アリスって

「ったく、お前のせいで、また、ここに来なきゃならなくなったじゃないかっ!」


 日本人男性の声に、フィリピン人女性が泣き出しそうな顔で堪えていました。

 窓口でこういう光景を見ると、嫌な気分になります。私は、男女を問わず、威張る人やむやみにやたらに怒る人は嫌いです。

「コイツのせいで、コイツがちゃんと書類を持って来なかったせいで、申請が受けられないんでしょ?」

 女性の悲しそうな顔を見ると、私は腹が立ってきました。

「タニムラさん。次回、申請に来られる時は、申請用紙に、前の奥様の名前をアルファベットで書いてください。前の奥様がフィリピンの方なので、カタカナではなく、アルファベットで書いていただきたいんですが」

「え…」

 男性の表情が曇りました。

「アルファベットで書けって言われても、オレ、わかんねーしっ!」

「彼女さんに聞いて書いてください」

 何故か強気な態度を取る男性に、事務的な応対で答える私。男性は、女性をチラッと見ると

「オレは、アルファベットで書けねーんだよっ!」

と、私に言い返しました。

「アリスさんというお名前は、そんなに珍しいお名前ではありませんから、彼女さんにスペルを聞いてお書きになったらいかがですか?」

「ソーだよ。アタシ、教えるから」

 女性が小さな声で男性に言いました。

 男性は女性を見下したような表情のまま

「アリスって、いろいろな書き方があるじゃないかっ!」

と、私に反論しました。

「例えば?」

 能面のような顔で私が切り返すと、男性は「うっ」と小さく唸りました。しかし、ここで女にバカにされてはなるまい、と思ったのか、男性は大きく胸を張り、声を張り上げました。

「男のアリスとかっ!女のアリスとかっ!」


(ノ゜O゜)ノ

男のアリスって、チャンピオン歌ってたグループのことですか?


 私は男性に気付かれないように、女性を見ました。女性は私に「ごめんね」と言うように笑いました。


 数日後。

 男性は「Aris」と書いて、申請用紙を提出しました。


 強情な男だねぇと心の中で笑いながら、女性の幸せを祈りました(^^ゞ



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