水曜日の手紙

パパへ、これは水曜日の手紙です。


そろそろ本気出して、死ぬ準備をしないといけないよね。

まずは死ぬ方法を考えないと。ぼくの場合まだ健康で、おばあちゃんみたいにはいかないから。


首を吊るとか、車にひかれるとか、ガスを吸うとか。

色々考えてみたけど、ぜんぜん思いつかなかった。

死に方すら知らないぼく、やっぱり無能。


だからクラスの、そういう話が好きそうな子に聞いてみた。

大人しいんだけど、なんとなくすごいこと知ってそうなやつ。

死んでみたいけど方法が思いつかないんだ、って話をしてみた。そしたらその子「Deleme」ていうサイトを教えてくれた。

古今東西、あらゆる時代の「死ぬ方法」を集めてるサイト。ぼくのスマホだとロックがかかって見れなかったけど、その子のスマホでは見れた。

こんなサイトがあるなんて驚きだよね。しかもなかなかのアクセス数。

死ぬ方法がこんなにオープンに紹介されてるのって結構すごくない? 

やるな、日本。


ぼくはますます、自分の計画に自信を持ちました。

こういうサイトが流行るくらい、死にたい人がいるんだな、って。

辛い人もいるだろうし、ぼくみたいになんとなく死にたい人もいると思うけど、何にせよ方法を知りたい仲間がたくさんいる。

サイトの中身も読みました。よくこれだけ集めたな、と感心しました。

自力で死ぬ方法と、その死に方を選ぶメリットデメリットまで書いてある。

これを考えたり試したりした人たちが、ずーっとずっと昔からいるって、すごい。

パパも機会があったら読んでみて、きっとびっくりすると思います。


ぼくは「苦しまず、汚くならず、お金をかけずに死ぬ」を目標にして、とある方法を選びました。

どんな死に方かは成功してからのお楽しみ。

ぼくはひっそり死にます。

死ぬ前も後もお金がかからないようにします。ご安心ください。

電車に飛び込んで迷惑かけたり、誰かを巻き込んだりはいたしません!

ちゃんと考えて死にますから。


今日、ママが泣いていました。

洗濯物をたたみながら泣いていました。

おばあちゃんが死ぬことは分かっていたのにね。

だって、それを決めたのはパパとママなんだから。

ぼく、ひどいこと言ってる?

でもそうだよね。

「延命」をやめればおばあちゃんが死ぬこと、ぼくらは知っていたんだから。


夕夏はママのそばで漫画を読んでいました。

ぼくは自分の部屋でこの手紙を書いています。

ぼくが死ぬことをパパやママに言ったら、泣きますか?

ぼくは、泣かれるのは嫌だけど、泣かれないのも少し悲しいです。

これって人間の本能?

ぼくのわがまま?

ちなみにパパが死んだら、ぼくは泣きます。長生きしてください。

ぼくは、ぼくなら、パパとママの「延命」はやめません。


水曜日の手紙、おわり

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