第19話 動き出す一雪と巡る想い
「えーそれでは絆プロジェクト初回案件についての会議を始めます。よろしくお願いします。」
「「お願いします。」」
あれから会社に戻って、柳生に言われた通り少し考えた。俺が宮島さんとどうなりたいのかを。
結論からすれば、俺は宮島さんと付き合いたいとは思わない。
確かに宮島さんのおかげで少しは元カノの傷も癒えたけど、それとこれとはやっぱり別物で、宮島さんは俺には少し高嶺の花が過ぎる。そんな宮島さんとどうこうなりたいってのは、俺には考えられない。
宮島さんとは会社という概念があるうえで付き合うのが、俺にはちょうどいい。
だから仮に宮島さんが俺に好意を抱いてるんだとしたら、それは断らないといけない。少し関係がぎくしゃくするかもしれないけど、俺にその気はないんだから仕方ない。
抱いていなかったのなら、俺の思いあがりですむ話だ。何勘違いしてんの?で済む話だ。
「一君、聞いてるか?」
「…あ、はい。」
駄目だ駄目だ、今は会議中だ、集中しないと。
「ならいい。それと今回の案件について営業事務の宮島さんから……。」
まぁ俺の考えはそういう事だ。なら後は宮島さんに今の考えを言うだけの事、それだけだ。
「それじゃ宮島さん、お願いします。」
「はい。」
そうして俺は自分の考えをまとめ終え、ようやく絆プロジェクトの会議に本腰を入れて取り組んだ。
「宮島さん、ちょっといいですか?」
会議を終えた俺は、すぐに宮島さんの席へ向かった。
もちろん、まとまった俺の考えを伝えるためだ。
「いいけど……どうかしたの?」
気持ちが固まったんだ。だから俺は早く事態に終止符を打ちたいんだ。
「ちょっと、昨日のことで……。」
「あぁ……その話、後でもいい?」
納得したような表情を見せてそう告げる宮島さん。
「後っていつごろですか?」
出来る事なら早く完結させたい。
「仕事終わりとか、だめ?」
……まぁ今日中に解決するんだったら、別にいいか。
「いいですよ。じゃあ仕事終わりに会社入り口で待ってますね。」
「うん、OK。」
そうして荷物をまとめ足早に会議室から出ていく宮島さん。
きっと明日からは、どんな結果にせよ宮島さんとは今まで通りの関係ではいられなくなるんだろう。
あの面倒くさいまでのからみももう終わるのかと思うと、すっきりしたようなやっぱり少し物足りないような、変な気持ちになる。
これはあれだ、いつも世話していた野良猫が、急に居なくなった時の感覚と一緒だ。うん、そうに違いない。
「一君、ちょっと時間あるか?」
そう話しかけてくるリーダーは、指で煙草を挟むポーズをして見せる。
今のやり取りを変に思われたのかな?
「大丈夫ですよ。」
宮島さんとのことか、それとも逐一報告のことか、どちらにしろ少し面倒くさそうなことに変わりはないな。
若干の面倒くささを感じながら、俺はついていくようにして、リーダーと喫煙所に向かった。
「一君、もしかして宮島さんと何かあった?」
そっちの話か。
「まぁ大したことではないですけど、ありました。」
大したことではある。けどそれをリーダーに話す理由も意味も全くないので、敢えて大したことはないと伝える。
「そうか……無理してないか?」
「無理、とかは別にしてないですけど。」
無理してる事で言えば、リーダーへの逐一報告ぐらいだ。まぁ今のところは一度も報告してないから、特に無理はしてないわけだけど……。
「そうか……。」
「どうかしたんですか?俺無理してるように見えました?」
一度も報告してないからそう思われたのだろうか?だとしたら、正にいらぬお世話なんだけど。
「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ……。」
そこで詰まるのか。そんな言い方されたら、嫌でも聞かないといけなくなるじゃないか。
「ただ?」
「……いや、なんでもない。すまんな、呼びたてて。」
何だよそれ。そんな気になるような、歯切れの悪い言い方しといて。
「……そうですか。じゃあ僕、戻りますね。」
しかしそんなことを思っても、何でもないと言われたらそこで終わってしまう。俺には問い詰める権利も資格もないんだから。
「うん……あとちょっと頑張れ。」
「はい。」
折角火をつけたばかりの煙草を消してそのまま灰皿へ捨てて出ていく。
仕事の依頼メールは、もちろん今日も来ている。こんなところで時間を食っている暇はない。時間内に終わらせて、宮島さんと話をしないといけないんだから。
通路を歩く一雪の足取りは強い意志が満ち溢れており、当の一雪は喫煙室に一人残されたリーダーの事など、何も考えていなかった。
否、何も気づいていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます