ああ、ラスボス様 素晴らしきかな第二の人生

極丸

プロローグ 魔王様、最終決戦にて

「ふ、ふふふ……敵ながら素晴らしいぞ、勇者よ。貴様が勇者出なければ我が魔界軍に欲しかったくらいだ……」

「そんなの死んでもお断りだ!俺はここでお前を倒し、魔族との因縁を断ち切りって見せる!」


 曇天の空の下、荒廃した土地にて純白の鎧と神々しい剣を携えた青年と、黒いローブに身を包み仰々しい角を二本生やした異形の存在がいた。

 二人は肩で息を吐きその姿はどちらも痛々しい。

 青年の着込んでいる鎧には所々にひびが入り、異形の存在の腹部からはおびただしい量の血が流れていた。


「は!因縁を断つだと?これほどまでに多くの死者を出しておきながら、何が因縁を断つだ!この死体の数々を見ろ!この腐敗した血の臭いを嗅げ!その剣から伝わる肉の感触を思い出せ!あの時滅んだ魔族の断末魔を聞け!それでも貴様は因縁を断つとまだほざくか!!」

「だまれ!これで終わりだーーー!!うぉぉおおおおおおおお!!!」


 異形の言葉を青年は振り払い、雄叫びを上げながら力を籠める。すると剣から雷光のような光が漏れ出す。しかし、それは非常に弱弱しく、剣からあふれ出るにしては何とも頼りない光であった。


「最後の一振りと言ったところか?だが、虚しいものだな……我との死闘の最後を締めくくる聖剣の光がこれほどまでとは……勇者よ、失望したぞ。その程度で我にまだ歯向かうとはな」

「………………まだだ、まだいける!!」

「ん?」


 異形の言葉に青年は剣を見据えたまま答える。その返答に異形は意味が分からず少しばかり訝しんだが、その答えは直ぐに分かった。


「……威力が上がっている?馬鹿な……あれ程の戦いをしてもなお余力が残っているだと?」

「余力なんざ何処にもない……!!今力を維持するだけでも精いっぱいだ!」

「ならば一体なぜ……」

「これはお前が泣かしたミルスの力……」

「ん?」


 青年は剣を握り締めながら、ポツリと呟く。その言葉は異形には届かず、聞き返すだけだった。


「これは魔族に母親を殺されたイリアスの力……」

「何を言っている?」

「これは俺のために命を懸けて助けてくれた師匠の力……」

「さっきから訳の分らん事を……なんだ?」

   ―――力が増幅している。


 異形はその剣が纏う光が徐々に強まっている事が分かった。それと同時に、自身に対する脅威も。


「分かんねぇだろうな……魔王様には……これは俺が、いや、俺たちが!!今までに築き上げてきた、絆の力だ!!!」

「キズナだと……?なにかは良く分からんが、そんなものでこの私を倒せると思うのか!!いいだろう勇者よ!この私をここまで追い詰めた褒美に、貴様は私が全てを以てして消し炭にしてくれよう!!!」


 剣の光はやがて青年の背丈を優に超え、山すら越える様な高さへと至った。それを見上げ、異形は、魔王は背中から翼を生やし大空へと舞い上がり両手を掲げる。


「これで終わりだ!勇者よ!そして全人類よ!!この一撃を以てして、世界は新たに生まれ変わるのだぁ!!!」

「そんな事……させる訳ねぇだろうがぁあああ!!」


 魔王の手から闇が集まる。勇者の剣に光が集まる。それぞれの対となる存在はやがて輝きを、深淵を極限にまで高め、解き放つその瞬間を待っていた。


「終われ!最終禁忌呪文……ウロボロス!!!!」

「これが……人の力だ、魔王!!!エターナル・スラッシャー!!!!!」


 人類の光が、魔族の闇が激突する。その均衡は激しくもあと一押しに欠けていた。


「「おおおおおおお!!!」」


 どちらかが少しでも気を緩めれば負ける。それは考えずとも分かる未来であった。故にお互いどちらも一切手を緩めることなく押し合いを続ける。が、その均衡は直ぐにも崩れた。


「ぐ……な、何故だ!何故私が……」


 魔王の劣勢によって。

 魔王に何ら落ち度はない。ただただ人類むこうが強かった。それだけである。しかし、それだけだからこそ、魔王は理解を拒んだ。

 

「それはお前が孤独だからだ!魔王!」

「なに?!」


 光の向こうから聞こえる勇者の声に魔王は答えた。


「お前は魔族を蔑ろにし、一人で傍若無人に振舞ってきた!だがそれじゃいずれ限界が来る!それを超えられるのが、仲間だ!」

「仲間、だと……?」

「そうだ!思い知れ魔王!これがお前が侮った、人類の力だぁああああ!!」

「ぬ、ぐ……ぬおおおおおお!!」


 やがて魔王を光が包む。その光と共に、魔王はこの世界から姿を消した。







「……なんだ、ここは」


 魔王は見知らぬ場所にいた。そこには彼の見たことのない建物が立ち並び、彼の横を大勢の人々が通り過ぎて行った。異形であるはずの彼を見ても誰一人としてその存在を気に掛けず、素通りしていく。


「なんなんだこいつらは?何故私に恐怖しない?それになんだか、体が軽……」


 魔王は肩に手を置いて気付いた。そこには自身の手とは似ても似つかないがそこにはあった。


「な、な、な…………!!!!!!」


 その手を見て魔王は震える。やがてそっと手を自身の顔へと恐る恐る近づけた。

 そこには自身が想定していた固い感触ではなく、何度も引き裂き、食い千切り、叩きのめした感触、の感触があった。魔王は全てを理解する。否、理解できてしまった。

 自分が人間に生まれ変わっているという事に。


「なんじゃこりゃああああああ!!!??!!」


 魔王は天に向かって吠えた。

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