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「危ない!」
赤信号なのに横断歩道を渡ろうとした女の子の手を、かろうじて俺は掴む。
キョトンとした顔で振り向き、女の子は俺の顔を見上げる。俺はしゃがんで彼女に目線を合わせる。小学校の低学年くらいだろうか。
「まだ信号が赤だから、渡ったらだめだよ。信号が青になっても、右見て左見て、注意しながら渡るんだよ。いいね。ほら、青になったよ」
俺は歩行者用信号を指さす。だが……女の子は動こうとしない。そして、その顔がみるみる歪み、泣き顔に変わる。
「うわああああん!」
え、ちょっと待ってよ、俺、なんか悪いこと言った?
「ママー! うわあああん!」
まずい。この子のママに見つかったら、まるで俺がいじめて泣かせたみたいじゃないか。
だが、彼女のママらしき人は、どこにも見当たらない。
「ママ―! どこー? ママ―!」
……もしかして、これは、迷子という奴か?
ううむ。どうしたものだろう。
だけど、よく考えたら、
「それじゃ、一緒にママを見つけに行こうね」
「うわあああん!」
女の子の号泣は止まらない。俺は彼女の手を引いて、中けいさつに向かう。
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受付の人に女の子を引き渡す。名前を聞かれたので、「神谷内 章です」と名乗る。女の子は既に泣き止んでいて、ぽかん、とした顔で俺を見ていた。婦警さんが名前を聞くと、「ひかる……」と小さな声で答えた。
彼女のママが見つかったら連絡するか? と聞かれたが、断った。そもそも、その時俺は塾をサボって兼六園に花見に来ていたのだ。家に連絡されたらそれがバレてしまう。
そして俺は解放された。俺は女の子に手を振って別れを告げた。
「それじゃあね、ひかるちゃん」
「おにいちゃん、バイバーイ」
彼女はニコニコして、俺に手を振り返した。
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