シンソウシンリ・ナイトメア
見渡す限り裸の女だらけの中に遠野はいた。女どもはその
「そんな身体でわたしを抱くつもり?」
遠野が自分の身体を見下ろすと、そこらじゅうから無数の手足がデタラメに生えていた。遠野は急に自分の
「違うんだ、カズハ」
何が違うのか、遠野は弁解を求めてそう言った。遠野の意思を無視して身体中の手足が勝手にうごめく。足下の女たちから笑い声が聞こえてくる。
「あなたがわたしを殺した」
地面から伸びてきたいくつもの手に遠野は絡め取られた。無駄に生えている多くの手足は役に立たず、遠野は身動きがとれないまま女でできた地面に押さえつけられている。遠野を見下ろす女の顔はすでにカズハのものではない。幼い瑠璃の顔が遠野に迫る。
「助けてくれ!
声のした方に遠野が顔を向けると、中学時代に着ていたバスケット・ボール部のユニフォームに身を包んだ義久が、手を動かさずにボールをつきながら
「アンタ、誰? 人として間違ってんじゃないの?」
今度は遠野の右側の地面からアサミの声が飛んできた。
「どうして助けてくれなかったの、遠野君」
カズハの声が遠野の頭の中に響く。
「わたし……わたし……」
震えたカズハの声。
「護ぅ!」
義久の悲愴感を伴った叫び。
「どうして私が死ななければならなかったの?」
アサミの声をした瑠璃の顔が喋る。大きく目を見開いた瑠璃の顔は、今や遠野の鼻にくっつかんばかりの近さにある。
「ねぇ、どうして?」
「聞いてんのかよ、護!」
「わたし――」
瑠璃の目鼻口から血液が流れ出す。視神経に繋がれた瑠璃の左目が
「ぐちゃぐちゃになっちゃった」
瑠璃の顔が弾け肉片が飛び散り、生温かい血液の
「違うんだ……違うんだよ、カズハ。おれ」
「ヒトゴロシッ!」
急激に覚醒した遠野の目にまず映ったのは、見慣れない白い天井と蛍光灯だった。次いで全身に不快な汗をびっしょりとかいていることに気づいた。嫌な夢を見ていた気もするが、はっきりとは思い出せなかった。身を起こそうとした遠野は左腕に違和感を覚えた。見ると白いガーゼの下から透明なチューブが伸びている。
自分の身に一体何が起こったのかと遠野は頭を整理する。記憶を引き出そうとすると、頭の中に
携帯はどこかと、遠野は身を横たえたままベッド脇の棚を右手で探る。すると、何か薄っぺらいものに手が触れた。遠野は茶封筒をつかんでいた。表には「遠野 護さんへ」とボールペンで書かれた綺麗な文字が並んでいる。裏には何も書かれていない。
遠野は中の
「うっ!」
写真を見るなり、遠野は左へ身をよじってベッド脇の床へ胃液をぶちまけた。サイド・ボードの上で、マナー・モードに設定された遠野の携帯が、カタカタと振動しながら着信を告げていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます