13・新しい店員
1・しゃべる人形
月草峰子が遺体となって発見されたのは、その翌日のことだった。くしくも、その日は最初に殺されたとさせる香川亜衣の月命日の日。しかも、両目がない状態で発見されたことで、彼女が殺した被害者の怨念が彼女を死に追いやったのではないかと噂した。
それに関しては、警察側から否定され、犯人は月草峰子とともに逃亡したし思われる岩城と断定された。その証拠になったのは、月草峰子の首筋に岩城と思われる手の跡があつたからだった。それを証拠として、岩城の消息を探した。しかし、岩城は見つからなかった。
「岩城は“鬼”だ。俺たち警察から逃げるすべを知っている。おそらく捕まらないだろう」
尚孝が言った。
「そうですね。“鬼”なんて相手したら、いくら警察でも徒人では敵うはずがありません」
運転をしている柿原が言う。尚孝は、柿原を一瞥したのちに外の景色を眺めた。
「すぐに打ち切りですね。田畑さん、悔しがりますよね」
「おそらくな」
「もしかしたら、単独で調べようとするんじゃないでしょうね」
「さあな。まあ、総監あたりが圧力をかけるだろうな。それはお前の役目じゃないとな。もしかしたら、別の案件を押し付けるだろうよ」
「そいうしたら今回の案件から身を引かざるをえないですね」
「だが、表向きは解散だろうけど……」
「陰陽寮がその役目を引き継ぐんですね。僕たちはここまでですか?」
「さあな。後は上次第だな」
そうこう話している間に、『かぐら骨董店』と書かれた店の前に車が止まった。
「着きましたよ」
「ああ」
車が止まると、尚孝は助手席から出る。
「ありがとう」
「いいえ。じゃあ、お疲れ様です」
そういって、柿原は車を走らせた。
それを見送った尚孝は『かぐら骨董店』の扉を開く。
「どうなってんだよ。こら」
すると、店内に朝矢の声が響いた。
目の前には朝矢の姿があった。
「どうしたんだ?」
朝矢が振り向くよりも早く尚孝は朝矢の前に出た。するとそこにはいつもの店員の桜花と彼女の友人であり歌手をしている愛美。椅子に腰かけて頬杖を突きながら、なぜかニヤニヤと笑っている成都の姿。ナツキと、桃志郎。そして、その傍らには、人形を両腕で抱いている洋子の困惑している姿があった。
「どうもこうもないんだよ。朝矢くん」
相変わらず、感情の読めない笑顔で桃志郎が言う。
「なにがあったんだ?」
尚孝が尋ねた。
「芦屋さん。どうもこうもないぜ。あの女」
朝矢は洋子を指さす。
「香川さんがなにか?」
「そっちじゃなくて、その人形」
朝矢が指さしているのは、洋子ではなく人形のほうだった。
「知らねえけど、成仏しねえっていいだしたんだよ。そのままだと鬼になるっていってもきかねえんだよ」
朝矢が苛立たしげにいう。
尚孝は人形を見る。人形はただの人形だ。
『いやだ』
しかし。人形が突然話し始めた。しかも、少女の声だ。尚孝にもはっきりと聞こえる。
『私は決めた。洋子が幸せになるまで、洋子から離れない』
「お姉ちゃん」
洋子は困惑する。
「おいおいおい」
朝矢は顔を歪める。
人形の視線がなぜか尚孝に向けられた。その行動を見ていた愛美がなにか含んだような笑みを浮かべている。
「わざと、記憶消さなかったわね。それに……」
桜花は、愛美から桃志郎のほうをジト目で見る。
桃志郎は「だって面白そうじゃないか」といわんばかりに笑っている。
(店長。あなたなら、人形の中身強制成仏させることできますよね)
桜花は心の中でつぶやく。言わないのは、 その気がないことがわかっているからだ。とにかく、この状況を楽しんでいる。
「冗談じゃねえぞ。こら」
「ほほほほ。よいではないか。仲間が増えて、わしはうれしいぞ」
「てめえもさっさと成仏しろよ。くそ狸」
ほほほほと家康が茶を啜り、なぜかその傍らには、一つ目がむしゃむしゃと羊羹を食べている。
「てめえもいつまでここにいる」
「うまいぞ。これ」
一つ目はまったく聞いていない。
『とにかく』
人形は洋子から離れると、テーブルの上に立つ。
『洋子の恋が成就するまでには、私成仏しない』
「恋?」
朝矢と尚孝はきょとんとした。
洋子の顔がカーっと赤くなる。
「おっお姉ちゃん」
人形は私にまかせなさいといわんばかりに自分の胸を叩いた。
「恋って……。だれがだれに?」
朝矢は愛美に耳打ちする。
「きゃぁ。朝矢ったら、そんなに私に」
「んなわけねえだろ。ボケ。真面目に答えろ」
「みればわかるじゃないの」
そう言われて、朝矢は視線を洋子に向ける。すると、洋子はちらちらと尚孝を見ている。
「おいおい。まじかよ」
朝矢は苦虫を噛んだ。
「ということで」
桃志郎は洋子の肩をポンとたたく。
「香川洋子さんは、今日からここでバイトしてもらうことになりました」
「はあ?」
朝矢もだが、桜花も聞いていなかったらしくて、驚きの声を上げた。
「あっ、よろしくお願いします。お姉ちゃんを成仏させるまでお世話になります」
洋子は慌てて頭を下げた。
「おいおいおい」
「あっ、ちなみに彼女には霊力ないから、基本的には祓い屋の仕事はしないよ。彼女はただの表向きの仕事をしてもうからね」
朝矢はナツキのほうを見た。
「お姉ちゃんには力やらなかったから。必要ないし、亜衣ちゃんとは話せるからオッケーだもん」
とだけ説明した。
「はあ」
征夷大将軍に
一つ目小僧
それに人の言葉をしゃべる人形
だんだんと変なやつが増えていっているように思えたならない。
朝矢はあきれ返った。
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