第37話

 東門に到着すると、既に戦火は広がっていた。来る途中、相次いで三回鏑矢が別々の方角から聞こえていたので他の二つも戦闘に入っていることだろう。

 両者の激突する場所からあぶれた魔物達の中で向かってくるものだけを屠りながら突き進んでガンジュールさんの下へたどり着くと、笑顔で迎え入れられた。これまでの動向を説明し、加勢を申し出る。

「誠に有り難い。思ったよりも魔物が多くて困っていたのだ。早速、ご助力願たい」

俺の提案に飛びついたガンジュールさんは左右を守る冒険者達が思ったよりも薄く、第一波は持ちこたえられても第二波以降が心許ないとの事。俺が伝えるまでもなく、イッカクさんとホルエスさんは右へ、ミライちゃんとマサツグ君は左へ駆けていった。

「後は第二波以降の規模が懸案事項だ。第一波がこの規模だと第二波は同数で中型ーー知恵の回る魔物が混じる。オークやオーガといった魔物や大型でも知恵の足りないーーいや、足の速いミノタウルスが出てくる」

「おぉ、有名どころが出てきた!ゴブリンも居るのかな?」

「居るぞ。大抵、赤い月状態になるとオーガの指揮で最悪の行動をしてくる、一番厄介な存在だ。女は近寄っちゃいかん」

「はーい。肝に銘じまーす」

解っているんだか良く解らない返答を返す美咲にガンジュールさんは渋面を表した。

「まぁ、君たち二人は朝言ったとおり自由に戦ってくれ。離れたところで数を減らしてくれるも良し、瓦解しそうになったところへ応援に駆けつけてくれるも良しだ」

気を取り直す様にガンジュールさんは俺達の役割を告げ、後ろで控えていた伝令に視線をやる。話し合いは終わりだ。

 テントを出て、戦線を眺める。正面はマルディンの突進を二、三人で防ぎ、レッドウルフへは反撃でしとめている。

 左翼は同じくマルディンとレッドウルフだがマルディンは四、五人で防ごうとしてたまに弾かれている。そうなったところはミライちゃんやマサツグ君がフォローに入って事なきを得ていてちょっと危なっかしい。右翼に対しても同様だ。

「四人の負担が大きいな」

「浮き足立ってる感じがするわね」

互いに思ったことを口に出し合い、どうするかを考える。

「指揮する人が居れば立て直すか?」

「不明確ね。冒険者は基本、誰の下にも付かないから」

「恩人の言うことは聞くだろう」

「助けられればそうね」

「鏑矢、二番か?」

「今一人でも減らすのはマズいわ。今だって四人がフォローに回ってるから大した怪我人が出ていない状況だもの」

「となると」

「マサツグ君とイッカクさんを指揮者に据えて、ミライちゃんとホルエスさんを補佐役に。まとめ上げた後はそのまま最前線に残って貰って冒険者に指示を出して貰う。それが最良ね」

俺が発想を出して、美咲がその発想を知識と照らして練り上げる。二人して頷くと互いを見ないままにそれぞれ向かう方へ駆け出した。

「おぉ、ハジメ殿、助太刀有り難い!」

丁度、マルディンの突撃で四人弾かれた所があったのでマルディンを屠ると、駆け寄ってきていたホルエスさんが声をかけてきた。

「ホルエスさん、イッカクさんを呼んで話を聞いてくれ」

横合いから噛みついてきたウルファングに切り払いを仕掛けながら簡単に今やって欲しいことを告げる。

「相解った!」

俺の言葉を聞くと、ホルエスさんはとって返し、イッカクさんを呼びに行った。その間に、少しでも掃除をしておこう。



 程なくしてホルエスさんがイッカクさんを連れてやってきた。そこで後ろから見た感想と二人にやって貰いたいことを告げると、少し引き締まった表情で頷いてくれた。

 ここはもう大丈夫だろうという事で一旦美咲と別れた場所へ向かうと、美咲が俺を待っていた。

 あちらは美咲が近付くと二人して集まってきて、すぐに要件を伝えられたらしい。

 もう一度左翼と右翼の動きを観察する。先程までバラバラに動いていた時と違い、三、四人で固まって背中を預け、無理なくウルファングやレッドウルフに対処し、マルディンには声を掛け合って三人で防御。そこに四人の内誰かが入ってマルディンをしとめている。

 これなら十二分に耐えられそうだ。そう判断すると、俺達は戦火をすり抜けてイェスディンの森やコーンディッチの群生地が合る方へ向かった。まだ、第二波は観測されていないが来るならこちら側だろうと予想してのことだ。



 コーンディッチの群生地を横目に見ながら更に進むと、遠くの方に土煙が見えてきた。

 あれが第二波であろうか?もう少し近付かないと詳細は解らない。

「一、土煙が見えてるけどどうする?」

美咲にも見えたのか、俺に声をかけてきた。

「俺にも土煙は見えているが、詳細は解らないな」

「全力で近付いてみる?この世界で全力を試してみたいし。で、魔物だったらおっきいのを三、四発打ち込んで南の方に偵察。三、四発打ち込めば多分、東門でも対処できるんじゃないかな?」

「全力、か。確かに今の内に限界を知っておくのは良いことだろう。魔法は、十六分の一程度の魔力を使えばいいな。移動している間に多少回復するだろうから倒れないだろう」

作戦と言うほどでもない行動予定を立てて、一度頷くと俺と美咲は瞬時にトップスピードに入る。瞬く間に土煙の原因を通り抜け、慌ててブレーキを掛けると、その反動を利用して土煙の原因、人型の魔物三種類の頭上へ飛び上がり、魔法を放った。

 一発目は灼熱の火の魔法。焦げるを通り越して骨まで焼き尽くす。美咲は水魔法で群の大部分を濡らしていた。

 すかさず二発目。雷撃魔法を俺が塗れた集団に放って炭化させ、美咲は植物を使って無傷な魔物の動きを縛り始めた。

 三発目は俺が土の中から金属を集めて鋭くし、足元から無数の槍を突き出させて広範囲を刺し貫く。美咲も土魔法で同じ事をした。

 最終は美咲が闇魔法、吸引を限界まで強化し、俺が光魔法、白光を限界まで強化。白光に触れた魔物は消滅し、闇魔法に吸引された魔物も消滅した。

 夢中になってここまでの事を一息にやってみたが、後に残った惨状を見て俺達は戦慄する。残ったのはもうもうと白煙を上げて抉られた形を取る大地だけだったがそこには二百は下らない魔物が居たのだ。それが今、消滅していた。

「うん、本気はマズいわ」

「おう、本気はマズい」

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