10・再会
1・侵入
愛美が何か喚きながら、55階の壁を言霊でぶっ壊しているのを見送りながら、朝矢たちを乗せた山男は壁をつたい最上階へと走った。
「うわうわ」
「あはははは」
「うるせえ」
背中の上では、とにかく悲鳴をあげるもの。
無邪気に笑うもの。
苛立っているもの。
三者三様の反応を示している。
そんなこと気にしている余裕もなく、最上階の最も霧の濃い場所へと登っていった。
それにつれてビルの壁はガラス張りで埋め尽くされていき、外からも内部がかすかに見てるようになっていく。
だれかがいる気配はしない。
「ついたぞ」
「ああ」
ようやく動きが止まったことに弦音はホッとした。
すると、弦音の後ろに座っていたナツキが背中をつつく。それに反応して振り向いた弦音は地面が真下に小さく見えることに気づく。
「うわああああ」
弦音は思わず悲鳴をあげながら朝矢の背中に抱きついてしまった。
「うるせえ! 抱きつくな」
朝矢はおもいっきり弦音の体をおさえつかた。
「うわうわうわ!! 落ちる! 落ちる!!」
「あははは! やっぱりツンツンおもしろーい♥️」
ナツキが楽しそうに笑っている。
どうしてそんなに余裕でいるのかわからなかった。
どうみても真っ逆さまに落ちるだろう。
弦音がそう思うのも無理もない。
いま弦音がいるのは、ビルの外壁に山男の四肢が張り付いている状態だ。ようするにかれらはビルの壁に対して直角で、地面から平行に立っている状態である。
しかも地上から200メートルはあるであろう高さだ。普通ならば、そんな体制でいられること事態不可能である。
「ここは結界が弱いようだ。突き破る」
そんな弦音の疑問に答えるつもりもなく、朝矢は 山男と会話を続ける。
「ああ」
朝矢の合ると山男の四肢がビルの外壁から離れた。そのまま真っ先様に落ちるのではないかも思われたが、山男は落下するよりも早くガラス張りの壁をぶち破ってビルの内部へと飛び込んでいった。
「うわあああ」
なにがなんだからわからずに弦音早くひたすら悲鳴をあげ続ける。
ようやく、内部へと侵入して山男の足がビル内につきたときには、弦音の目がまわっていた。そのために山男の背中からクラっと落ちてしまった。
「あーー、ツンツンが落ちたーー。ツンツンだいじょーぶう」
その声はまったく心配しているようすはない。
「朝矢。こやつは本当に連れてきてよかったのか?」
「知るか」
朝矢は困惑気味にのびている弦音をみていた。
「ツーンツーン。こんなところで寝ているもお。こうしちゃうぞおおお」
いつの間にかナツキの手にはバットがにぎられていた。そのまま、バットが弦音の腹部に降りおらされた。
「うがああああ!!」
弦音は目を見開き覚醒する。
「いていて!! なんだ? なんだ?」
自分になにが起こったのかわかずに右往左往した。
「あはははは。ビリビリめざましだよーん」
ナツキが無邪気に笑いながらいう。
要するに気絶していた弦音の体に静電気をながして無理やり覚醒させたということである。
「てめーらーー。遊んでんじゃねえ! さっさといくぞ!」
朝矢は苛立たしげに歩き始めた。
「ごめんなさーい」
まったく悪びたふうでなく謝るナツキ。
その傍らで弦音は「おれ、遊んでませんよ!
つうか、いたいっす。さっきからしびれまくってます」と訴えているようだが、朝矢は聞き耳持たずで廊下を歩いていく。それをナツキが追った。
「えーーー!?」
ただ一人というか一匹だけが、ナツキに弄ばれた弦音に哀れみの眼差しを向けているだけだった。
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