まったく、これだから…… (短編)

うちやまだあつろう

まったく、これだから……

 とある大学の、とある研究室。一人の博士が、パソコンに向かって何かを打ち込んでいた。


「博士。コーヒー、ここに置いておきますね。」

「うむ。」


 助手は部屋の隅にある机にカップを置くと、博士のようにパソコンを覗きこんだ。


「また、新しくするんですか?」

「あぁ。ブラッシュアップを重ねることで、より高度な知能になるんだよ。」


 その時、部屋のドアがノックされた。


『ハカセ、コーヒー、ココニ、オキマスヨ。』


 一体のロボットが、コーヒーを片手に入ってくる。そして、助手が置いたカップを押し退けて、新たなコーヒーカップを置いた。押し退けられたカップは、派手な音をたてて地面に落ちる。


「はぁ……。まったく、これだからロボットってのは……。」

「あーぁ。私が後で片付けておきますね。」


 博士は手を止めると、机まで行ってカップを手に取った。中には緑茶が入っている。

 大きなため息をつくと、その冷たい緑茶を一気に飲み干した。


 片付けを終えた助手は、コンピュータに繋がれている、一体のロボットを見た。

 銀色に鈍く光る骨格を、肌色の軟質素材が覆っている。このロボットは、いわゆるアンドロイドである。

 その横に、バラバラになった機械の四肢が落ちていた。


「あれ、博士。前に使っていたのは、もう使わないんですか?」


 横に落ちている残骸が、前回まで使っていた機体である。すると、博士は雑誌を眺めながら答えた。


「あぁ。動きが処理に追い付かなかったんだ。あんな出来損ない、もういらんよ。」

「後で処分しておきますね。」


 助手はその残骸を箱にいれると、それを持って部屋の外へ出ていった。



 ある時、とある博士がアンドロイドの完成を発表した。

 新たな家族として購入する者。高度な処理が可能な社員として購入する者。そして、ただひたすらに暴力を振るうために購入する者。

 その用途は様々であったが、とにかくアンドロイドは売れた。その結果、街中にアンドロイドが闊歩する光景が、次第に当たり前になっていった。


 しかし、博士はアンドロイドの知能を、高度に作りすぎた。そして、その外見を人間に似せすぎた。

 いつしか、アンドロイドに人権を求める団体が生まれた。アンドロイド自身も、人間達に人権を訴えた。


◇◇◇


 2XXX年。とあるオフィスで、部長の椅子に一人の男が偉そうに腰かけている。


「部長。例の件、無事に処理できました。」

「うむ。」


 また別の男が、机の上にデータの入った小さな記録媒体を置く。


「そういえば、前に雇っていた彼。最近見ませんね。」

「あぁ。仕事が遅くて、我々に追い付かないのでね。あんな出来損ない、もういらんよ。」

「なるほど、クビにしたんですか。」


 すると、部屋のドアがノックされた。


「ぶ、部長。実は……、例の件で少し問題が……。」


 新たに入ってきた男は、額に汗を浮かべて腰を屈めながら言う。


「また、失敗したのか。」

「えぇ。そうなんです……。」

「はぁ……。まったく、これだから人間ってのは……。」

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まったく、これだから…… (短編) うちやまだあつろう @uchi-atsu

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