あなたは人生何周目ですか?

綿麻きぬ

人生もう一周ボタン

 きっと君だって一度は思ったことがあるだろう。


 人生をもう一度やり直したい。


 こんな失敗だらけで、生きた心地のしない人生じゃなくて、成功と生きるという希望がある人生がいいって。


 僕の人生を振り返ってみようか。まず、生まれる。そして、小学生、中学生、高校生、大学生、社会人。何を成し遂げた?


 何も成し遂げてない。見ろよ、周りの人間たちを。何か一つ飛び出てる、人生を謳歌している。自分には何もない。隣の芝は青いと言われるけどそんなものは分からない。


 そいつらは何回人生をやり直したのか? 僕は疑問を持つ。


 そんな僕の手には『人生もう一周ボタン』がある。


 怪しい路地裏でこれまた怪しい占い師に手渡されたものだ。


 使い方は簡単。このボタンを押して、死ぬだけ。だけど、記憶は持ち越せない。


 僕はそのボタンをいつ使うか悩んでいた。使うタイミングが分からない。なんせ、死ぬのは怖い。


 でも使う時が来た。理由は単純、平凡な1日だったから。特別良いこともなければ、悪いこともない。


 さぁ、押してみよう。


 カチッと言う音が聞こえて、私は自然と首を切った。


 僕の人生は何もない、そんな平凡のつまらない人生だった。


 そんな思いをかかえた帰り道。ふと怪しい路地裏に目線を移動した。そこにはこれまた怪しい占い師がいた。


「そこのお兄さん、また『人生もう一周ボタン』お望みかい?」


 この一言は僕の足を止めるには十分だった。何か引っかかるようなそんな気分になったが、それよりもボタンに興味が引かれた。


「それ、ください」


「あぁ、無料でやろう。使い方はそのボタンを押して死ぬだけだ。ただ、注意点が一つ。記憶は持ち越せない」


 死ぬという言葉が生ぬるく首を横切った。だけどそれよりも周りの人間みたいになりたくて、そのボタンを受けとる。


 ボタンを押してビルを登る。そして、飛び降りた。


 目を覚ます。僕は家の布団で朝を迎えた。


 あぁ、またいつもと同じ平凡の何もない日常が始まる。


 そういや、同い年のあいつは何であんなに人生を謳歌してるんだ? きっと人生何周もしてるんだろう。


 そういや、何かに秀でてる人は人生を何周もしてるって言う話がある。そういう人は人生は短いってことを知ってるから無駄がないように生きているって。


 じゃぁ、僕はまだ人生一周目だ。


 そう思いながら僕は家を出る。


 家を出た所にはどこかで見たことある占い師ような人が立っていた。


「前世の記憶は気にならないかい?」


 そうそいつは言った。僕はまだ人生一周目だから、いらないと思った。だけどこれで平凡な毎日から抜け出せると淡い期待が生まれた。


「そうか、気になるか。ではこのボタンを押しな」


 言われるがままにボタンを押した。


 一気に記憶が脳になだれ込んでくる。それは今と何も変わらない前世の記憶だった。


 僕は何度人生をやり直しても同じ道をたどっていた。それは未来への期待などを消すには十分だった。


 どれだけ人生を周回しても人生は一回切り。それは成功してる人も僕みたいな人も一緒。そして成功は周回じゃない、自分の意思なんだ。


 でも、でも。僕はこの人生では変われない。だからもう一度、来世に懸ける。


『人生もう一周ボタンください』


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あなたは人生何周目ですか? 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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