無法の魔

ネミ

森の豪邸

誰も寄り付かない森の奥深くには一軒の屋敷があるそうです。


その屋敷は豪邸と呼べるほど大きく豪華です。


その豪邸と整えられた庭は誰が手入れしたのか建築当時から変わらぬ景観を保っているそうです。


屋敷に住む若い少女は出た事のない外を窓越しに眺めます。


同じ屋敷で暮らしているお父さんは数年前に出かけたまま帰って来ません。


屋敷に居るのは少女と無数の悪魔だけです。


数え切れぬ程の悪魔は少女の世話係であり家族ではありません。


開かぬ窓から花壇に咲く花々や森の木々を眺める少女は今日もお父さんの帰りを待ち望んでいるのです。


そんな少女の変わらぬ日々は唐突に終わりを迎えます。


何時もの様に窓から外を眺めた少女は木々に隠れながら屋敷を眺める人影を見つけました。


お父さんから何度も『外に出ては駄目だよ』と言い聞かされていた少女はお父さんの言いつけを守るべきと思いながらも人影が気に成ります。


外に出ようと玄関へ向かった少女は悪魔たちに止められました。


(私が『外に出たい』とお願いしても玄関を開けてはくれない)そう思った少女は(お父さんの命令通り、私を止めるだけだから)と考えました。


(仕事の邪魔はしたくない)そう思った少女が人影を見た窓の側へ戻ると悪魔たちは仕事に戻って行きました。


あるかどうかも分からない秘密の抜け道を知らない少女は(行けないなら来てもらえば良いのよ)と思い至り窓越しに手を振った。


木々に隠れる誰かから返事はありません。


(気付いていないのかな?)そう思った少女は笛を吹いて音を鳴らしました。


それでも返事はありません。


(誰か居ると思ったけど、見間違いだったのかな?)そう思い肩を落とした少女は(これ以上、期待したくない)と思い、その日は外を見ませんでした。


明かりを消し、ベッドに寝そべった少女は(今日の人影は本当に勘違いだったのかな)と考えました。


(明日、探してみよう。お父さんに用事があるなら、きっと明日も来るよね)そう思う少女は思いもしませんでした。


誰も知らない自分へ会いに来た客人であると。




星々や月の光に照らされた屋敷へ訪れた客は住民に望まれぬ存在でした。


騒がしい音で目を覚ました少女が寝室を出ると剣や銃などの物騒な道具を持ち慌ただしく動きながら外を警戒する悪魔たちを目にしました。


少女は「何をしているの?」と声をかけた悪魔に抱きかかえられます。


突然の事で焦る少女は必死に抵抗しながら何度も「おろして」と言いましたが悪魔は降ろしてくれません。


悪魔たちの制止を振り切って外出を試みたあの時の様に。


(実力行使に出られたら敵わない)そう思った少女は抵抗する事を諦めました。


寝室に軟禁された少女はドアを開けようと捻ったドアノブを力いっぱい引きます。


反対のドアノブが強い力で引っ張られているのかビクともしません。


(出してくれないのかな)そう思った少女は出る事を諦めます。


少女は暇を潰す為に本を読み始めました。


本を数ページ程めくった少女は先ほどまで聞こえていた物音が消えて静まり返った屋敷の空気に不安を抱きます。


(みんなに何かあったのかな)そう思いドアノブを捻った少女が引いたドアは先ほどとは一変して軽く開きました。


拍子抜けした少女は「みんなー」と悪魔たちに呼びかけましたが返事はありません。


「だいじょうぶー?」とみんなに声をかけながらゆっくりと扉を開けた少女はドアの隙間から顔を覗かせます。


すると廊下の先に見知らぬ人が佇んでいました。


白いローブを羽織る客人が手に持つ鉈は微かな光を纏っています。


初めての客人に何といえば良いのか分からず「なんの御用ですか」と質問した少女は客人を出迎えていない? 悪魔たちが気に成って(みんなは何処に行ったんだろう)と考えましたが答えは出ませんでした。


何も答えぬまま客人は少女の下へゆっくりと歩み寄ります。


何も言わずに近づいてくる不気味な客人に恐怖を抱いた少女は「お客さんだよー、みんなーどこにいるのー」と悪魔たちを呼びました。


数え切れないほどいた悪魔たちが姿を現さず不安を抱いた少女は迫る客人から逃げるように寝室に戻りドアを閉めます。


近づく足音に怯えながら何も出来ない少女は無事に時が過ぎるのを震えながら待ちました。


やがて遠ざかった足音は聞こえなりました。


(殺されなかった)そう思った少女は安堵します。


安心した少女は(みんなは大丈夫かな? もしかしたらもう……)そう思い部屋の外が気に成りました。


(いつ戻って来るか分からない)そう考えながらも悪魔たちが心配な少女は待ち続ける苦痛から解放される為にドアを開けます。


消えた足音を頼りに廊下を歩いていた少女は何かが割れた音を耳にしました。


音のした方向にはお父さんから入室を禁止させられている地下室があります。


地下へ続く階段から聞こえ始めた足音が大きくなり(戻ってきた)と思った少女は逃げようと思い走りだしました。


先ほどとは異なり走るような足音が背後から迫った少女は不安から「みんなー、何処に居るのー」そう叫びましたが返事はありません。


焦って走っていたせいか昨日まで無かった穴に足を取られて転んでしまった少女は床にぶつけて痛む足をさすりながら背後に目を向けました。


(見たくない。見てしまったら、すぐそこまで来ている現実を知ってしまうから)そう思いながらも知らない事への不安は少女の身体を振り向かせます。


目前に迫る鉈を持った客人を目にした少女は「誰か、助けて――」と叫びました。


その後、否、叫びと同時に窓を突き破った侵入者に剣で切り付けられた客人は鉈で受け止めます。


少女を庇う様に鉈を持った者と戦った侵入者は逃げて行く客人を追いかけませんでした。


振り向いた侵入者が持つ剣を目にした少女は(殺されるかも知れない)と思い死ぬ恐れを抱きます。


侵入者が持っていた剣が煙の様に消えて驚いていた少女は差し向けられた手に気付くのが遅れました。


「怪我はないか?」と聞かれた声を辿った少女は整った顔立ちの青年に助けられた事実にやっと気づきました。


物語の様な展開に緊張している少女は「大丈夫……です」と答えて差し出された手を握ります。


握り返された手を引かれて立ち上がった後「ありがとう……ございます」と言った少女は青年から「ああ」とぶっきらぼうな返事を受け取ります。


愛想のない返事を悪く思わなかった少女は助けてくれた彼を物語でお姫様を助けた騎士様に重ねていました。






握り続ける青年の手にひかれながら屋敷の外に出た少女は昼間とは見違えた大きいだけの古ぼけた屋敷を目にしました。


(歩き続ける青年は私をどこに連れて行くのかな)そう考えた少女は「何処に行くんですか?」と青年に聞きました。


「安全な場所だ」と言った青年の返答は間違っていませんが少女を安心させられるには言葉が足りません。


想像と異なる屋敷を見て(みんなはどうなったのかな?)そう思った少女は「みんなはどうするんですか?」と青年に聞きます。


屋敷に居た悪魔たちを知らない青年から「みんなとは誰の事だ?」と聞き返された少女は「私のお世話をしてくれた優しい……動物さん? たちです」と答えました。


「それは悪魔の事か」と呟いた青年の言葉を耳にして「悪魔?」と呟いた少女は抱いた疑問を口にしていました。


青年から「君の言うみんなが悪魔の事なら、おそらく、あいつに殺されたはずだ」と言われた少女はみんなを失った悲しみに打ちひしがれました。


失言したと言わんばかりに気まずそうな青年の後悔している様な表情に気付いた少女は「守ってくれた彼を気落ちさせてどうするの」と思いました。


精一杯、明るく「どんな所ですか?」と質問して話を逸らした少女は「賑やかな処だ。君の様な魔人が沢山いる」と答えた青年の表情は少し後悔が薄れていました。


抱いた疑問「魔人?」を口にした少女は「知らなかったのか」と青年から驚かれます。


その言葉を聞いて再び青年の表情が後悔し始めてしまいました。


咄嗟に「ごめんなさい」と謝った少女は「君が謝る事じゃない。悪いのは失言した僕だ」と青年から言われます。


「表情を曇らせたのは私だから」そう思う少女は青年の主張が正論だとしても自分が悪くないとは思えませんでした。


森の中を歩き続ける青年の手を握りながら横を歩く少女は外に出させてもらえなかった理由が知れると思い「魔人ってなんですか?」と質問します。


青年から「魔人って言うのは魔物と一体化した人の事だ」と答えられた少女は「魔人は外に出られないんですか?」と質問します。


「君の言う外に出られない訳じゃないけど、行動できる範囲は限られている」と答えられた少女は(私の思う外とは違う)と思い「どういう事ですか?」と質問しました。


「この世界には魔という超常的な存在がいて、その魔に秩序を与える魔法が存在するんだが、その魔法を無効化する魔界源なる物が存在するんだ」と語られた少女は「魔界源?」と聞いたら「魔界源に浸食された領域を魔界って言うんだが。魔界の魔は魔法に従っていないから超常的な現象を発生させられるんだが、その一つに臓器の代用があるんだ」と続きを語られた。


「臓器の代用?」と聞いた少女は「ああ、機能不全を起こした臓器の代用品を作る事で生物を生き永らえさせる技術なんだが」と青年が語っている途中で「私の臓器も?」と聞きました。


「検査していない以上、憶測を脱しないが、それ以外に君を屋敷から出さない理由はない。あの屋敷には魔界源があったはずだからな」と言われた少女は「鉈を持った人が来たのも……?」と聞きましたら。


「おそらく」と肯定された少女は(お父さんが帰って来なかったのもそれが原因なのかな)と思い(私のせいでお父さんやみんなが犠牲になったかもしれない)と考えて罪悪感を抱きます。


落ち込む少女を慰めたくても悪魔を犠牲に生き残った罪悪感を薄められる何かを知り得ない青年は唯々手を握る事しか出来ませんでした。


森を抜けた二人を待っていたのは広い平原です。


前方に手を突き出した青年は「魔車ノ召喚」と唱えます。


唱えた言葉に応じたのか青年の掌から流れ出た弱い光が馬車の様な乗り物を形作りました。


馬車を引く動物は馬ではありません。


(本で見た馬と違う)そう思った少女は「この馬はなんですか?」と青年に聞きます。


「馬じゃない。魔物の動物だ」と答えられた少女は「魔物?」と聞きました。


「魔物は魔を具現化させた物だ。あいつと戦った時に使った剣も魔術で作った魔物だ」と言い「魔剣ノ召喚」と唱えた青年の掌から流れ出た弱い光は剣を形作りました。


形作られた剣を見た少女は(お父さんも魔術? で魔物を作っていたのかな)と考えていましたら。


青年から「行くぞ」と言われた少女は馬車に乗ってから考えようと思い青年のエスコートを受けながら馬車に乗りました。




終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る