらない子ですか?


深く、もぐった

深海のような、心の奥

無感覚でいられる場所へ

傷つかずにいられる場所へ


本当ならこの心臓すら止まってしまえばいいのにと思いながら

ただ無感覚に私は生きた


どんなひどいことを言われても

どんなひどいことをされても

記憶にすら残らないその場所で

ひざを抱えて


私は私であることが

ずっとずっと悲しかった

無力で

誰からも必要とされない自分が

ずっとずっと大嫌いだった


ねぇ、ママ


「生きているだけでいいんだよ」


その言葉が突き刺さります


言わせてしまった自分が

憎いです

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