21歳の葛藤。

@kyoka_yuki

プロローグ

「私たちは親友のままでいるべきだった」

 まりえは最後にそう言った。

 

 去り際に残したその言葉が今も尚、深く暗く直斗の心の奥に沈み込んでくる。それはもはやどれだけ手を伸ばしても、決して届く事のない奥底へとジットリ飲み込まれる。まるで底無し沼だと直斗は思う。やがて腕だけでなく直斗の身体をも石油のような黒い液体に飲み込まれていく。右腕から順に右脚、胴体、そして徐々に左半身も。ネットリとした嫌な感覚がゆっくりと全身を覆っていく。


 いつからだろう、直斗はこの沼から出ようと抗う事をやめた。

 何度試してもこの沼から這い上がれた事は一度もなかった。だんだん抵抗する事が無意味に思えた。どうせ見つかりはしないのだ。失ったものは二度と取り戻す事は出来ない。何度目かの夢で直斗はそう悟った。


 全身が完全に沼に飲まれた。重たい液体の中では身動きが取れない。息も出来ず、次第に苦しくなってきた。朦朧と意識が遠退いていく。

 暗闇の中でたった一人、直斗は願う。

 

 (もう一度……なら)

 

 儚い祈りにも似た小さなその思いは、直斗の意識と共に消えた。

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