間違いだらけの俺の人生《ライフ》

藤原氏

第一部 序章

第1話 マイナスからのスタート


「私達、別れよ。」


突然だが、俺の名前はにのまえ 一雪かずゆき。今正に、付き合って三年の彼女へのプロポーズを目前にして、振られているところだ。


「え……どうして…。」

「ごめん……。」

彼女の顔は下を向いていて、表情が見えない。そんな彼女の様子なんか、今の俺には気をかける余裕もない。


ごめんじゃないよ……ごめんじゃないんだよ、俺が聞きたい言葉は。

別れたい理由を聞いてるんだよ、俺は。


「一雪には悪いと思ってる。私の勝手だって事も分かってる。でももう無理なの。」


まくしたてるような彼女の言い方に、少し圧倒されてしまう。けど……


「な、何が無理なの?」


一方的に無理と言われても納得できるわけがない。


「無理なものは無理なの!それ以上問い詰めないでよ……。」

言葉の端が弱くなる彼女に、俺は罪悪感を感じさせられる。


え…俺が悪いみたいになってる?訳が分からないんだけど。


「とにかく、荷物は今度取りに行くから。」

席から立ち上がり、そのままどこかへ行ってしまう彼女。



「はは、どういうことだよ……。」

笑える状況じゃないのに、笑ってしまう。


久しぶりにデートができたと思ったら、無理だから別れてくれ、か。

理不尽すぎるだろう、俺の人生。

こんなハードモード、想定してないっての………。


「指輪、どうすんだよ……。」

上着のポケットに手を伸ばし、婚約指輪の入ったケースを取り出して眺める。


本当は今日のデートの最後に渡すつもりだった婚約指輪。だがその指輪の行き先は今無くなってしまった。


「はは……本当、笑えねぇよ。」

涙が出て来る。自分の終わった恋に、裏切られた彼女に……そして何も気づかなかった自分に。


どれだけ馬鹿なんだ、俺は。


「コーヒー、お注ぎしますね……。」

店員のおかわりによる問いかけも、今の俺には聞こえない。


昼時の、コーヒーがおかわり自由でおしゃれなランチの食べれるカフェ、彼女が来たいと言っていたカフェ。

だから俺はここをプロポーズの場所に選んだ。精一杯考えて、一生懸命悩んで決めた。

なのに結果がこれって………。


「苦い、苦いなぁ……。」

注がれたコーヒーを一口飲む。


もともとブラックコーヒーは嫌いだった。でも彼女に勧められて飲み始め、今ではその苦みにも慣れ、落ち着きさえ覚えつつあった。


「俺、どうすりゃよかったんだよ……。」


自分の何が無理だったのか、そのことだけを必死に考える。

考えたところで彼女がもう戻ってこないのは、分かりきっているのにそれでも考えてしまう。


だってそれ以外に何を考えたらいいのか、分かんねぇんだよ………。



―――――――――俺の何がいけなかったのか、どこが駄目だったのか。


考えたところで分かるはずもない、分からないからこうして振られたんだから。


それでも考えることをやめられない一雪が店を出たのは、それからしばらく後のことだった。

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