5・甦る意識
一つ目の化け物がウジャウジャと湧いてくる。
床にはたくさんの人形が倒れおり、成都たちが動くには、邪魔になって仕方がない。
切っても、切っても現れる緑色の肌をした一つ目の人型化け物。まるでゾンビのように揺れながら襲いかかる。
「気持ち悪いわ。気持ち悪いわよ。ゾンビもどき。このプリティーハートゾンビホイホイ」
そういいながら、愛美が魔法少女がもちそうなステッキを振ると、彼女を襲おうとしていたゾンビもどきの化け物たちが次々と動きを止めていく。
「いちいち、変な呪文唱えるのやめて」
冷静にツッコミを入れながら、桜花は固まってしまったゾンビもどきにカードを投げつける。カードはゾンビもどきの一つ目に当たると、ドロドロと溶けて消えていく。しかし、再び湧き出してくる。
「おりゃああああああ」
成都が槍を振り回して、ゾンビもどきを叩き切っていく。それでも次々と出現するゾンビもどき。
「いったいどこから湧いてくるんや」
「きりがないわね。」
気づけば、三人が背中合わせの状態で立ち、周囲をゾンビもどきが囲んでいく。
「逃ゲテ」
そのとき、突然声が聞こえてきた。
少女の声だ。
どこから聞こえてくるのだろうかと探す。
「逃ゲテ。ダメ。スグ蘇ル」
「あっ」
愛美が声をあげながら、指をさす。
すると、戸棚のすぐそばに倒れていたはずの人形が一体、立ち上がってこちらを見ているではないか。
「あれよ。あれが私たちに話かけたみたいよ」
愛美が言った。
「がああああああ」
ゾンビもどきがなんともいえない咆哮を上げながら、成都たちを囲み締めしようと一斉に襲い掛かる。
「おりゃああああ」
成都が槍を頭の上にあげて、グルグルと着まわしていく。すると、その回転で巻き起こる風によって、次々とゾンビもどきが投げ出されていった。
そのうち、ゾンビもどきの壁に穴が開いた。
そこから佇む人形の姿がはっきり見えた。
「抜けるわよ」
桜花の合図で三人はゾンビもどきの壁に開いた穴のほうへと走り出す。すぐにゾンビもどきによって埋め尽くされそうになる穴をどうにか三人とも抜けていき、人形のそばへと近づくとすぐに後方を見る。
ゾンビもどきはすでに成都たちのほうを振り返っていた
「あんさん。誰や」
成都が人形に話しかけた。
「私ハ香川亜衣トイウ人間ダッタ」
「だった?」
桜花が視線を向ける。
「デモ、今ハ只ノ人形。只ノ操リ人形」
「どこがよ」
愛美がいう。
「どこが操り人形よ。自分の意志でしゃべっているじゃない」
「今ダケ、妹二逢ッタ。ダカラ、今ダケ少シ動ケル」
「妹に逢ったら自由に動けるなんて聞いたことないわよ」
「桜花。そういう奇跡もあると思うわよん」
愛美は桜花の意見に軽い口調で反論する。
「そうやなあ。あの子、普通みたいやからな。どちらかというと……」
「がああああ」
ゾンビもどきが襲ってくる。
「ハイパープリティーゾンビモドキ、ダサーイ」
「意味の分からない呪文唱えないでよね」
「えへん♡」
直後、再びゾンビもどきの動きが止まる。
「そうやなあ。ここは退散したほうがええなあ」
「どうやって逃げるのよ。ここは44階よ」
そういいながら、桜花は出口はないかと見回す。この部屋の扉は一つ。しかも、いま桜花たちがいる戸棚の前から一番遠いところにある。
ゾンビもどきが彼らの行く手を阻むようにうごめいており、床には人形が散らばっている。その人形たちも“香川亜衣”のように動きだすかもしれない。味方になってくれるのならばよい。けれど、その可能性は低い。
“香川亜衣”も少しだけ自由に動けるのだといっていたではないか。“香川亜衣”もいつ自分たちを襲うのかわからない。
「さて、どないするかのう」
「大丈夫よーん。そろそろ、戻ってくるわ」
愛美がそういった直後、窓のほうに一人の女性が佇んでいた。
「おっ。野風はん。早かったなあ。芦屋はんたちは無事か?」
「ああ。大丈夫だ。足止めご苦労」
「ということで、退散や」
成都がそういうと、野風の姿はすでに狼へと変わっている。
「早くのって、もうすぐ結界が切れるわよ」
愛美がいう通り、動きを止めていたはずのゾンビモドキが再び動き出そうとしている。
成都、桜花が野風の背中に乗り込む。
愛美も乗ろうとしたが、突然人形のほうを振り向き、それを掴んだ。
「ドウシテ?」
“香川亜衣”が尋ねる。
「なんか、その妹さんに言いたいことあるかなあと思って」
「ケド、私ハモウスグ……」
「大丈夫。大丈夫。下に降りてしまうまで意識があればいいのよ。後はどうにかなるわ」
「メグっ。早く乗って」
「わかりました。でも、念のために」
愛美はステッキを動き出そうとしているゾンビモドキへと向ける。
「ゾンビさん。ゾンビさん。あっち向いてホイ」
その直後、ゾンビモドキたちが一斉に後方へと何かに押されるように下がり、壁に激突した。そのまま、なにかに縛られて身動きがとれなくなる。拘束を解こうともがき、奇声を上げる。
「もう少し。動いちゃだめよーん」
そう言うと、人形とともに野風の背中に乗る。
野風はそのまま、その場を離脱した。
「あとはまかせたでえ。朝矢」
成都は最上階にいる親友の名を呼んだ。
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