第9話 キャパオーバーイベント―晶斗
「ふわぁああぁ。」
ゲーム内であれだけ褒められてしまったせいで自分は本当にヒーローになった気持ちになっていたけど、でもログアウトするとやっぱり僕はただの冴えない男子高校生だった。
「ほんと嫌なギャップだよな。」
本当の僕のこともアレックスとしての僕のことも知っているシュウが、呆れた顔でそう言った。
嫌なギャップってなんだよ。
そう思ってシュウをにらんでみたはいいものの、確かに知られて萌えられるようなギャップじゃないことは確かだ。
反論したかったけど出来なかったし、する元気もなかった僕は、そのまま冴えない担任が入って来るまで机でうつ伏して寝ることにした。
そしてその日は半分聞いてるか聞いてないかくらいで授業を聞いて、あっという間に一日が終わっていった。球技大会とか
「さ、帰んべ。」
「やけに早いな。」
「本、読まなきゃいけないから。」
岩里さんから本を借りたことで何とかつながりは保った僕だけど、これを読まなければ本当に終わってしまう。それにあまり時間をかけてしまったら、岩里さんが僕のことを忘れるかもしれない。
新鮮なうちに何とか少しでも前に進みたいと前向きに思えているのは、もしかしたら"ヒーロー"が抜けていないせいかもしれない。僕はニヤニヤしながら僕を見ているシュウを完全に無視して、本を読むためにいつもより早く家に帰った。
ご飯の後すぐにゲームにログインするのが僕の毎日のルーティーンだったけど、今日はベッドに腰掛けて本を開いた。
本を読むのなんて、いつぶりだろう。
少なくとも思い出せないくらい前ってことは確かで、まず活字が読めるかってことが心配になった。
心配はしていたけど、僕は意外と優秀だった。読み始めるとすぐに物語に入っていくことができて、時間も気にせずどんどん読み進められた。
岩里さんが言っていた通り、ストーリーはなかなか奇抜だった。
まず主人公が事故で亡くなるところから始まって、次のシーンでは可愛い女子高生だったはずの主人公が角みたいなものが生えた火星人になる。最初は無気力に生きていた主人公だけど、チアリーディング部を作って野球部を応援して、最初は受け入れられなかった火星人のキャプテンにどんどん惹かれていって…。
言葉にすると駄作感のある小説だけど、読んでみると感情の描写が繊細で、なんとも言えない魅力があった。
そのおかげもあって僕はどんどん小説の中に引き込まれて行って、気が付けば一晩で全てを読み終えていた。どう完結するんだろうと思ってたけど、最終的にはそのキャプテンも元地球人だったっていう結末だった。
最後まで設定は突飛だったけど、"どんな姿をしていても惹かれる気持ちは一緒"っていうメッセージ性みたいなものを感じて、あらすじでは分からない深さみたいなものがあるなと思った。
寝不足だから早く寝ようとおもっていたのに、夢中で本を読んでいたせいでその日も気が付けば時間は深夜になっていた。
明日、これを岩里さんに返しに行こう。
そう思うとなんだかまた寝れなくなって、僕はしばらく暗闇で色々な考えを巡らせていた。
☆
「ふわぁああぁ。」
「デジャブかよ。」
また次の日も大あくびをしていると、シュウにすかさずツッコまれた。正直、
「んで、今日返しに行くの?」
またあくびを繰り返した僕に、全てを理解してるって顔をしてシュウは言った。
僕はそれが間違ってないことにムッとしつつ、仕方ないから「うん」と投げやりに答えた。
「頑張れよ。チャンスじゃん。」
「ピンチでも、あるけどな。」
ピンチはチャンスってよく言うけど、じゃあチャンスはピンチでもある。熱いタイプでもない僕はそれを十分に理解しているから、この"本を返す"っていうイベントを絶対に失敗してはいけないってことくらいちゃんと分かっていた。
「お前って意外と器用だよな。」
「え?」
心の中でまた気合を入れていると、シュウが不意に言った。
僕を褒めてくれるなんて珍しいなって思いつつ首をかしげていると、ヤツは悪い顔をして笑った。
「あっちではあんなに
ミーシャちゃんに尽くしてんのに。」
「別に尽くしてるわけじゃ…。」
あの日のことを思い出すと恥ずかしくなる。
あの時はアドレナリンが出ていたってのもあって本当にヒーローみたいな振る舞いができたけど、思い返してみたら照れくさい。
昨日はログインしなかったからまだあれからミーシャに会ってないけど、次会う事のことを考えたらすごく恥ずかしくなる。それが分かっていたから考えるのをやめていたのに、シュウはその扉を強引にこじ開けてきた。
僕の気持ちなんてすべてお見通しって様子でシュウがまた笑ったから、一度肩パンをしておいた。
「いって。」
そんな力も込めてないから痛いはずもないのにシュウはわざとらしく言って、ニヤニヤした顔のまま自分の席へと戻っていった。
一瞬は動揺していたけど、そのあとは岩里さんに本を返す時なんて言おうか考えているうちに授業も終わった。
最近全然勉強に集中できてない気がする。
別に集中したところで学年1番が取れるわけではないからそれでいいのかもしれないけど、関係のないことばかり考えている自分を少し反省した。
「いってらっしゃ~い。」
「なになに、どこ行くの。」
そんな真面目な僕の幼馴染とは思えない不真面目なこいつらは、二人して楽しそうに言った。僕はヴァルを想像しつつ、アイツみたいな顔でにらんでやろうと思ったけど、でも出来ていないのはこいつらがまだ楽しそうだってことで明確に分かった。
「岩里さんに本返しに行くんだってさ。」
「な~るほどなっ。」
そう言って二人は、邪悪な顔で笑った。こいつらの方がよっぽどヴァルみたいだなと思った。
「散れ。」
「お~怖い怖い。」
僕が追い払うようなしぐさをしたのを見て、やっと二人は僕をからかうのをやめた。それをいいことに今度は僕がニヤっとして、「お前らなんかお似合いだな」と言った。
「なにそれ~。」
天音はそう言って笑っていたけど、シュウは明らかにキレていた。
仕返しだ、バカ。
声に出すことはなかったけど得意げな顔をしてシュウを見下ろした。天音はその言葉にピクリとも反応することがなかったから、やっぱりシュウの気持ちになんて気が付いていないってことが確かにわかった。
「昨日私ね~美玖と友達になったんだよ。」
今度は鈍感女が得意げな顔をして言った。
唐突になんだよと思ってにらんでみると、それでもひるまずもっとニヤっとした顔をした。
「友達になってって言われたの。
かわいいよね、もう友達なのに。」
なんだか岩里さんらしいなと思った。
そしていつの間にそんな会話をしていた天音が、素直にうらやましかった。
「なれるといいね、
お友達に。」
「あ、それ以上に」とわざとらしく付け足した天音に、僕は「うるせぇ」としか反論できなかった。そのやり取りを見て今度はシュウが僕を見下しているのが分かったから、僕は逃げるようにして教室を立ち去った。
本当はここから岩里さんがどこにいるのかって探すのかもしれないけど、彼女の居場所は明確だった。僕は教室を出てまっすぐ図書館に向かって、Tシャツをデザインして以来初めてその扉を恐る恐る開けた。
相変わらず、図書館にはほとんど人がいなかった。
図書館って場所は静かなところだから話し声が聞こえないってのは当たり前なんだけど、そうじゃない静寂にこの空間は包まれていた。
僕の足音すら、彼女の読書の邪魔になってしまうのではないか。
そう思えるほどに静かで音が一つも聞こえなかったから、僕は忍者みたいに足音をたてないように意識して、彼女がいるであろうその場所に向かった。
予想通り、彼女はいつもの席に座って本を読んでいた。
相変わらずとても姿勢が綺麗で、太陽に透けて見える髪や白い肌はやっぱり綺麗だった。
毎日会っていたせいか、数日会わないだけでなんだかとても新鮮な気持ちになる。話慣れていたと思っていたのに、最初に話した時と同じくらい緊張しながら、僕はその席へと向かった。
彼女はやっぱりすごく集中して本を読んでいて、僕が入ってきたことになんて全く気が付いていなかった。前みたいに気が付くまで声をかけずにいようかすぐに声をかけた方がいいのか迷っていると、そのタイミングで岩里さんは読んでいた本を静かに閉じた。
「わ…っ。」
本を閉じたら僕が目の前にいたことに驚いて、岩里さんは小さく声を上げた。
これじゃここでずっと見ていたみたいじゃんか。
タイミングすら冴えないなと思って小さい声で「ごめん」というと、彼女は大きく首を振った。
「本、返しに来た。」
そう言って、僕は妹の好きなへんなキャラクターが書かれた袋に入った本を彼女に渡した。家で何も考えずに袋を選んだことを、そこで初めて後悔した。
「ありがとう。」
彼女は髪と同じくらい透き通った声でそう言った。その声に聞き入ってしまいそうになったけど、僕は気を確かに持ったまま「貸してくれてありがとう」と何とか言った。
「えっと、帰るところだった?」
ここでこのまま感想を言おうか迷っていた僕の口からは、感想の前にその言葉が出てきた。
何聞いてんだよ、馬鹿野郎。
そう思っていると、岩里さんが「うん」と小さい声で言った。
え、これ、一緒に帰ろって誘っていいフラグかな。
「そっか」とか言ったら絶対ダメだよな。
え、どうしよう。
助けて、アレックスゥウウーーーー!
自分でも気が付かないうちに、僕は"誘うフラグ"を自分で立てていた。そのくせに、「一緒に帰ろう」の一言がなかなか言えなくて、僕たちはしばらく無言でいた。
でもこのまま無言でいる事が一番よくない。
恋愛経験が少なくてもそれを理解している僕は、自分の中にいるアレックスを何とか召喚した。
「い、一緒に、かえ、らない?」
アレックスは召喚出来なかった。
それだけの言葉を僕はどもりながらなんとかいって、「感想も言いたいし」って断られないような保険の言葉も付け足した。
おい、どこ行ったんだよアレックス。
頼むよマジで。
あほなことを考えていると、岩里さんは小さくうなずいてくれた。
断られなかったことに少しホッとしつつ、でも断れなかっただけじゃないのかって、めちゃくちゃ後ろ向きなことを考えた。
それから僕たちは無言のまま図書館を一緒に出た。
いつも歩いているはずの廊下も、いつもくぐっている玄関も、何となくいつもとは違う感じがして、一緒に帰るだけでこんなに緊張してどうするんだって自分を心の中で奮い立たせた。
「どっち方面だっけ。」
「えっと、あっちでバスに…。」
「僕もあっち。」
一緒に帰ろうなんて言って全く別方向だった時のことは全く考えていなかったけど、聞いてみたらどうやらバス停までは一緒に帰れそうだった。僕はこのチャンスをしっかりと生かすためにも、近くにあるバス停までゆっくりと歩くことに決めた。
「確かに設定は特殊だったけど、
すごいおもしろかったよ。」
前触れもなく唐突に本の感想を言うと、岩里さんは少しびっくりした後「よかった」と言った。もっと自然と切り出せればいいんだけど、今の僕にはそのスキルがない。マジックワールドでは技を自由自在に使いこなせてるくせに、やっぱり僕は現実ではとても冴えない男だった。
「感情の描写がすごくよかった。
自然と入り込めたからすぐに読めたよ。」
あまり具体的じゃないアドバイスを言うと読んでないって誤解されるんじゃないかと思っていた僕は、付け足すようにそう言った。すると岩里さんは驚いた顔をして僕を上目遣いで見た。
上目遣いをした岩里さんが反則的に可愛すぎて、僕はすぐに目をそらしてしまった。
「あと、セリフもすごくよかった。」
目をそらしたまま照れ隠しに言うと、岩里さんが僕をまだ見ている視線を感じた。
頼むからそんなに見つめないでくれ。
溶けてなくなってしまいそうだ。
ヴァルに溶かされたシュウのこと、うらやましく思う日が来るなんて思ってもみなかった。僕は必死であの時のことを思い出しながらアレックスになりきろうとしてみたけどやっぱりアレックスは降りてきてくれなかったから、仕方なく晶斗のままで岩里さんと話をすることにした。
「莉子(リコ)が太一(タイチ)に言った
最後のセリフ、特に好きだった。」
「どんな形になっても、私を愛してくれますか。」
岩里さんは、本の中で主人公が言ったセリフを僕に向かって言った。
自分に言われているわけじゃないって分かっていながら、僕の胸は大きく高鳴った。
好きに、決まってる。
岩里さんが火星人になっても金星人になっても、僕は岩里さんのことを好きになると思う。"愛してくれますか"なんてこと言われて完全に照れてしまった僕がフリーズしていると、岩里さんはにっこりと悩殺スマイルを僕にくれた。
「私も、あのセリフ大好きなの。」
それはアウトだよ、岩里さん。
僕は絶対に赤くなっている顔を隠しながら、「そっか」と答えた。僕の気持ちなんてしるわけもなく、岩里さんは楽しそうに「うん」と言って笑っていた。
はぁ、しんどい。
胸が、しんどい。
頼むから鳴りやんでくれ…。
冴えない僕に起きている甘すぎるイベントに、僕の胸はキャパオーバーになっていた。心臓の音が耳までダイレクトに届くくらいに大きくなっていて、もし今アレックスになっていたら、音がうるさくて死んでしまったかもしれないと思った。
「あの作者さんね、
いつも言葉がすごくきれいなの。」
岩里さんは遠慮がちにそう教えてくれた。僕はそこで自分に自分で言い聞かせた。
よし、晶斗。
しっかりするんだ。
お前はチャンスをしっかりものにできてる。
でもここで終わったら、本当に終わるぞ。
ここで今の関係を終わらせるわけにはいかない。「そっか」とまた無難な言葉が出てきそうになったけど、イベントを次につなげなくてはいけないと思った僕は、それを封印した。
「へぇ~。気になる。」
若干棒読みになりながら僕がそう言うと、岩里さんはまた驚いた顔でこちらをみた。
いいぞ、晶斗。成功だ。
そう思っていると岩里さんは「まだ、あるよ」とまた遠慮がちに言った。
「また貸してくれる?」
出来るだけあっさりと言うことを心掛けて、僕は聞いた。すると岩里さんは僕の問いに首を縦に振ってこたえてくれた。
「ありがと。」
いや、そうじゃない。
ここで終わったら"また"は一生来ない。
踏ん張り時だ!
寝不足となれないイベントで、もはや倒れそうなくらいの疲労感に襲われていた。でもここで疲労なんかに負けたら本当に僕たちの関係は終わる。僕は気が抜けそうになっている自分にもう一回喝を入れて、乱れている心を整えるために大きく息を吸った。
「あのさ、
面白いのがあったら教えてほしいから、
よかったら連絡先、聞いてもいい?」
あっさりと聞こうと思っていたのに、すごく慎重に聞こえてしまったかもしれない。後悔はしたけど聞けた自分のことは褒めてあげつつ、岩里さんの返答を待った。
「うん、お願いします。」
岩里さんの声が、脳みそに反響して何度も頭の中で響いた。
ヴァルに勝った時の歓声よりも録音したいと思うくらい、嬉しくてきれいな声だった。
自分が今まで体験したことのない現実でのラッキーイベントに体が固まってしまいそうになったけど、鞄の中からスマホを取り出す岩里さんをみて、急いでポケットのスマホを取り出した。
「これ、私の…。」
岩里さんは先に自分の連絡先を送ってくれた。
僕はあえて自分の連絡先は送らず、「あとでメッセージ送るね」と言った。
前クラスのイケメンが、先に相手の連絡先を聞いて自分からメッセージを送るようにすれば自然と連絡が取れるようになると言っていたのを、盗み聞ぎしたことがあった。
その時はうまいことするな~なんて他人事のように聞いていたけど、まさか自分が使うことになるなんて思ってもみなかった。僕はそれを大声で言っていたあほなイケメンに感謝しつつ、バスに乗る岩里さんに軽く手を振って彼女を見送った。
彼女を見送ってから、家に帰るまでの記憶があまりない。
それからいつも通りご飯をたべて部屋に向かったけど、その後も考えていることは一つだった。
「なんて、送ればいいんだ…。」
さすがにあのイケメンも、事細かにメッセージの内容まで話していなかった。
そこは臨機応変に対応しろってことなんだろうけど、臨機応変に対応するだけの経験があればこんなに苦労していない。
早く送らなければ。
そう思えば思うほど何を打てばいいのか分からなくなって、僕は文章を打っては消してを繰り返していた。
とはいえ、このままでは深夜になってしまう。
僕は「よし」と一度気合を入れて、意を決して文章を作る事にした。
「まずは…
"こんばんは。"と。」
いや、かたいか?
そう思ったけど、"お疲れ!"とか"よっ!"とか言うような間柄でもないから、そこは丁寧に行くことに決めた。
"本、貸してくれてありがとう。
面白い本があったら貸してください。"
「いや、さすがに固すぎるか…。」
"本、貸してくれてありがとう。
面白い本があれば貸してね!"
「馴れ馴れしいかな…。」
「ねぇ、お兄ちゃん!」
「わぁっ!!!」
僕が一人でぶつぶつ言いながら文章を打っていると、ノックもせずにいきなり部屋に入ってきた。驚いた反動で僕の指は勝手に送信ボタンを押してしまっていたようで、もっと考えたかったのに気が付けばメッセージはすでに送られてしまっていた。
「お前…っ。」
タイミング考えろ。
そう言いたかったけど、こいつがタイミングを読めたことなんて生まれてから一度もない。
僕は大きくため息をついて、思いっきりにらみながら「なに?」と言った。
「あのマンガ貸して!」
「分かったから持ってって。」
「わぁい。」
呆れながらスマホに目を移すと、メッセージはすでに既読になっていた。
え、やばっ。既読だ。
送ったんだから既読にくらいなるだろうと自分でツッコミを入れつつ、彼女と初めてメッセージをかわせることに浮かれている自分がいた。
「何笑ってんの?きも~い。」
「うるさい。出てけ。」
「こっわ~い!」
妹は絶対思ってないのに怖いって言いつつ、僕の部屋から大量に漫画をもって出て行った。
全く。頼むから部屋に来ないでくれよ。
そう思いつつまたスマホを見てみると、まだメッセージは来ていなかった。
くっそ、アイツのせいで…。
もう少し案を練りたかったのに、妹のせいで全てプランが壊れてしまった。もしかしていきなり馴れ馴れしいメッセージが来て、岩里さんは困ってるんじゃないか。
しばらく悩んでスマホを見つめていたけど、メッセージが一向に帰ってこないから宿題をすることにした。気になったから目に入るところにスマホを置いて宿題をしたけど、そんな状態で集中できるはずがなく、いつもは1時間くらいで終わるものに2時間時間をかけた。
「来ないか…。」
寝不足なんだから、あきらめて寝てしまおう。
そう思ってシャワーを浴びに行こうとしたとき、スマホが光るのが見えた。
僕はモンスターに飛びつくみたいに素早く反応して、スマホを手に取った。するとそこに表示されていたのは"修"という名前で、内容はさっきやってた宿題のことだった。
「ふざけんなよ。」
僕は理不尽にキレつつ、シュウにちゃんと返事を打ち始めた。
僕って結構いいやつだよな。
自分で自分を褒めながら長々と文章を打っていると、その時また誰かからメッセージがきた。
「どうせ天音だろ…。」
こういう流れの時は、どうせ天音から同じようなメッセージが来てる。
そんなことだろうと思って、僕はシュウにすごく丁寧に返事をしてあげた。そして身構える事もなくさっききたメッセージを確認してみると、それはまぎれもなく、岩里さんからの返信だった。
「…っ。」
声にならない声を僕は出した。
すぐに既読にしたらもしかしてよくないんではないか。
それは分かっていたんだけど、メッセージが来てからは5分くらいはたっていたから、僕は我慢できずそれを開いた。
"岩里です。
読んでくれてありがとう。
もしよかったら、
同じ作者さんの小説
明日また持って行っていいですか?"
彼女らしい、丁寧なメッセージだった。
シュウと同じ画面のはずなのに、彼女のメッセージはピンクに光っているように見えて、短いその文章を僕は何度も読み返した。
「やべ、返信…。」
こんな悠長にしていたら、また返信を返すのに2時間くらいかかってしまう。僕は急いで文章を読むのをやめて、返信を打ち始めることにした。
"お願いします。"
「これだけじゃ短すぎるかな…。」
僕はそれからも何度も文章を打ち直して、最終的に"ありがとう。嬉しいです!"と返信をした。するとまたすぐにメッセージは既読になって、しばらく来て「OK」というスタンプが返ってきた。
「これって…。」
そのスタンプは、マジックワールドで出てくる猫のキャラクターのものだった。
もしかして岩里さんもプレイしてるのかな。
一瞬そう考えてみたけど、ゲームなんて興味がありそうなタイプには見えなかった。
そういえばこの猫、ゲームをしないような女子からも人気があるって聞いたことがある。だから岩里さんもそうなんだろうなと決めつけて、深く考えるのをやめた。
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