小説家の高校生とヒロインの同級生
武埼
1話 小説家の高校生
始業式の日の朝、僕は包丁の音で目を覚ました。
僕の住むアパートは少しぼろい。そのため、キッチンの音がリビングに隣接する僕の部屋にまで聞こえてくる。お陰で目覚まし時計が鳴る五分前に目が覚めてしまった。二度寝しようにも五分しかないので、仕方なく布団から出てリビングへ向かった。リビングには既に妹の
「お兄ちゃんおはよ」
「ああ、早いな」
機嫌が良くないのかそれともいつも通りなのか、少し不愛想な挨拶をされた。僕の挨拶にも特に反応はなく、ひたすらスマホをいじっていた。年は僕の二つの十五歳、中学三年生なので反抗期真っ盛りなのだ。とは言っても、そこまで激しい反抗期ではない。少し僕に当たりが強いだけだ。
「あら
母はそう言って、僕と妹の朝食を差し出した。母はまだやることがあるらしく、リビングへと帰っていった。
先に二人で食べていたが、特に妹と話すこともないので、僕もスマートフォンを手開いた。もちろん、投稿サイトに投稿している、小説のアクセス数を確認するためだ。僕は高校一年の冬休みから小説を書いている。投稿を始めて四か月ほど経ったが、思ったほど伸びない。始めは毎日投稿していたが、最近は週一日ほどになっていた。今書いているのは二作目で、高校生が主人公のライトノベルだ。書籍化を夢見て投稿を続けているが、アクセス数が思うように伸びず、流石にそろそろやる気がなくなってきた。昨日最新話を投稿したので、少し期待してアクセス解析のページを開いた。
「65か」
とぼそりと呟くと、妹は目だけを動かしてこちらをちらっと見た。四カ月も続けてこのアクセス数だと流石に落ち込む。多い時は二百アクセスほどあるのだが、少ないとこれくらいだ。
今日のアクセス数が少ないのは、夜遅くに投稿したからだろう。でもアクセス数が少ないことよりもっと落ち込むのは、いいねや評価、レビューが全然ないことだ。たまに評価やレビューがされていると、物凄く嬉しくて、モチベーションになる。でも、滅多につかないのだ。
自転車を三、四十分ほど漕ぐと学校に着く。少し早めに登校したつもりだったが、昇降口は既に賑わっていた。今日から新年度が始まるため、クラス発表がされていた。盛り上がる人達をかき分けて、掲示用紙の前まで来た。直ぐに自分の名前を見つけた。一組だった。僕は教室も確認して早速移動した。中に入ると女子が数人がいた。もう挨拶を済ませたみたいで、楽しそうに話をしていた。それをよそ目に、僕は黙って席に着くと本を開いた。ふと気づいたのだが、自分の名前を確認しただけで、クラスメートを確認していなかった。仲いい奴いなかったらどうしよと思っていると、後ろから肩をたたかれた。
「よっ!
「ゆうま、よかったー」
笑顔で挨拶してきたのは、一年でも同じクラスで仲の良かった
「森じゃん」
「うっす」
僕の声に、控えめに返事をする
クラスではあまり目立たなかった僕や森とは違い、顔が広く友達も多い雄馬は他にも友達がいたのか、僕たちに軽く断りを入れて行ってしまった。三人はスポーツが好きだったり、同じゲームをやってたりと、共通の趣味が多いため仲良くなった。ただ、小説やアニメが好きなのは僕だけなので、あまり表には出していない。まして小説を書いていることは誰にも話していないし、これからも話すつもりはない。
始業式の後、HR《ホームルーム》をやって今日は終わった。僕が帰ろうと席を立つと、雄馬に声をかけられた。
「昼飯食べてかない?」
「いいね」
森も誘うと行くと言うので、三人で食べに行くことにした。学校の近くにはあまり店がなく、最寄り駅の周りにあるお店も飽きたので、今日は別の駅まで食べに行くことになった。二人は電車通学なので、僕も自転車を置いて今日は電車で帰ることにした。
今日はちょっと豪華に個室のお店に来た。三人ともバイトをしているのでたまにここに来る。バイトをしているとはいえ、そこまで余裕はなかった。僕は大学進学のために貯金しておく必要があるからだ。うちは母子家庭で、妹もいるため、学費を丸々親に負担してもらうことはできない。奨学金を借りることも考えているが、できれば借りたくない。なので今のうちにお金をためておこうという考えだ。
僕と森は部活には入っていない。雄馬は運動部っぽいが、意外にも美術部に所属している。美術部は基本、週に二日しか活動していない。そのため、放課後はよく三人で遊んでいる。遊ぶといっても、大体ご飯を食べて、そのままおしゃべりをしたり、ゲームをしたりするだけだ。たまに買い物に行ったりもする。こんな感じで、僕は友達が少ないが、結構楽しい高校生活を送っていた。
ご飯を食べ終わると、いつもの様に、三人でオンラインゲームをして遊んだ。あっという間に二時間ほど経ち、ちょっと休憩することにした。ご飯を頼んだとはいえ、それだけで長居するのも申し訳ないのでデザートを注文した。
「ちょっとトイレ行ってくる」
雄馬はトイレに行き、森も一人でスマホをいじり始めたので、僕もスマホを開いた。そういえばと、あまり期待はしていないが気になったので小説のアクセス数を確認しようとアクセス解析のページへ飛んだ。さっきよりは少し増えていた。
「80......」
いつも通りの数字に落ち込んでいると、雄馬が戻ってきた。更に同じタイミングでデザートも来た。とりあえずデザートを食べて心を癒そうと思い、スマホを閉じた。友達といるのにスマホに夢中になるのも良くないことだし。
デザートを食べながら話をし、その後は少しスマホでゲームをして今日は解散した。
帰りの電車は僕だけ反対方向なので、一人で電車に揺られていた。
家に着き、直ぐに自分の部屋にあったパソコンを広げた。そしてアクセス解析のページを開いた。
小説の投稿を始めて以来、僕はしょっちゅうアクセス数を確認している。手持無沙汰になるとこのページを開くのが習慣になってしまった。どうせ大して伸びてもいないのだが、一応毎回楽しみなのだ。
今日のここまでのアクセス数は110だった。まあ大体いつもこんなものである。
それでも、書籍化を目指している僕は小説の続きを書き始めた。とは言っても、三話分ストックしてあったので、投稿しようと思えば今すぐにできる。でも最低三話はストックしておくというルールを作っていたので、とりあえず新しく書き始めた。
今書いている小説は、あと少しで完結だったので、今日で終わらせてしまうことにした。
三時間ほどが経ち、ようやく書き終えた。そしてせっかく完結させたので、一気に最終話まで投稿してしまうことにした。
その後は夕飯を食べてお風呂に入った。お風呂の後は、なるべくアクセス数を気にしないように、勉強をして過ごした。そして今日はもう寝た。
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