第二章

第19話

 あの戦争、・・・・・・戦争?から2ヶ月経った。それまでやっていたのは戦後処理で、ガンジュールさんは男爵から伯爵に陞爵された。領地も回りの領地から下賜されて大きくなったそうだ。

 何故周りから下賜されたかというと、周りの貴族が不正を働いていて、国王はこれを断罪。子爵以下しか居なかったので問答無用で全財産没収の上で極刑。子爵領地は後日改めて下賜されるとの事。

 また、国王はガンジュールさんの清廉さを見習うと国中に発表し、不正に手を染めていた貴族を全て断罪し、最低でも二十五パーセントの財産没収と領地の半分を没収の上で爵位の一階級降格。不服を申し立てた者はシミュリストルの銘が入った罪状文と証拠を公開された上で極刑となった。しかもこれの質の悪いところは不服申し立てを一旦受理し、もう誰も申し立てしないとなった後で一斉に公表したのだ。しかも、シミュリストルが、だ。更には公表すると同時に清廉潔白な騎士を用いての捕縛劇は後世に語り継がれるだろう。

 更に、不正に手を染めていた王族も国王はメスを入れた。王家の血筋の公爵家は言うに及ばず、実子の第二王子や第三王子なども財産没収の上で廃嫡と言う厳しい対応を取った。長男の王太子殿下は、なぜかガンジュールさんに自ら進んで教えを請い、師と仰ぎ見、ガンジュールさんの領地で雌伏の時を過ごして居たらしい。その事にガンジュールさんは度肝を抜かれていた。

 そして、そんな王太子だからこそ清廉潔白であった。ついでに、雌伏の時を過ごして居たときに農業に目覚めたらしく、今後は妻として娶った平民の女性とともに農業に力を入れていくのだそう。

 国王は、自分の妻たちにもメスを入れた。教国に送り込まれ側室に召し上げられた聖女二人の内、他国の侯爵家出身で、わがままで浪費家だった方は断罪の上極刑。正室は側室の女性たちに権力抗争を引き起こし、先頭に立って和を乱したとして極刑。聖女のもう一人は平民出で権力抗争に混じらず粉骨砕身で平民の為に動いていたので正室に迎え入れられた。しかも、その行いが素晴らしいとシミュリストルが絶賛し、聖女の加護を彼女に贈っていた。

 その他の側室は元正室の元王妃の煽動に惑わされ和を乱したとして元の家に送られ、その家の者として断罪された。国王の元には元偽の聖女、現聖女一人のみである。

「いつ断行しようか思い悩んでいたときに此度の事が起こったので便乗させてもらった」

とは国王本人の言葉だ。ガンジュールさんが陞爵する際に俺と美咲も呼ばれて謁見していた。好々爺然とした人だった。王妃は慣れぬ役職についてわたわたと呆然としている。可愛らしいとしか表現できない妙齢の美女だった。

 この行いで、暗愚と呼ばれていた国王はその汚名を濯ぎ、賢王と呼ばれて平民達に親しまれるようになった。元から穏やかな気質で親しまれていたが、そこに今回の件が重なって尊敬も集めるようになったのだ。



 その他に変わったことと言えば、ガンジュールさんから一軒、家を貰った。今回の戦争の功労者で何も褒美がないのは上に立つものとしていただけないそうなので、せっかくなのでありがたくいただくことにした。

 しかし、安易に貰わなければ良かったと思うほどの屋敷が下賜された。領主の屋敷に次ぐ、大きな屋敷だった。

 こんな屋敷貰っても維持できないとガンジュールさんの下へ殴り込んでみたら、

「屋敷の管理は私に任せなさい」

と丸め込まれて送り返された。そして、そこに居着いた武人が一人。

「イッカクさん、何でウチに居着いているんですか?」

「ハジメ殿の側にいれば俺も強くなれると思ってな!」

俺の質問に、イッカクさんは悪びれた様子もなく喝っと笑う。

 捕虜になった教国軍の兵士達はその大半がシミュリストルの加護を賜るこの地の兵になることを望んだ。今はこの地の習わし(?)として農業に従事している。



 季節も移り変わった。立秋も過ぎ、秋分も過ぎた食べ物は夏の味覚から秋の味覚に変わり、根菜類が増えてきた印象だ。

「秋といえば鍋!今日はキノコの出しを取ってポトフ風鍋!」

何を思ったか美咲は昼過ぎから「鍋!鍋!」と騒いでおり、町の外へ出ていろいろと食材を調達していた。テントなどを買ったときについでに買っておいた堅い鉄線を加工して釣り針にし、適当な木の枝に糸で括り付けて釣り竿にして川で釣りなどもした。

 ここでも鑑定は威力を発揮し、独の有無、寄生虫の有無などが分かって大助かりとなった。

 森で採取したのはアオバと呼ばれる、美咲が言うにはホウレン草に似た葉物の野菜、マーシュレンボウと呼ばれる食用キノコ、シリツツと呼ばれるアユに似た魚、マーヴィと呼ばれる鮭に似た魚。

 森から出て河原に行くと、森の中にいた魚とはまた別の魚がおり纏めてミミジュクと呼ばれる魚を何種類か釣れた。

 現代の河原ではそこまで釣れるわけないのでびっくりしたものだ。

 家に戻ってくるとイッカクさんと、何故かガンジュールさんとエリュシアさん、それとヤイガニーさんとエディンバルさんが家に来ていて、なんでもイッカクさんから面白そうな料理がでると呼ばれたそうだ。……なにをしているんだか。まぁ、鍋はみんなでつつくものだから気にしないが。

「がーん、私と一のアツアツお鍋が……」

そんなことを考えている横では何にショックを受けたのか、美咲は顔を青くしている。

 そんな美咲は放っておいて、さっそく準備を始めた。土鍋はないから適当な鍋にキノコを洗って適当に切ってから放り込み、火にかける。火は着火時に魔法を使う以外は俺たちからしてみたら昔ながらの、木をくべるものだ。炭は誕生していないみたいだから庭に炭作り用の窯を用意してもいいかもしれない。あれで焼いた魚はうまいからな。

 あぁ、そうだ。窯を作るなら土鍋も作れるようにしておくといいかもしれない。それとパンとピザ用の窯も良いな。

 時間だけはあるからと妄想を膨らませながら、マイレースと呼ばれる人参に似た根菜やハーレボウと呼ばれる大根に似た根菜、ヤッカルムと言うウサギに似た魔物の肉、ウーラグと呼ばれるうなぎやドジョウのような魚肉を一口大に切りながら鍋に投入。葉物は出来上がるちょっと前だ。

 どういう料理かと美咲に聞いたのか、下拵えが済んで食堂に出てきたら既に酒盛りが始まっていた。そんな事ならと調理場に引き返して昨日酢漬けにしておいたヒューレイと呼ばれるキュウリっぽい野菜を取り出してざく切りにし、フェルリルと呼ばれる唐辛子っぽい見た目と味をした香辛料を輪切りにして上に載せる。浅漬けはまだ出来ないからこれが限界か。

 それなりに用意して大人の前に出してやると喜んで食べてくれた。酢漬けはあるが、この食べ方は無かったらしい。作り方を聞かれ、その単純さに驚かれた。あと、ピリッとした辛味で大いに酒が進むらしい。

 二度くらい様子を見に行くと二度目でちょうどいい感じに鍋の中身が沸騰していたので、それを持って食堂に出て行く。テーブルの上には小ぶりの板を四つ並べて、それを鍋敷き代わりにしておいた。俺と美咲のお玉をセットして全員にそこの深い木の皿を行き渡らせて食べ始める。

 食べ始めるとき、俺と美咲は「いただきます」と唱和したが、イッカクさん、ガンジュールさん、ヤイガニーさん、エディンバルさんはイッカクさんの祈りを先導に復唱していた。エリュシアさんはにこにことしながらそれを眺めている。聞いたところによると、別人として振る舞わなきゃいけなかった時は仕方なかったが偽る必要がなくなったのにどうして自分に祈らなきゃならないんですかと頬を膨らませてプリプリしていた。自分に祈るという行為は案外恥ずかしい行為なのかも知れない。

「でも、地球の神様ってイエス・キリストじゃなかったっけ?生前、確かアッラーか何かに祈ってなかったっけ?」

「地球はアッラーが神様ですよ?と言うか、地球は複雑なんですよ。力の強い神様が居て、その外に中国辺りに五柱の神様が統治している地域があり、日本は組織だった神様の軍勢が統治してるんです。ヨーロッパは昔は日本のように統治されていましたが、ほとんど滅ぼされてしまいましたね。南アフリカ、北アメリカ、南アメリカも同様です。で、キリストは正真正銘アッラーの息子さんですよ。マリアさんとの間の。なので、神の右座に座られたんです」

「ほへー、勉強になるー」

「ここは地球に比べたらできてから日が浅いですからね。地球換算で言えばまだ2日と言ったところかしら。時間軸は一緒なので二日から伸びるのは文化の発展速度になるのです。・・・・・・ですからどうかっ!我々の世界の、文化発展の刺激としてあなた方のお力をっ!!」

「あー、ハイハイ。キガムイタラネー」

エリュシアさんはちょびっとでもお酒が入ると変な方向に吹っ切れることがある。それでなくてもちょびっとだけでもお酒が入ると口が滑らかだ。神様の仕事が忙しくてストレスを溜めているのかもしれない。それでも遊び心やイタズラ心を忘れないのは大物過ぎる。それと、今だから漏らしておくが、この領の噂がシミュリストルの耳に入ってしまい、偶にガンジュールさんが苦しんでいる。加護もモリモリだ。

「して、これはどんな料理ですかな?」

美咲が投げやりにエリュシアさんに応対していると、ガンジュールさんが俺に話しを振ってきた。くたくたになったエリューシュと言う長ネギを頬張って相好を崩している。

「鍋という故郷の料理ですよ。本来は土鍋と言われる土でできた鍋を使って箸で食べる料理です。箸は前にお教えしましたよね?」

「あぁ。確か、短い木の棒を使う食事用の器具だったか。使いようによってはナイフやフォークのように使えるとか」

「そうですね。用途は基本的にはトングと似たようなものでしょうか。先端が細くなっているので幼い内はフォークのように、突き刺して使うこともできますが、マナーとしてはいただけません」

「そう言えばそんな事も言っていたな」

「えぇ。話しを戻しますが、土鍋とはこの鍋と同じくらいの深さをしていて、熱すれば土でできているのでアツアツの状態が長く続き、それを何人かでつついて食べるのです。今回はポトフ風に味を付けていますが、前にお教えした味噌や醤油、その外諸々の味付けができます。水炊きと言ってだしを取ったお汁だけで煮込んで、一人一人好みの味を自分の皿に入れておいて茹だった食材をそれに浸して食べると言う食べ方も有ります」

「一言、鍋と言っても色々と食べ方があるのだな」

「そうですね。まぁ、味付けをしたスープに食材を入れて煮込むだけの料理を総称して鍋と言っているようなモノですからね」

「なるほど。聞けば聞くだけ奥深い」

頷いてガンジュールさんは知識欲を満たしたのか俺に礼を言い、鍋をつつく作業に戻っていく。

「あれ?この人参、大根の味がする!?大根は人参だ!?」

最初の内は空腹を満たすためにがっついていた美咲は、ようやく味の方に意識が向き始めたのか騒ぎ始める。うん?そうなのか?

「人参の味って、確か色素由来じゃなかったか?」

「じゃあじゃあ、白い色ってこっちだと人参の味なの!?」

「知らんがな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る