ロイヤーは、つライヤー?

 弁護士と名乗る日本人女性から、電話がかかってきました。

「依頼人のフィリピンの女性は、昨年、フィリピンで結婚して来日しました。ところが、夫からホステスとして働けと言われたので、嫌になって私のところに逃げて来たんですね。もちろん、離婚するつもりです。パスポートも在留カードも、夫に取り上げられていて持っていません」

 どこで息継ぎをしているのかわからなくなるぐらい、女性はよどみなく話しました。

「そ、それで、ご相談は……?」

「彼女、あまり日本語話せないの。去年、来たばかりなんで」

 私が返事するよりも先に、女性は言葉を続けました。

「今、本人にかわるから、彼女が日本人と結婚していたこと、確認して」


 なななな!

 なんで、私がフィリピン人女性の婚姻の確認しなきゃならないのっ(;□;)!!


「あの~、フィリピンで結婚されていることを確認されたいのなら、フィリピン統計局というところで結婚の証明書が発行されますので……」

 まだ私の話が終わっていないうちに、自称女弁護士が

「彼女、去年結婚したばかりなのにっ! そんなんも調べられないの?」

受話器から耳を離したくなるほどの声を出しました。

「こちらは相談センターですので、個人情報については……」

「フィリピンのことなら答えてくれるっていうから、電話したのよ~っ! 彼女は、フィリピンで結婚したんですよ! それが確認できないなんて、職務放棄ですねっ!」


 フィリピンの結婚についての問い合わせと、フィリピン人(個人)の結婚についての問い合わせは、同じじゃありませんって!


 そのまま電話を切るのは悔しかったので、私は、受話器を持ったまま、反撃の時を伺いました。

「ご依頼の女性は、フィリピンで結婚されたと、おっしゃいましたね? 日本人男性の戸籍謄本に、フィリピン人女性との婚姻がフィリピンの方式で成立したと、記載されているはずですが」

「知ってるわよっ!」

 自称女弁護士の声が私の頭に響きました。

「そんなん、常識っしょ」

「そうですか。それでは、どうして、相談センターに、お電話されたんですか?」

「そっ……、それはっ!」

 私は、次の言葉を待ちました。

「あ、あぁ……、あの~。その日本人と結婚したかどうかは、戸籍謄本で確認出来たとしても~。フィリピンで婚姻が成立したかどうかは、わからない、んで~」

 自称女弁護士が、話すスピードと声の高さを落としました。

「ですから、戸籍謄本に、フィリピンの方式で婚姻が成立したことが記載されていれば、フィリピンで婚姻したことが確認できると、申しましたが」

「……」

 ここまで来るのに、10分以上かかりました(~_~;)

「でっ、でも〜。それだけじゃ、エビデンスが? 不十分っていうか〜? ホントにフィリピンで婚姻が成立したかを確認したいんですよ〜」

「フィリピン統計局というところで、女性の婚姻証明書が発行されれば、フィリピンで婚姻が成立したことを確認できます」

 私の説明が終わらないうちに、自称女弁護士が割り込んできました。

「でも~、そんなことしなくても~、フィリピン大使館に問い合わせすれば~、フィリピンで婚姻が成立したか、簡単にわかりますよね~~?」


 じゃ、なんで、相談センターに電話したの?大使館に電話すればよかったじゃん。


「彼女にビザ出してるの~、大使館なんだから〜」

 自称女弁護士の間違った情報に、黙って電話を切れない負けず嫌いな私(-_-#)

 非エリートの意地とプライドをかけて、しったかぶりっ子を負かそうと、私は大きく息を吸いました。

「女性が配偶者ビザで日本に来たかどうかをフィリピンの日本大使館か出入国在留管理局に、確認されましたか?」

「えっ!?」

「弁護士の方なら、そんなの朝飯前でしょうけど」

「あ、あぁ……、そうですねぇ」

 しったかぶりっ子の声が小さくなっていきました。


 思いしったか!(^◇^)

 非エリートをなめんなよ!* ̄0 ̄)ノ


 突然、しったかぶりっ子女弁護士(自称)が、息を吹き返しました。

「依頼人は、日本人と結婚したので、日本国籍を持つ重国籍者です! 外国人じゃないんで、入管に問い合わせる必要なんてありませんからっ!」


 どっひゃ~っ!(ノ゜O゜)ノ


 私に反論する間も与えず、ぶりっ子は電話を切りました。


 外国人は、日本人と結婚しても、外国人ですよ。

 結婚を機に、日本国籍を申請する権利は得られますが、結婚と同時に、日本国籍が与えられるわけではありません。

 あの人、ホントに弁護士だったのかな~(@_@;)

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