赤信号が、消える時。

Phantom Cat

1

「え、俺が新人教育係ですか?」


 俺は思わず聞き返した。


「ああ」課長がうなずく。「もう君も三年目だし、主任になったんだからね。前の会社でも新人教育は経験してるんだろ?」


「はあ、一応は」


「だったら何の問題も無いね。しかも新人は可愛い女の子だぞ。金沢出身だから、君と同郷だろ? ピッタリじゃないか」


 課長は曰くありげに片目をつぶってみせる。


 そういうことか。やれやれ。俺に拒否権はなさそうだ。


「……わかりました」


 ---


「本日よりお世話になります、松島ひかるです! よろしくお願いします!」


 元気よくそう言って、彼女はぺこりと頭を下げる。オフィス内に拍手がわき起こる。


 よく通る声だ。滑舌もいい。そして……ルックスも。


 今時のアイドルグループにいそうな感じの顔立ち。さらに、大きく膨らんだ胸元も、我が営業課のメンバーとしてはかなりの武器になりそうだ。


 全員が一通り自己紹介した後、彼女は俺の向かいの席に座る。


神谷内かみやちさん、ですよね? よろしくお願いします!」


「あ、ああ。よろしく」


 応えた俺は、彼女がじっと俺の顔を見つめているのに気づく。


「な……なに?」


「あ、すみません……なんでも、ないんです」


 少し照れたように、彼女は目を伏せた。


 ……。


 これ、フラグ立っちまったかな。早めにへし折っておくか。


 ---


 自慢じゃないが、俺は女好きがするルックスらしい。確かに昔から女にはよくモテた。と言っても今まで付き合ったのは三人だけだ。決して俺は女たらしではない。


 だけど、男女にかかわらず異性受けする外見は営業としては大きな武器だ。今回、課長はそれを社員教育にも応用しよう、と考えたのだろう。そして、その狙いは見事に当たったようだ。松島さんの視線からは間違いなく俺に対する好意を感じる。


 しかし。


 だからと言って、俺は彼女とどうこうなるつもりは全くない。四年前のあの日以来、俺の心の中では恋愛に対する赤信号が灯ったままなのだ。おそらくそれはずっと消えることはない。


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