第2話
さて、色々と長くなってしまったが、この場所の説明をもう一度聞こうか。なにせ紆余曲折は有ったものの、こちらで生きて行かなくてはならなくなったからだ。
何でも、何回も転生しつつ愛し合った二人は神が入り込む余地すら無いくらい魂が密着してしまい、離れると寿命が著しく削れてしまうと言うのだ。
こうした状態を魂の番と言うのだそうだが、神にとって大分厄介な存在らしい。
だからか、召喚の際に魂の番の片割れを召喚する場合、セットでもう一方も召喚を促すのだそうだ。それも、出来うる限り早急に。
と、言うわけで一ヶ月より早く美咲はこちらに来るとの事だった。
それまでは一人で生きなければならないらしいので、それに付随するモノの説明を要求した。
まずはシミュリストルが管理する世界の事。
シミュリストルは下働きだった頃地球の管理者の下で文化に関する管理を行っていたそうだ。そして、その働きぶりや人柄を地球の管理者が気に入り、世界の管理者に格上げしたとの事。
それではと言うことで、気に入っていた文化発想の基礎である剣と魔法の世界をシミュリストルは再現しようとしたらしい。世界的には五千年ぐらい経っているが、実際には出来て二年ぐらいらしい。・・・・・・満足の行く歴史を作るのに五千年ぐらい必要だったとの事。
魔王が現れ、勇者が倒す。それを五回。その他に飢饉が起こり、賢者や聖女が導いて危機を脱する。これを五十回。超高度な魔法文明が起こり、それが滅亡する。それを二回。軍事力を傘に着た圧制、それを妥当すること七回。
それらが並行して起こり、今は地球で言うところの中世ヨーロッパ圏の文明力らしい。そして、先の動乱でいくつかの教訓を得、いくつかの国では治安が現代日本、若しくは江戸時代辺りの良質な所があるらしい。
「現代日本の治安は世界有数ってのは聞いた事があるが、江戸時代は治安が良くなかったんじゃないか?」
俺がそう聞くと、シミュリストルは笑顔で、
「江戸時代の日本ほど治安のいい地域は有りませんでしたよ?所によっては十年間、一度も牢屋を使わなかった記録も有りますし、少なくとも、現行でこの治安に敵う地域はありませんよ」
と言っていた。
現代日本でも治安はかなりいいと思っていたが、それ以上に治安がよかったのか。これは脱帽ものかもしれない。
「さて、簡単な歴史解説が終わったので、次は能力に関する事を説明致します」
この世界では、最初に言ったとおり魔法が使え、その他にはスキルというものがあるらしい。
魔法は神が定義するところの魔術で、基本的には詠唱か魔法陣を使い発動するモノのこと。魔法というのは天地開闢など、神様が振るう権能の事を言うらしい。
しかし、この世界では魔法を詠唱も魔法陣も使わず魔力に働きかける事を言い、魔術は詠唱や魔法陣を用いて行う大規模なものの事を言うらしい。
神様が定義すると魔法が上に来て、人間が定義すると魔術が上に来る程度の理解で良いらしい。
スキルというのは、その者が行える技術を簡単に表記したモノらしい。身分証に扱えるスキルが表示され、適切な職業に着いて効率化を狙って作ったとの事。上限値は決めていないが、習得しているスキルはレベル制で習熟度が表記され、大体、この時代ではレベル百で達人域らしい。
「召喚させていただいたのでこの部分に関しては、地球で行っていた時の強さを二倍にして、それに足る身体能力にしておきました。確認されますか?」
「確認も何も、それって点字じゃないだろう?一人で確認しようにもわからんよ」
「あ、そうでした。なら、あなたに視力を持たせますね」
俺が言って、漸く気付いたのか、シミュリストルは何事かを始める。
「目を開けて下さい。視神経を正常に戻しましたから目が見えるようになっているはずですよ」
「はぁ・・・・・・」
半信半疑で、言われたとおり目を開けた。
気づけば俺は倒れていてシミュリストルが俺に呼び掛けていた。
「も、申し訳ございませんっ!」
「え、えっと・・・・・・?」
俺に意識が戻ったことを感知したのかシミュリストルは謝ってきた。俺は何が起こったのかわからないので聞き返すと、シミュリストルは何が起こったのか説明してくれた。
簡単に言うと視神経が正常に戻り、目を開いたことで視覚情報が普通に入って来たとのこと。しかし、生まれてこの方視覚情報が入ってこなかったので突然の入力に脳がパニックを起こして意識を寸断したと言う。
意識が戻るまでにシミュリストルが資格野を刺激し続けてくれ、もう目を開けても突然気を失うことは無いらしい。
「これが俗に言う九死に一生って奴か」
おどけてみせると、シミュリストルは苦笑いで「笑い事ではないですよ。もう」と俺が気が付いたことに安堵していた。
今一度目を開けてみる。・・・・・・うん。これはなんて言ったらいいのだろう。
「これが・・・・・・世界か・・・・・・」
思わず感嘆の声が漏れる。なんと言い表していいのか分からないが、目の前に色とりどりの世界が広がり、たまに何もなくなる。それを繰り返していた。
顔に意識を集中してみると、瞼が降りるのと同時に何もなくなり、あがるのと同時に色とりどりの世界が広がっている。
「おぉ、これが瞬きの間って奴か」
一瞬という言葉は知っていたが、それを体験すると、どれだけ短い時間なのか理解できる。
殆ど呆然と視界を彷徨わせていると、シミュリストルが小さく咳払いをした。そちらの方に顔を向ける。
「申し訳有りませんが、先に進ませていただきますね。では、まずはこの様に唱えます。『状態確認』」
「『状態確認』」
言われたとおりに唱えると、先刻聞いた『ぶぅん』という音と共に胸の下あたりに何か出てきた。それを見ると、何かが羅列してある。
コガラシ=ハジメ(17)
能力値:
HP:一五〇,〇〇〇
MP:三〇〇,〇〇〇
STR:五,〇〇〇
STA:五,〇〇〇
CON:五,〇〇〇
AGI:五,〇〇〇
DEX:五,〇〇〇
KNO:一,五〇〇
WIS:八,五〇〇
スキル値:
気配察知:七〇〇
剣術:八〇〇
拳術:五〇〇
調理:四〇〇
鑑定:六〇〇
想像:一五,〇〇〇
心理把握(接触):三〇〇
称号:
座頭市
よ、読めん。
「さっぱり読めん」
「え、そうなんですか?どれどれ」
俺のつぶやきに、シミュリストルは俺の方に回って顔をのぞかせ、そして固まった。
「な、何ですかこのステータス!?多少私が底上げしたと言ってもおかしすぎるでしょう!?」
「知らんな」
ややあってから上がった、悲鳴に近い叫び声に、俺はそう答えるしかない。
「因みに、なんと書かれているのかな?」
「HP十五万」
「平均値は?」
「人間だと五百あるかないかくらいです」
「おぉう」
「この世界の最強種族がこの値の半分行けば種族内最高ですね」
「・・・・・・ちなみに、聞きたくはないんだが、その最強種とは?」
「ドラゴン・・・・・・」
「おぉう・・・・・・」
「ちなみに、能力値は人間だと全て平均五百です」
と、言うことは一番低いKNOでも平均値以上って事か。
「因みに、このKNOって言うのはーー」
「ノウレッジ。知識力ですね」
「これは文明力だったか?中世ヨーロッパに比べて現代に生きてるから当たり前な数値か」
「わたくしとしては此処の値はもっと高いと踏んで居たんですがね」
「そこはお前の人を見る目がなかっただけだな。美咲だったらダブルスコア以上行っていたぞ。多分」
「ですがWIS、ウィズダムですが、知恵力ですね。これが想定の倍以上あるのでこの世界にとっては良かったかも知れません。この世界に有るもので無理なく発展してくれそうです」
「そいつは重畳。で、問題のスキル値なんだがーー」
「それはわたしは見ていません」
ん?
「そんな訳ーー」
「見ていないったら見ていませんっ!」
あ、これは聞いても無意味な奴ですわ。ため息を吐いて話を切り上げる。
「当面の軍資金に、五十金貨を用意し、自在倉庫(インベントリ)に入れておきます。使い方は地上へ降りた後、使いたいときに分かるようにしておきますね。地上ではこれの下位互換であるアイテムボックスと、アイテムボックスの下位互換のアイテムポーチが出回っていますのでそれらと同じように使うと不審がられないと思います。服装は、これも地上に降りたときにこちらの世界に合った服装に変わります」
シミュリストルが憂慮事項を口にし、更に質問が無いか確認を取った後、今一度『ぶぅん』と言う音と共に視界が薄くなっていく。
「では、ごゆるりと我が世界、プリンシパリティの旅をご堪能下さいませ」
その声と共に、全ての視界が一色に塗りつぶされた。
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