(仮題)光と魔法のメルヒェン

onrie

(ドールハウス)

ドールハウス


 岬の先端に一軒の家。崖の下方は海で、周囲には何もない。ただその家だけがぽつんと建っている。

 家は二階建てで、そこには少女がたった一人で暮らしている。二階の部屋にあるのは机、クローゼット、ベッド、それに窓がひとつ。ベッドの上には少女がいる。少女の名前はリティアといった。リティアはこの家のことを「ドールハウス」と呼んでいた。

 リティアは足を前に出した格好で、ベッドの上に座っている。

 彼女はまっすぐに前を見つめている。前方は海の見える窓。彼女の目は、ちょうど水平線のところを捉えていた。

 時は夜。星々はざわめき、そのひとつが光を放って海に落ちたように見えた。

「また感じた、星たちのざわめく声を。そして星が地上へと落ちた。そのかけらの一片を、わたしは掴まえられるかしら?」 

 星々の夜。窓からの景色はどこまでいっても暗い海だ。

「あれは?」

 今また星が落ちていった。だが今度はずっと近くで。

 いてもたってもいられず、リティアはベッドから立ち上がると窓辺へと駆け寄った。

 窓を開ける。穏やかな風を感じる。広大な海の波音は静かだが、暗い海の先は見えない。

 下のほうからこちらへ向かってくるものがあった。

 それは光る玉で、空中に浮かんでいる。オレンジ色に光っているが、それほど強い光ではない。

 何か声を発したわけではなかった。だがそれはリティアに伝わった。

――ここは? とその光は言った。

「ドールハウス」彼女は答えた。「あなたは?」

 間があった。答えはなかったが、光る玉は言った。

――こちらへ。

 それはその光のいるところへ、宙にいるところへ来なさいということだった。

「わたしは人間。飛ぶことは出来ない」リティアは言った。

 光る玉は答えた。

――やってみればできる。

 光は窓から少し離れていった。

 リティアはそのほうに手を伸ばしたが、光る玉は窓から遠ざかっていた。光る玉は窓からやや離れた場所で、宙に浮かび上下に漂いながら、待っていた。

「どうすればいのかしら?」

 リティアは目をつぶった。そして上に浮かぶように念じた。だが何も起きなかった。だがしばらくするとリティアは異変を感じた。

 体が空中に浮かんでいた。足元が地面から離れるのがわかり、今まで地面を支えていたものがなくなったのを感じた。リティアは目を開けた。

「浮いている?」

 リティアは驚いて声を出した。まさか、本当にこんなことができるなんて。

 地面から数センチほどだが、確かに浮いていた。光によって家の床が照らされ、足が地面から少し離れているのがわかった。さらに体は床から一メートルほど上に浮かび、今は自然に浮かぶことが出来ていた。

 重さは感じなかった。体はやや上下に浮き沈みして、重力と均衡を保っていた。

 リティアの体は宙にあった。だがまだ飛べるようになったわけではない。リティアはさらに上へ、窓の外に出ることが出来るようにと願った。

 それから手を左右に動かし、舟を漕ぐようにして、窓から外に飛び出した。

 頭が前に出て、体は家の外へと出ていた。光が近くにあり、光る玉は先導するように浮かんでいる。

「わたしは飛ぶことが出来た」リティアは言った。

 光は何も言わなかったが、よくやったと褒めてくれた気がした。

 今リティアの体は海の上にあった。下のほうでは波が崖にぶつかって砕ける音がしていた。

「落ちない?」

 だが大丈夫だった。そのままリティアは海のほうへと進んでいき、不安は感じなかった。

――浮かんでしまえばなんということはない。後は前へと進むだけだ。

 リティアは前方に行こうとする意志を持った。すると体は自然に前へと進んだ。そしてそのままの姿で空を飛んだ。

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