第2話 石?

 何も見えない、何も聞こえない、何も感じない……。静寂が支配する暗闇の中で、意識だけがクリアなままだ。


 ……俺はこんなことになってしまったけど、祐紀達は大丈夫だったのだろうか? 


 さっきの出来事を思い出す。事故に遭った時の様子はスローモーションになってたから、結構しっかりと覚えている。


 咄嗟の判断で、俺は二人をトラックの走行線上から押し退けた。あの角度だったら俺が轢かれただけですんでいるはずだ。二人ともたぶん大丈夫だろう……。


 『俺、結婚するんだ』が死亡フラグになるのは漫画やアニメだけで十分だ。


 こうなったら俺の分も二人には幸せな家庭を築いて頂きたい。あの二人が結婚すれば、美男か美女の子供がすぐにでも生まれるだろうし。そうなればただの社畜サラリーマンの俺の命を差し引いても世の中の為にはプラマイゼロどころか、お釣りがくるくらいだ。上出来上出来。




 ……はぁ、それにしても俺のこの状態って死んでるのかな?


 ……けど、死んだらきっと意識も無くなるよね?


 ……意識があるってことは、動けないだけで生きてはいるのかな?


 ……


 ……


 ……


 ……ってか、意識あるのに動けないって、超しんどくない?? ヤバい、これは発狂コース?


 おい! 体! 動け、動け、動け、動いてよ!


 ……


 ……


 ……だめだ、動かん。全然。手も足も身体中、何にも感覚がない。俺が認識できるのは、いつまで経ってもただの暗闇だけだ。


 ……


 ……


 ……


 ……いや、ちょっと待てよ? 


 よーく集中してみると、さっきからなんだか体の周りに何かが触れているような不思議な感覚がするような気がする……なんだかウニャウニャした感じの……液体? いや違うか、もっと軽い感じ……何だろう?


 意識してウニャウニャを感じようとすると、なんだか段々と体の中が暖かくなってくる気がする……。


 もしかして……体の感覚が戻ってきているのかな? よし、リハビリになるかもしれないから、このまま続けてみよう。


……


……


……


 どのくらいウニャウニャを意識し続けてきただろうか。そのリハビリの効果は突然やってきた。


 !!


 み、見えるっ!?見えるぞ!!



 え? 何がって? 



 うむ、教えて進ぜよう。

 

 俺は突然周囲の状況を知覚することが出来るようになったのだ。いや、知覚というよりも認知できるようになったと言うべきか? 


 ウニャウニャがゆっくりと自分の感覚とシンクロしていくような感じがしてきたかと思ったら、突然、意識を向けた方向のぼんやりとした視覚情報のようなものがイメージできるようになったのだ。


 ……目も無いのに


 はい! ここ! 大事なことだから、二回言いますよ! 


 ……目も無いのに!!



 え? どういう意味かって? うん、そうだよね。分かり辛いよね。俺も分かり辛い。わかった。この際はっきり言おう。



 ――どうやら俺は石になっているみたいなんだわ。








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