第9話 貧しくも豊かな豚キムチ
夜更けの台所からこんばんは。
夫の買ったキムチの賞味期限が切れそうなので、慌てて豚キムチを作りました。
豚キムチは結婚するまでの自炊生活でよく作っていた一品です。
なにせどんどんフライパンに入れて炒めるだけ、ご飯にもうどんにも合う、おまけに冷凍できる!
一食分に小分けして冷凍しておくと、忙しい日や疲れた時のご飯支度が楽ちんなので重宝してました。
自炊生活を始めたのは大学を卒業する間際でした。
給料も低いし、札幌の冬は寒いし、家族の団欒がない寂しさに襲われるし、飼い猫をもふれない。
自由には責任と対価が生じるんだと知りました。
人間は生きているだけで物理的に場所がいります。衣食住がいります。それを維持・証明するために必要な書類と手続きの多さに慣れるのも時間がかかりました。
若かりし日の母ちゃんは食費を真っ先に削るタイプでした。あの頃はご飯にお金と時間をかけるより、簡単で安いものを一品ササッと食べて、その分を他にまわしたかったのです。
その『他』とは本でした。本好きが本屋に勤めたら、そりゃあ寝食忘れて読みます。
深夜12時閉店のチェーン店でしたから、閉店後は大好きな同僚たちと朝まで映画観たり、外食したり。
お酒とタバコを覚えてからは、近所に住む同僚が「これ、オカンが作ったおかず!」とタッパーに入れた肴を手に飲みにきたり。
毎月ギリギリの赤貧時代でしたが、何十年も付き合うことになる仲間たちに出会い、のちの糧になる本や映画に触れて、豊かな時代だったなと思います。
当時から作っていたのが豚キムチだったのです。
貧しくても豊かなあの頃。
毎日腹が痛くなるまで笑い、些細なことで怒り、哀しみを知り、これがずっと続くのだという気がしていたほど楽しかった。
まぁ、若さゆえの無鉄砲さと体力があってこその日々でしたが、私の青春はあそこに置いてきたのでしょう。
豚キムチはほんの少し、青春時代の怖いもの知らずな無敵っぷりをよみがえらせるスイッチなのでした。
思い出と結びついた料理って、誰しもなにかしらあるものでしょうか。
【深水家の豚キムチの作り方】
基本の材料は豚小間切れ、キムチ、焼肉のタレ。これだけ。
一口大に切った豚肉をフライパンで炒め、焼き色がついたらキムチと焼肉のタレを入れてサッと炒める。できあがり!
お好みでネギやゴマを足しても美味しいです。
ご飯やうどんに乗せてもいいし、そのまま酒の肴にも。納豆を混ぜるとなおうまし。
冷凍は一食分ずつ小分けにすると使いやすいです。
どうぞ召し上がれ。
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