第11話 そして俺は間違えたことにすら気づかない
「おっそーいー。」
戻って早々、にぎやかな人だ宮島さんは。ほんの五分ぐらいじゃないか、トイレに行ってた時間。
「トイレ、すっきりしたか?」
はは、そうですね…って言うか!
リーダーは馬鹿なのか?本当は馬鹿なのか?
「……二人とも、グラス空じゃないですか。何飲みますか?」
よし、うまい具合に切り出せたな。たとえ後10分耐えるにしても、会話の主導権は握らせないようにしないと。
「私はビールで。」
「ん~、私は同じものでいいや。」
リーダーも宮島さんも、変えないんだな。俺はどちらかというといろいろ飲みたい派だから、よく飲み物変えるんだけど。
「で、結局どうしてなの?」
「いや、だから本当に違いますって。昨日は多分酔ってたんですよ、僕。」
店員を呼び注文を伝えてすぐ、宮島さんはさっきまでしてた会話の続きを始めようとする。
そこまで知りたいのか、知る意味も必要も全くないのに。
「うっそだぁ~。一君、普通に歩いてたもん。」
そういうことは覚えてなくていいのに。本当一にも十にも面倒くさい人だな、宮島さんは。
「そんなことないですよ。ふらふらにならないように気をつけてただけですし。」
嘘ですはい。正直ひっとつも酔ってなかったです。
「言い訳しなくていいからさ~、なんで?」
んーこう言う時は……
「言い訳じゃないですって。ねぇ、リーダー。」
話を振るのがベストだろう。
「え、あ、あぁ。そうだな。」
急に降られるとは思ってなかったって感じだな。にしても、そうだなって、リーダーあの時は一応酔っぱらって寝てたんでしょ?
「寝てたリーダーがなんで分かるんですか?もしかして寝たふりだったんですか?」
ほら、宮島さんが聞いてこないわけがない。
でもまぁ、助かった。ありがとう、リーダー、そしてごめん!
「い、いや、そんなことないぞ。急に話振られてびっくりしただけだ。」
動揺してるのばればれ。てかやっぱり寝たふりだったんですね、リーダー。
まぁそうだろうとは思ってたけど。
「急な対応こそ、本音や本当の事言ったりするってテレビで言ってましたよ。なんだ、やっぱりリーダーって………」
「い、いやぁ、何を言い出すんだ、宮島は。なぁ、一君。」
突然のことだった。
急にリーダーが俺の前を横切るように身をのりだして、宮島さんの口に手をあて続きの言葉を遮った。
何でそんなに慌ててんだ?てか、俺に同意を求められても困るんだけどな……。
「そ、そうですね。何言ってるんですか、宮島さん。」
よく分からないけど、とにかく同意しておこう。その方がなんとなく無難な気がする。
「お待たせしましたー。ビールとハイボールです。」
「あぁ……はい。ありがとう。」
のりだしていた身を戻し、席に戻るリーダー。
おやおや、ちょっと顔が赤いよ?照れてるんですか、リーダー。
「別に隠す必要ないと思いますけど……リーダーって意外と可愛いところあるんですね!」
え、宮島さん?リーダーにそんなこと……。
「い、いや本当に違うんだ。勘違いなんだ、宮島の。」
あれれ?リーダー?何を弱気になってるんですか?そこはもっとこう、強く出るとこじゃないんですか?
「大丈夫です。分かってますから。」
「だから、違うんだって。」
なんで?なんで立場が入れ替わってるの?ねぇ、どういうこと?訳が分からないんだけど。
何がどうなって二人は何を話してるの?
「あれー?分かんないんですかー?一君って案外鈍い?」
一人不思議そうに二人を見ている一雪。
鈍い?はぁ?何の話をしてるんだ?
「いいからいいから、な?宮島さんもそれ以上一君をからかってやるな。」
急に話の風呂敷を閉じようとするリーダー。
うーん……今のって本当に俺がからかわれてたのか?なんか違う気がするんだが……。
「別にからかってるわけじゃないんですけどね。」
やっぱり、俺の予感は間違ってなかったか。
なら一体何の話なんだ?何でリーダーはそんなに必死で、宮島さんは強気なんだ?
「とにかく、この話はもうおしまい。分かったな?」
いや俺、話の内容まったく掴めてないんですけど。
「ちぇっ。はーい、分かりました。」
なんでそこでおとなしく引き下がるの、宮島さんは。
「一君も、な?」
「はぁ……。」
全く理解してないけど、たぶん今のは命令だから、逆らうわけにはいかない。なんかすげぇ気になる話の終わらせ方だったけど……まぁいいか。
どうせ聞いても教えてくれないんだろうし。
「そういえば、一君は予定あるって言ってたよな?大丈夫なのか?」
え?帰っていいってことですか?
「まぁ……大丈夫じゃないですけど……。」
「じゃあこんなところにいたらだめじゃないか!」
いや、誘ってきたリーダーがそう言う事言うんですか?
「じゃあ僕、お先に失礼してもいいですか?」
「うん、大丈夫大丈夫。」
はぁ、そうですか。なんでリーダーが言ってきたのかは分からないけど、帰っていいと言っているんだから、素直に帰らせてもらおう。
「じゃあ、お先に失礼します。あの、お支払いは……。」
「あぁ、それなら誘った私が払うから、また明日会社でな。」
「はぁ……御馳走様です。」
「じゃぁーねー、一君。」
荷物をまとめて席を立ち、そのまま見送られるがまま居酒屋を出る。
なんだか訳分からないまま終わったけど、まぁいいか。早めに抜け出せたわけだし。
時計に目を向ける。まだ八時を過ぎたばかり。これなら映画一本は見れそうだな。
レンタル行って家帰って風呂入って映画見て……と、よしいい具合に寝れそうだ。
そんなどうでもいいことを考えながら俺は帰路についた。もちろん、既にリーダーと宮島さんのことなんか、これっぽちも考えていなかった。
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