3・絶望と希望

 洋子は呆然とした。これでどうにかぬいぐるみをゲットできたけど、代金は支払わなくて本当にいいのだろうか。またいつ会えるかはわからないというのに……。


 洋子はちゃんとお金を払わないといけないと思い、慌てて店を出ていたもののあの二人の姿はすでになかった。





 どこかモヤモヤしたままで帰宅すると、姉の姿はなかった。


 まだ帰ってきていないようだ。姉を待つことにした。


 けれど、まったく帰ってこない。


 時間だけが過ぎていく。


 すでに十二時を過ぎていた。


 姉にしては遅い。


 遅すぎるのではないか。


 母が電話している。


 姉の関係者に次々と電話をしているようだが、どこにもいない。


 時刻は午前三時


 姉は帰ってこない。


 洋子も両親も眠れずにリビングに集まっていた。


 もう警察に連絡すべきではないかという意見が出始める。


「まって、お姉ちゃんにもう一回かけてみるわ」


 洋子は姉の携帯に電話を掛けた。これで何度目だろうか。何度もかけたけれどつながらない。


 またつながらないのだろうか。


 しかし、今度はすぐに繋がった。


「お姉ちゃん?」



「申し訳ございません。私は警視庁特殊捜査室の芦屋と申しますが……」


しかし、その声は姉のものでは決してなかった。男性の声だ。携帯の向こうから聞こえてきたのは、大人の男性の声だった。


その男の正体を把握すると同時に、最悪な事態を知ることとなったのだ。


姉が何者かに殺された。


姉が死んだ……。


その絶望を洋子たち家族に突きつけられたのである。





 それからあわただしくすぎていった。


 警察からの事情聴取。


 姉の司法解剖。


 そして、葬儀。


 火葬。


 なにがあったのか。いま自分がなにを見ているのか。


 それさえも分からずに呆然としている中で、父も母も泣いていた。泣いて、弔問に訪れた警察にどうして娘が殺されたのかと訴えている。


 父はどうにか泣くのをこらえて、喪主としての務めを果たしていたが、母はずっと泣いていた。顔を伏せて、突然の娘の死を受け入れられずにいたのだ。


 洋子は寄り添うことしかできなかった。


 泣いてはダメだ。


 母が泣いているのだから、いまはこらえなければならない。ただ緊張と責務で涙さえもでない。

 母に寄り添って支えた。


 ようやく泣くことができたのは、葬儀の終えた夜のこと。


 今度は母が寄り添ってくれた。


 それから三か月が過ぎた。


 誕生日プレゼントとして渡したかったぬいぐるみは、袋に入ったまま洋子の部屋においてある。


 もしも、魂が存在していて、いまもこの地上にあるというのならば、会いたい。


 あって、渡したい。


 そんな想いを友人に打ち明けたのだ。


「噂で聞いたんだけど、死者に逢わせてくれるっていう骨董店があるらしいわよ」


 骨董店?


 なぜ、骨董店が死者に逢わせてくれるというのだろうか。そういうものは、神社やお寺。もしくは、霊能力者といった類ではないだろうか。


「なんでも、そこでは拝み屋みたいな霊的なものも請け負うらしいの」


 胡散臭い。


 そういって、骨とう品を高く売りつけるという類の詐欺師ではないだろうか。


 そんな猜疑心もなくはない。


 けれど、それでもすがりたい気持ちだった。


 姉に逢いたい。


 どんな方法を使っても、悪魔にこの身をささげてでも会いたい。


「どこなの?」


「えっと……三鷹の……」

 

 友達から場所を聞き、学校が終わると同時に向かうことにした。

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