2・噂

1・事件報道

「昨晩未明○○区○○市にて女性の遺体が発見されました。今回も先日の事件同様眼球をえぐられている状態で発見されました。似たような手口から。警察は過去五件と同一犯との見方を示しています」


 お昼時をちょうどすぎたころ、店のテレビの報道で殺人事件のニュースが流れていた。


「また、このニュースやんか~」


 店の中心にある木製の丸テーブルに座っている高柳成都たかやなぎしげとは、シャープペンシルの先を広げたノートに何度もトントンと打ち付けながら、テレビモニターを眺めていた。


「物騒な世の中やなあ。毎日のように事件が報道されてるやんか」


「うるせえよ。シゲ」


 目の前には苛立たしげな顔をした有川朝矢ありかわともやの姿があった。彼もまたノートを広げていた。


「いいじゃんかよお。トモ~。楽しくやろうぜ」


 そう言いながら、今度は顔の顎をテーブルにつけて、朝矢を見る。


「ふざけんな。てめえのレポートだろうが。人に手伝わせてその態度はないだろう。しっかりやれよ」


「え~。ええやんか~。休憩も必要や~」


「あのなあ……」


 朝矢は肩をすくめる。


「そうよ。真面目にやりなさい。あの有川さえも真面目にやっているのよ」


 すると、澤村桜花があきれたように言う。


「あのってなんだよ。あのって……」


 朝矢はムッとした。


「確かにあの勉強嫌いだった朝矢がちゃんと勉強しとるんや。えらいなあ。えらい」


「ふざけんなよ。てめえ、いつの話しているんだよ。俺は小学生か」


「そうや、さくら、コーヒー、もう一杯くれ」


「あのねえ、ここは喫茶店じゃないの。骨董店なのよ」


 桜花がため息をついた。

 彼女のいうように、この店は喫茶店ではない。店のいたるところに年代物の品物がたくさん取り揃えられている。

 時計やつぼ、熊の置物やら招き猫、人形

 確かに年期が入った品々が並ぶ。

 その片隅には間ふたらしいアクセサリーといったものもあり、どうやらこの店員の手作りらしい。


「とにかく、あと二十分よ。二時になったらお客さんくるから、その前には片付けてね」


「客?」


「そうよ。あっちの依頼なの」


「店長は? 帰ってくるのか?」


「さあ?」


「さあって……」


「ははは、あの店長はいつここにくるんやあ。めったに見いへんでえ」


 成都が茶かしたようにいう。


「ナツキは?」


 朝矢が店内を見回す。そういえば、店に来ると大概いるはずのナツキの姿がない。


「学校……」


「はあ」


 朝矢は怪訝な顔をした。


「あいつ、学校いってんのか?」


「ええ、先月から行きだしたのよ」


「大丈夫やんか?」


「大丈夫よ。へまはしないわ」


「そんならええけど……」


『続報です。死体の身元が判明しました。被害者は元塚美妃さん。17歳。○○市内の高校二年生です』


 テレビが目に移されたのは制服をきた少女の顔写真。

 朝矢たちは思わす、そちらへと視線を向ける。


『警察によりますと。先日に起きた女子大生殺人事件と酷似しているとのこと。連続殺人事件の可能性もあるとのことです』


 リポーターが淡々とした口調で話している。


「このリポーターって、マジ感情がないんとちゃうか」


「ああ。確かにそうね。いつも淡々としているわ」


 桜花と成都の会話を聞き流しながら、朝矢は画面を見つめる。すると、リポーターの背後からなにかが浮かび上がったような気がして、思わず立ち上がった。


「どうした?トモ」


「いや……。気のせいだ」


 テレビ画面はすでに別のものへと切り替わり、天気予報へと変わった。

 まだ年若い女子大学生のお天気のお姉さんが、満面の笑顔を向けながら天気予報を告げている。


『関東地方は夕方より雨の見込です。大きな傘を忘れずにもっていきましょう』


 天気予報が終わり、番組のキャスターが画面に現れ、エンディングを迎えた。


 CМが流れ始める。


「はいはい。おしまい。もうすぐ二時よ。すぐに片づけてちょうだい」


「ええ。まだ終わってへん」


「うるさいわね。後はよそでやってよね。さあ、片付けて」


 朝矢たちは桜花に促されるままにテーブルに広げたものを片付け始めた。

 CМは飲料水へと変わる。歌が流れてくる。

 若い歌姫の声。

 朝矢たちはふいに手を止めてテレビ画面を見る。


「がんばってるなあ。愛美めぐみちゃん。この曲も作ったんかあ」


「これは違うわ。別の人よ」


「へえ、珍しいやんか。さくらじゃないなんてなあ」


「そういうことあるのよ」


「喧嘩でもしたんか?」


「そういうわけじゃないわ。業界にはいろいろあるそうよ」


「そうかい。しかし、今年になってずいぶん有名になったようやでえ。松澤愛桜まつざわあお。なっ、朝矢」


 成都は朝矢の肩に手を乗せて、含んだような笑みを浮かべる。


「そこでなぜ俺をみる」


「なにいうとるねん。愛美ちゃんはあんさんに惚こんどるやんか」


「うるせえ」


 朝矢はそっぽを向いた。

 チリん

 その時

 店の扉に備え付けられた鈴がなった。

 三人が視線を向ける。


「いらっしゃい」


 すると、そこには制服を着た女子高生の姿があった。

 どうみても、骨董に興味がありそうには思えない。

 ならば、骨董ではなく、もう一つの仕事の依頼だろうか。


「あの……。ここでいいのですか?」


 朝矢たちが怪訝な顔をしていると、桜花が彼女のほうへと近づいた。


「どのようなものをお求めですか?」


「えっと、その……」


 彼女は店を見回した。


「ここにある品々にはないかもしれません」


「え?」


 少女はなにを言われているのかわからずにきょとんとした。

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