よーしっ!養子にしよう!
「養子縁組したいの。教えてください」
(゜_゜)?
受話器を取ったら、いきなり、こんなことを言われたので、戸惑ってしまいました。
「もしもし、聞いてます?ワタクシ、フィリピンの子どもを養子にしたいんです。どうしたらいいか、教えてください」
日本人女性からかかってきた電話に、どう答えようか考えあぐねていたら、女性から軽くお叱りを受けました。私は慌てて、答えました。
「それでしたら、国際養子縁組を専門に行なっているところをご紹介いたしますので、お手続きはそちらで…」
「ワタクシ、いろんなところに電話かけているんですよ!どこも教えてくれたのに、アナタは何も教えないって、どういうことなのっ!」
女性の金切り声に驚いたのか、受話器の向こうから赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。女性は、赤ん坊を泣き止ますことなく、一方的にまくしたてました。
「養子にするお子様は、何歳ですか?」
女性の金切り声が落ち着いたところで、私が質問しました。
「3歳ぐらい、だと思います」
養子にする子どもの年齢がわからないって、どういうこと?あ、そうか、再婚相手の子供がフィリピン国籍の子供なのか。
「再婚相手のお子様を養子にされるんですか?」
「…(赤ん坊の泣き声)」
「日本での養子縁組はお済みですか?」
「…(赤ん坊の泣き声)」
私が何を質問しても、女性は返事もせず、赤ん坊をギャンギャン泣かせたまま。
「養子縁組するお子様は、どちらに住んでいらっしゃるんですか?」
「…(赤ん坊の泣き声)フィリピンの子供」
「お子様は今、フィリピンにいらっしゃるんですか?」
「…(赤ん坊の泣き声)そうですけど?」
子供を泣き止ませてから電話するように伝えようとしたところ、急に、女性が叫びました。
「テレビで観たんですよ!インドやエジプトで孤児になった子どもを養子にするのを。だからっ、ワタクシもっ、フィリピンのかわいそうな子どもを養子にしたいんですっ!」
どっひゃ~(ノ゜O゜)ノ
海外セレブみたいに、外国籍の子どもを養子にしたいってこと~?
(ノ゜O゜)ノ アナタが~?
私「つまり、フィリピンにいる身寄りのない子どもを養子にしたい、ということですか?ご親族やご友人のお子さんを養子にするというわけでは、ないんですね」
女「そうよそうよそーなのよーっ!でも、養子縁組って、日本で手続きするだけでいいんじゃないの?どうせ、日本人になるんだから」
私「(え?フィリピンにいる子供を日本で手続きするだけで、養子縁組できると思っているの?)いえいえ。個人の気持ちだけでは養子縁組はできません。養子にしたことを日本だけではなく、子供の国籍の国でも手続きしないとダメなんですよ」
女「え?養子縁組したらワタクシの子どもになるのよ。ワタクシの戸籍に入れたら、それで手続き終了なんじゃないの?」
私「(外国人が日本人の養子になったからって自動的に日本人になるわけじゃありません!)養子縁組したから私たち親子です、と言っても、それを証明する書類が無いと、フィリピンにいるフィリピン国籍の子どもを日本に連れて帰るわけにはいかないんですよ」
女「やだぁ。ワタクシ、そんな誘拐犯みたいなことするわけないじゃな~い」
私「(あなたがやろうとしているのは、誘拐犯みたいなことなのさ)そうならないために、フィリピン国籍の子どもと養子縁組したことを、日本だけでなく、フィリピンにも届け出て、さらに、子どもの名字を変更しなきゃならないんですよっ!」
女「へぇ~、めんどくさいのねー」
まるで他人事。
さっきから、泣いている赤ん坊って、まさか、女性の養子じゃないよねぇ…(-_-)
この女性、全国津々浦の身寄りのない子どもを養子にしてるのかしら?
私「こちらでは、養子縁組のあっせんは、いたしませんので…」
女「当たり前じゃな~い!ワタクシ、アナタガタに子供をあっせんしてもらおうなんて、思っていないわよ~」
私「…(-_-)。養子縁組の手続き代行も行なっておりません。手続きは、フィリピンの裁判所を通して行われます」
女「へぇ。養子縁組って、フィリピンまで行かなきゃできないんだ。日本だけじゃダメなのね」
やる気なさそうにつぶやいた女性。手続きが簡単でないことがわかり、これで話は終わりかと思いました。
しかし、女性は、話を続けました。
「観光でフィリピンに行く時に、理由は、なんて書けばいいの?養子縁組でいいの?」
(ノ゜O゜)ノ へ?
「一回の渡航で、養子縁組ができるとは思えませんが」
今、観光でって言ったよね。と言いたいのを堪えて、私は、答えました。女性は再び、金切り声を発しました。
「そんなこと、わかってるわよっ!だから、今度、ワタクシが観光でフィリピンに行く時に、養子縁組の準備するんだって!それで、フィリピンへ行くときの理由は、なんて書けばいいのよっ!」
だから、観光って書けばいいんじゃないの?( ̄^ ̄)
風邪をひいた太郎さんは、病院へ行きました。病院に着くと、牛がモーと鳴き、蝶がひらひら飛んできました。太郎さんはどうして病院に行ったのでしょうか?
なぞなぞみたいな会話を交わしながら、私は泣き止まない子どものことが、ずっと気になっていました。
ひょっとして、育児放棄?虐待?
「ワタクシね、アメリカによく行くのよ。その時にね。…あ、さっきからずっと、ネコの声がうるさくて、ごめんなさいねー」
ネコーーーっ!(ノ゜O゜)ノ
赤ん坊じゃなくて、ネコの鳴き声だったのーっ!(ノ゜O゜)ノ
ネコにしては鳴き声が大きいけど。
「ワタクシ、アメリカに行った時に、入国した理由を書いたのよ。で、ワタクシがフィリピンへ行く時は、なんて書けばいいの?」
今度は犬の吠える声が聞こえてきました。
「ごめんなさいね。バカ犬だからぁ、うるさくてぇ」
バカなのは、犬だけじゃないと思いますが(-.-)
「観光がてらにフィリピンへ行って、養子縁組に関する情報を集めてはいかがですか?」
無理矢理話をまとめて、40分近く握っていた受話器を置きました。
腕が、手が、痛かったです・・・。
犬ネコもらうんじゃないんだから。
養子縁組を簡単に考えないでくださいっ!(-_-#)
ペットのしつけをしてから、人間の子どもを育ててほしいと心から願った、ネコ派の私でしニャー(^^ゞ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます